PROFILE:1961年イタリア・コモ生まれ。2003年、ブランドの過半数株式を買収し会長兼CEOに就任。13年12月、ミラノ証券取引所に上場。19年8月の「ファッションパクト」設立以来、運営委員会のメンバーとしても活動
「モンクレール(MONCLER)」が好調だ。2021年通期決算(12月期)の「モンクレール」の売上高は前期比26.6%増の18億2416万ユーロ(約2353億円)で、昨年にECビジネスを内製化したこと(現在売り上げの15%を担う)や、値上げを行ったことなどが要因にある。他方で同社は20年10月にサステナビリティプランを発表し、21年1月には環境配慮型素材を用いたコレクション「ボーン トゥ プロテクト(BORN TO PROTECT)」を発売するなどサステナビリティに本格的に着手している。レモ・ルッフイーニ(Remo Ruffini)会長兼最高経営責任者(CEO)に、ビジネス戦略とサステナビリティについて聞いた。
WWD:22年1月にファーフリー宣言をした。
レモ・ルッフィーニ会長兼CEO(以下、ルッフィーニCEO):サステナビリティとは、私たちのビジネスを改善するための道であり、今こそさらなる一歩を踏み出すときだと判断した。この決定は、モンクレールの責任あるビジネスにおけるコミットメントと一致しており、イタリアの動物愛護団体「LAV(1977年にイタリアで設立した動物の解放や権利、環境保護を訴える団体)」と建設的かつ長期的に取り組んできたことが基盤にある。私たちは毛皮の廃止とお客さまの期待に沿う品質の適切な代替品の提供を検討してきた。条件を満たす素材を提供できるのは今と確信している。
WWD:「ボーン トゥ プロテクト」について、他と区別してラインを設ける理由は?
ルッフィーニCEO :「ボーン トゥ プロテクト」コレクションは、環境負荷の少ない素材を使用した製品を示し、それは「全て」であり「一部」でもあるといえる。「モンクレール」の「モンクレールコレクション(MONCLER COLLECTION)」「グルノーブル(GRENOBLE)」「ジーニアス(GENIUS)」で「ボーン トゥ プロテクト」のアパレルを展開していると同時に、「ボーントゥ プロテクト」は1つのコレクションでもあるからだ。21年1月はジャケットのみを数点展開したが、22年1月からはフルルックに拡大した。サステナビリティ・ハブとなることを目指している。
WWD:サステナビリティに舵を切ってからの反響は?
ルッフィーニCEO:まず、世界が直面している大きな環境問題に対し、企業として貢献することが重要だ。それは若い世代の間でサステナブルな製品に対しての感度がより高まっている点にも通じる。「ボーン トゥ プロテクト」コレクションを発売して以来、環境負荷の少ないさまざまな素材を使用した製品を発表しているが、まだ十分な割合ではない。
WWD:「2020 - 25サステナビリティプラン」は、気候変動対策、循環型経済、公正な原料調達、多様性の強化、地域社会への還元という5つに焦点を当てているが、数字で語れる進捗があれば教えてほしい。
ルッフィーニCEO:コミットメントには、23年までに従来型の使い捨てプラスチックのゼロ化、世界中の自社拠点で再生可能エネルギーを100%使用、支援を必要とする10万人の人々の寒さからの保護、25年までにナイロンの50%をサステナブルに、30年までに科学的根拠に基づくCO2排出量の削減などが含まれている。
まもなく発表する21年の非財務情報には全ての進捗が記載される予定だ。モンクレールグループが全世界の自社事業においてカーボンニュートラルを達成したこと、エネルギーの80%を再生可能エネルギーでまかなったこと、21年の「モンクレール ジーニアス」のアウターウェアの30%が低環境負荷素材で作られたこと、ナイロンの生産くずはモンクレールが使用している認証を受けたダウンと同様にリサイクルされ始めたことなどが含まれる。また、シングルユース(使い捨て)プラスチックの約87%に再生プラスチックとリサイクル可能なプラスチックを、モンクレールブランドのパッケージの100%に低環境負荷素材を使用した。グループ全体のスタッフの70%が女性、管理職の52%が女性、就業時間中に3500時間のボランティア活動を実施、地域コミュニティに360万ユーロ(約4億5000万円)を投資、過去5年間で8万人を寒さから保護したことなども発表される。
WWD:カーボンニュートラル達成について原動力になったことは?
ルッフィーニCEO:21年に使用するエネルギーの80%を再生可能エネルギーでまかなったこと、社用車の65%を低排出ガスの車に変えたこと、より効率的な冷暖房システムを導入したことなどだ。また、プラスチックリサイクルセンターと太陽光発電システムの建設支援という2つのプロジェクトもオフセットに貢献した。
WWD:パッケージの100%を低環境負荷素材に切り替えたが、具体的にどんな素材を使っているのか。
ルッフィーニCEO:ショッピングバッグとギフトボックスは、再生紙と責任を持って管理された森林から調達した紙を混合し、持ち手はオーガニックコットンで作った。ガーメントカバーは再生ペットボトルから、eコマースボックスは再生段ボールから、シューズとアクセサリーバッグはオーガニックコットンで作っている。
WWD:サステナビリティを進めるにあたり、百貨店など取引先に求めることは?
