ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

百貨店最大手メイシーズ、生き残りをかけた大転換【鈴木敏仁USリポート】

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。アメリカで最大規模の百貨店であるメイシーズが生き残りをかけた変革を図ろうとしている。メイシーズの大転換は他の大型小売業にとっても他人事ではない。

 アメリカの大型モールが、好調な上位少数と業績不振なその他多数に二極化して久しい。

 エンクローズドモールと呼ばれるインドア型が生まれたのは1950年代だ。半日近くをのんびり過ごすことが目的でモールに行くような、ショッピング自体がレジャーだった時代がしばらく続き、全米にモールは大量に建設されていった。

 供給過剰と言われ始めたのが90年代からである。ショッピングがレジャーだった時代が終わったからなのだが、優秀なディスカウント(DS)型のチェーンストアが60~70年代から続々と生まれて、モール外の利便性の高い地域に出店していったこともその背景の一つだった。消費者は足を伸ばしてモールに行かなくても近隣の店舗で買い物済ますことができるようになり、余暇をショッピング以外の別の何かで楽しむようになっていった。

 軌を一にしてモールの核店舗として集客力を誇ったデパートメントストア(百貨店)が弱体化していったのだが、これもDSチェーンが売り上げを奪っていったからである。デパートメントストアとはもともと様々なカテゴリーを集めて部門として区切って売り場を作ったことから付けられた名称だが、例えば玩具はトイザらス(TOYS"R"US)、文具はステープルズ(STAPLES)といったようにカテゴリーごとにDSに売り上げを奪われて、売り場を閉鎖し、最終的には衣料やホームファッションを扱う大型店舗へと変質していった。

 デパートメントストアという業態名はもはやその本質を表しておらず、私はファッション大店と呼んでいる。

インストアショップへの転換

 デパートメントストア業界の最大手はメイシーズ(MACY'S)だ。年商は242億ドルで、2位ノードストロム(NORDSTROM)の137億ドルの2倍弱という規模だが、もちろん成長企業ではもはやなくて、どう変革するかを長く模索してきている。2020年初頭に23年までに全体のおよそ5分の1にあたる125店舗の閉鎖を発表、縮小均衡へと向かっているのである。

 もちろん現在の課題はEコマースだ。アパレル、ホームファッション、ビューティと取り扱っているカテゴリーの多くがECにシフトしており、売り場をどうするかは喫緊の問題である。つまり不採算店舗を閉鎖しながら残る店舗も変革しなければならないのである。

 1つめの戦略として打ち出したのがインストアショップだ。昨年8月にトイザらスとの提携を発表して400店舗への導入を開始、今年に入ってから10月半ばまでの全店舗展開を決めている。売り場面積は93~930平方メートルで、最大売り場は大型のフラッグシップ店舗10カ所にオープンさせるとした。

 これは過去を知っているわれわれにとっては実に感慨深い取り組みである。トイザらスは全盛期に100億ドル以上を売り上げて、玩具シェア25%と言われた最強の玩具DSだった。デパートメントストアから玩具売り場が消えた理由はトイザらスなのである。このトイザらスがデパートメントストアのインストアショップとして復活したのだから、面白みを感じない人はいないのではないか。

 トイザらスの知名度やブランド力は極めて高い。清算などせずに黒字店舗を残して再建することは十分に可能だったと思っている。投資企業による思惑が大きかったようだ。

 もう一つ、ティーン向けアクセサリーを売るクレアーズ(CLAIRE'S)とも提携し、実験として21店舗に導入すると発表している。トイザらスがもたらす客層は小さな子供を持つ世帯、クレアーズはティーンで、どちらも若年層がターゲットだ。デパートメントストアの支持層は高齢化しており、若い世代にアピールする目的もある。

 ちなみにクレアーズは2018年にいったん破綻していて再建の途上である。ウォルマート(WALMART)とも提携し1200店舗に専用の売り場を展開していて、他の小売企業との提携を新しい戦略の一つとしている。

EC用のマイクロ・フルフィルメントセンターへの転換

 2つめの戦略がEC用のマイクロ・フルフィルメントセンター(MFC)への転換だ。35店舗にオートメーション技術を取り入れたMFCを導入するとしている。公表ではトータル9万3000平方メートルで、単純計算すると1店舗あたり2650平方メートルとなって、おそらくワンフロアをすべてMFCに転換するのだろうと推測している。

 モール内への出店戦略を取る店舗の取り扱いカテゴリーのほとんどはECと相性が良い。リースが埋まらない空き物件を小さなフルフィルメントスペースとして、出店している多数の専門店のEC用に使うモールも出てきているし、デパートメントストア撤退後のスペースすべてをフルフィルメントセンターとする事例もある。

 メイシーズのMFC戦略はもはや時代の趨勢なのである。

 売り場貸しやMFC転換を戦略として取る企業はメイシーズだけではない。店舗の変革はすべての小売企業にとっての取り組み課題なのである。

 モールも例外ではなく、次回に取り上げたいと思っている。


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