ビューティ
連載 鈴木敏仁のUSリポート

大手企業が新興企業を育てる「アクセラレーター・プログラム」という生態系【鈴木敏仁USリポート】

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。アメリカでは大企業がスタートアップ企業を育成する「アクセラレーター・プログラム」という仕組みがある。ウォルマートやドアダッシュの事例をもとに、新興にチャンスを与えることで市場を活性化するビジネスの生態系を紹介する。

 アクセラレーター・プログラムとは大企業がスタートアップを支援し育成することを目的として、自社のリソースを可能な限り提供しながら組まれる一連のプログラムのことをいう。一般募集し、選定し、リソースを提供し、そして最終ゴールは当該大手企業との取り引きである。

 アメリカではこのアクセラレーター・プログラムを導入している企業は非常に多く、小売業界も例外ではない。またアクセラレーター・プログラムに加えてベンチャーファンドを自ら設立してスタートアップに投資して資金援助する企業も増えている。新しい企業が登場し成長するのを待つのではなくて、自ら能動的に育成するのが今のアメリカの主流である。

ウォルマートは数千店舗の売り場を与える

 ウォルマート(WALMART)が今年の2月に開始したのが、ビューティブランドの育成を目的としたアクセラレーター・プログラム“ウォルマートスタート”だ。500社強の応募があり、選出された5社の発表があったのが8月である。パフュームのDossier社、スキンケアとウェルネスのUndefined Beauty社、ネイルのPaintLab社、ヘアケアのPardon My Fro社とThe Hair Lab By Strands社の5社で、一連のプログラムを終えた後に店舗での販売が許可されることになる。

 ウォルマートの米国内総店舗数は5300店舗強だが、そのうちの1000~3500店舗の棚に並ぶという。ウォルマートの販売力は桁違いで、その売り場はサプライヤーにとっては奪い合いの世界であり、取り引きが開始されるということは夢のような話でもある。売り上げだけではなく箔が付くことにもなるので、他企業への拡販という次のステップも狙えることだろう。

 ウォルマートスタートが対象としているカテゴリーはヘアケア、スキンケア、ネイル、フレグランス、アクセサリーの4つで、この4つからまんべんなく候補が選出されている。

 選出されるとウォルマートのバイヤーがメンターとなって定期的なセッションを持つことができる。最初は最低でも月に2回、販売開始時期が近づくとミーティング頻度は増える。ウォルマートのサプライヤーとして何が必要なのかという話がテーマとなる。

 またウォルマートのコネクト部門からはデジタルマーケティング戦略、サプライチェーン部門からは商品供給戦略を学ぶことができる。クロスファンクションな教育の機会が与えられるのである。

 さらにウォルマートでのブランド販売に成功している創業者とのセッションも提供される。

 スタートアップ企業にとってはまたとない機会だ。売上や箔だけではなく、このプログラムで得たノウハウは他のいかなる小売企業との取り引きにも応用が効くことだろう。

 ビューティリテーラーとしては、セフォラ(SEPHORA)は2016年に、アルタビューティ(ULTA BEAUTY)は今年6月にアクセラレーター・プログラムを開始している。ディスカウントストアのターゲット(TARGET)は16年、分野はビューティから食品まで多岐にわたっている。

 ロレアル(L’OREAL)やP&Gなど大手ブランドメーカーの多くもなんらかの形でプログラムを実施しており、すべて確認したわけではないが導入していない企業の方が少ないのではないかと思っている。

宅配企業が外食企業を育てる

 とりわけ私の興味を引いているのは短時間宅配のドアダッシュ(DOOR DASH)だ。名称は“DoorDash Accelerator for Local Goods”、対象はカリフォルニアでグローサリーを製造しいてるスタートアップメーカーで、創業者が女性、トランスジェンダー、移民、有色人種と、マイノリティーに限定している。選出されるとウォルマート同様にドアダッシュのリソースを提供してのメンターシップだけではなく、5000ドルの補助金が提供され、最終的にはドアダッシュによるダークストアのダッシュマートで売ることができる。

 またドアダッシュは外食スタートアップでもアクセラレーター・プログラムを実施している。

 アメリカでは宅配企業が取引先としてのメーカーや外食を育てようとしているという点に注目したい。宅配業界がそのレベルまで定着し成熟しているのである。

 プログラムの対象は商品だけではなくテクノロジーやSCM(サプライチェーンマネジメント)といった分野とするケースも多い。リテーラーやメーカーにはそれぞれ必要とされるテクノジーやSCMが存在するのである。

 要するに業界全体で次世代を担う企業を育てようとしているのだ。業界を長期にサステナブルに成長させるには不可欠な取り組みだと思っている。

 ちなみに昔のウォルマートを知っているわれわれ世代にとって、ウォルマートがビューティブランドを育成するなど隔世の感があるだろう。オペレーションのウォルマート、マーケティングのターゲット、と私は表現することにしているが、企業には得手不得手というものがあって、何もかも優れているわけではない。

 ウォルマートにとってのビューティはついで買いの域を出ず、昔は荒れている売り場も多かった。それが今は整理整頓され、“真剣にビューティを売る”売り場となっている。時代は変遷するのだ。

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