アウトドアメーカーのスノーピークが躍進している。2021年12月期の売上高は過去最高の257億円を記録し、コロナに見舞われながらも05年から16期連続の増収を達成。5年で売上高2.5倍という勢いだ。
同社は1958年、登山好きな創業者の山井幸雄が地元の新潟・燕三条で金物問屋として設立。職人技を生かしたオリジナルの登山用具を開発・販売した。1986年に2代目の山井太現会長がオートキャンプ事業を本格始動させ、マーケットを拡大。その後、2012年に現社長の山井梨沙が入社し、14年にアパレル事業を立ち上げると、年間で25億円を売り上げるまで成長した。
20年には“衣食住働遊”を事業テーマに掲げ、アーバンアウトドア(住)、キャンピングオフィス(働)、レストラン(食)、温浴施設(遊)と事業の幅を広げている。新規事業は、主力のギアやアパレルよりも規模は小さいものの、キャンパー以外の層を巻き込み、スノーピークの掲げる“自然志向のライフバリュー”を伝える役目を担う。
地元に根ざす小さなアウトドア企業が、短期間で飛躍してきた秘訣とは?連載では、キーパーソンへのインタビューやステークホルダーの声からヒントを探る。
第1回は、山井梨沙スノーピーク社長へのインタビューをお届け。2012年に入社し、14年にアパレル事業を立ち上げて市場開拓に貢献してきただけでなく、19年末に“The Snow Peak Way”というミッションステートメントを改定。20年に“衣食住働遊”という5つの事業テーマを設定するなど、企業のビジョンの言語化・可視化を徹底し、成長の礎を築く立役者でもある。現職に就任して3年目を迎えた彼女に、これまでの道のりと、今後の野望を聞く。
WWD:昨年は過去最高の売上高を記録し、2022年1〜3月期も前年同期比40%増と好調に推移している。数字では大きな成果を収めているが、ここまで順風満帆だった?
山井梨沙スノーピーク社長(以下、山井):20年3月に就任し、4月にはコロナの第1波が来た。経営者としての経験のなさや未熟さを痛感させられた。結果として売り上げはついてきたが、かねて続けてきた事業が時代の転換に合致しただけで、私の力ではない。しかし、社員一人一人が主体的に動き、新しい価値を生み出し続ける姿勢が見えてきたからこそ、ここまで伸びたのかなと思う。
WWD:それはビジョンを明確にした成果?
山井:そうだ。会長は強いリーダーシップで企業をけん引し、新しいマーケットを開拓した。一方で、受け身のスタッフがいたことも事実だった。そこで私は社長就任以前から、ボトムアップ型の組織づくりに取り組み、年2回の社員総会ではスタッフそれぞれに企業のあるべき姿を聞き、彼らの思いを行動指針としてまとめた冊子を作るなど、ビジョンの可視化と共有を徹底してきた。その成果として、新規事業を活発に企画したり、会社の未来を想像して行動したりと、自らが考え、会社の価値を生み出そうとする姿勢が定着してきた。それが事業の多様化と成長につながっている。
解像度が高いほど社員は行動しやすくなる
WWD:もともとミッションステートメントは1980年代から存在していた。
山井:そこに向けて行動するのは会社のカルチャーだった。しかし、目指すべきビジョンの解像度が高ければ高いほど、社員は行動しやすく、企業活動もより活発になる。その思いから、改めてビジョンの明確化に注力した。
WWD:自身で立ち上げたアパレル事業は、今では売上高25億円に上り、ギアに次ぐ規模になっている。
山井:ファッション業界からスノーピークに入社した当時、アウトドア業界の保守的な体質に驚いた。同時に、自然の中で人間が生きる価値観は、本来は全人類が持っていなきゃいけないのに、アウトドア業界だけがそこに向き合っているムードにも疑問を持った。アウトドアとほかの業界をどうにかつなげられないかと考え、自分の持ち味でもあるファッションから着手した。ファッションというタッチポイントが生まれたことで、「自然志向の強い玄人しか参入できない」というスノーピークのイメージが徐々に変化し、より多くの人に野遊びのバリューを訴求することができるようになった。成果は、売り上げだけではない。
明確なビジョンが
異なる業界との共通言語に
WWD:ファッションで必須となっているサステナビリティも、アウトドアとの共通事項の一つだ。
山井:そう。それぞれ独立した業界に見えても、実は通ずるものがある。自然やサステナビリティだけでなく、「社会貢献したい」「人のためになりたい」という思いは、どの企業も持っているはず。でも、やり方や業界が少し変わるだけで、それぞれが“〇〇業界”とカテゴライズされ、事業が孤立する。それでは成果は最大化できない。われわれは“野遊びによる人間性の回復”というビジョンを明確に持つことで、さまざまな事業に共通の軸を据えることができ、それが異なる業界との共通言語にもなる。
WWD:現状で、“野遊びを通した人間性の回復”の達成度は100点中何点?
山井:100点満点で3点くらい。まだまだだ。最近社員に伝えているのは、“人間性の回復”のもっと手前に、“社会人”から“地球人”へと変わるステップがあるということ。地球人とは、人間も自然の一部であると気付いている人で、都市と自然、人間と自然は分断されているものではないと実感する人だ。アウトドアへの関心は高まっているが、地球人の割合はまだまだ低い。やはり、週末2日のキャンプだけでは限界があり、キャンプフィールドで自然を感じ、家族と過ごす時間の尊さを実感しても、都市に戻るとその感覚を忘れてしまう。その先の価値まで提供するためには、生活のあらゆる側面に介入する事業が不可欠だ。
WWD:その課題を解消するため、事業が多様化している。
山井:その通り。さらにその先には、“村作り”という壮大な構想も見据えている。具体的には、地方創生で成功している徳島・神山町のような地域。ここは人口5000人程度の規模で、外からの人を受け入れるムードを持ちながら、町民が主体的に木を切るなど、本質的で自然志向のコミュニティーを形成している。われわれも“衣食住働遊”の事業で生活の基盤を作り、そこに住む人の中でコミュニティーを創出し、人間のあるべき姿を実現したい。昨年、ゴルフ場だった土地を買い、本社の敷地を15万坪に増やしたのもこの構想があったから。4月にオープンした「フィールドスイートスパ」も、村での遊びの拠点となる。さらに、われわれの村がモデルとなり、全国に広がる可能性もある。夢では終わらせない。
「フィールドスイートスパ ヘッドクォーターズ」徹底解剖
4月に新潟本社の敷地内にオープンした「フィールドスイートスパヘッドクォーターズ」は、温浴施設やレストランが入る同社初の複合型リゾート施設だ。建築面積は2007平方メートルで、地上1階と地下1階の2層構造。スノーピークが運営するキャンプフィールドのすぐ隣にあり、“自然志向”を感じられる施設の全貌をリポートする。
スパ
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レストラン「雪峰」
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レストラン「スノーピークイート」
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客室「ヴィラ」
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客室「住箱」
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物販エリア
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