ルッフィーニCEO:百貨店や卸売先の店がサステナブルな製品の普及に力を入れ、販売する製品に環境や社会への影響に関して、より厳しい条件を設定する傾向が見受けられる。
WWD:モンクレールのスローガン、“かつて私たちは山に登っていた。しかし今、私たちは山を助けなければならない”について、あなた自身、山に入りその変化を体感することはあるか?
ルッフィーニCEO:モンクレールは寒さから身を守るという明確な使命から始まった。新たなスローガンでは、長い道のりであることを認識しつつ、人と地球を守るための取り組みへと発展していく。サステナビリティはグループの発展においてますます戦略的資産となっている。それは、私たちが全てのステークホルダーに示すコミットメントであり、全ての人の未来に対する道徳的な義務でもある。モンクレールでは、人と環境を代表して、それらを尊重し保護するビジネスモデルを推進するため、日々最高のエネルギーを注いでいる。そうすることで、次世代に強いビジョン、新しいインスピレーション、新たな希望を届けることができる。
WWD:今後、ダウンの代替素材の導入は考えているか。
ルッフィーニCEO:コレクションからダウンを削減する予定はない。特殊なテクニカルアパレルには、合成繊維やリサイクル繊維も使用しているが、ダウンは今後も主要な原材料として使用する。私たちのコレクションに用いるダウンは食品産業の副産物を使用している。15年からはDISTプロトコル(Down Integrity System and Traceability)に従って、トレーサビリティと認証を受けたダウンのみを使用している。DISTプロトコルは、サプライチェーン全体を通した科学的アプローチにより、トレーサビリティ、高い飼育基準、動物福祉を確保することを目的に外部専門家と共に開発されたものだ。ダウンのサプライチェーンにおける全ての事業体は、独立した資格を持つ機関による検査を継続的に受け、議定書の厳しい要件を遵守している。
WWD:ダウンのリサイクルを始めたとか。
ルッフィーニCEO:21年には、従来と比較して水を70%削減する革新的な機械的プロセスによるリサイクルを開始した。DIST認証を得たもので、現時点でこのリサイクルは売れ残りの商品で行っている。
WWD:公平な原料の調達について。現在、原料の何%がトレーサブルか。そのうち何%が公平な取引で調達したもので、サステナブルな素材か。
ルッフィーニCEO :15年から製品の核となるダウンは全てトレーサブルで、現在はナイロン、コットン、ウールにも着手し、23年までに完全なトレーサビリティを達成することを公約に掲げている。
WWD:多様性の強化に関して「職務や文化間の枠組みを超えた新たな組織モデルを導入する」予定とあったが、具体的にどのような組織になるのか。
ルッフィーニCEO:モンクレールは、さまざまな視点、背景、文化の豊かさを常に信じてきた。「モンクレール ジーニアス」プロジェクトは、多様な感性を持つさまざまなデザイナーのビジョンをいかに重要視しているかを示す一例だ。20年には、社内外で包括性と多様性の価値を強化するため、ダイバーシティ&インクルージョン委員会を設立した。多様性を育み価値を認め、ますます包括的な文化を推進するために、社内外の意識改革に取り組んでいる。一人一人の個性を歓迎し、高めることができる職場環境を醸成するため、研修、インクルーシブ・リーダーシップ・ガイドライン、啓発キャンペーンに取り組み始めている。
WWD:地域社会への還元は具体的に何を行っているか。
ルッフィーニCEO:モンクレールは常に地域社会を支援し、慈善団体とのオープンで協力的な対話を構築することに尽力してきた。このアプローチは、企業が自社のコミュニティと調和し、尊重することによってのみ繁栄できるという知識に基づいている。過去5年間のモンクレールとユニセフのパートナーシップ“WARMLY MONCLER FOR UNICEF”を通じて、何千人もの乳児や子どもたち、その家族に対して、医薬品や生活必需品、新生児キット、寒さから守るための毛布などを提供する越冬プログラムに焦点を当ててきた。また、“WARMLY MONCLER”プロジェクトの傘下で他の組織と提携し、寒さから人々を守るためにモンクレールのウエアを寄付している。ユニセフや他の団体と協力することで、過去5年間で8万人の子どもたちや困っている人たちを寒さから守ることができた。子どもたちの未来は、モンクレールにとって特に大切なテーマであり、医療や適切な教育、穏やかな成長への道を保証するために、長年にわたって支援を必要としている新しい世代をサポートしている。