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モンクレールCEOが語る ロックダウンと今後の展望

 イタリアでは新型コロナウイルスの影響で3月9日からロックダウンが続いており、モンクレール(MONCLER)の2020年1〜3月期決算は売上高が前年同期比18.0%減となった。しかしレモ・ルッフィーニ(Remo Ruffini)会長兼最高経営責任者(CEO)は、同社の今後に自信があるという。スキルや才能、財政面での強みを生かし、CEO自身とチームのエネルギーを注ぎ込むことで“以前より強い企業”になっていくための長期的戦略を掲げている。

 ルッフィーニCEOは今回のインタビューで、新型コロナウイルスのパンデミックが収束した後のシナリオだけでなく、個人的な記憶や好きな音楽を取り入れた充電方法、そしてチームとのつながりの重要性も語ってくれた。

WWD:モンクレールの従業員専用の非公開インスタグラムアカウントの開設を思いついたきっかけは?

ルッフィーニCEO:ロックダウン中にみんなが考えていたと思うが、私はステイホームを意識するようになった当初から、顧客とのコミュニケーションだけでなく社内のコミュニケーションも重要だと考えていた。コレクションはもちろんのこと、サプライチェーンや物流を守ることは必須だ。しかし、それよりも先に維持しなければならなかったのはモンクレール従業員の士気、そして物理的に離れていても従業員同士のつながりを保つことだった。従業員がひとつになることが私たちにとっての基盤だ。今は再開の話でもちきりだが、現時点では家族の一員だと感じられるようなモチベーションの高いチームでいることが何より大切だ。

WWD:世界では多くの企業が従業員に休暇をとらせ、また何百万人もの人が職を失っている。だから、あなたの考え方はその対極にあると言える。ロックダウン当初は従業員たちが孤独を感じ、ブランドとのつながりを失うかもしれないと感じる可能性を危惧していた?

ルッフィーニCEO:私たちの持つ価値観が失われれば、非常に大きな損失となるのは明らかだった。私がまず真っ先に考えたのは、従業員の健康と給与を守るのが急務だということだった。しかし、モンクレールでは常に“社員の士気”がキーワードということもあり、3つ目の問題点は間違いなくそれだと思った。従業員の士気が足りなければ企業としての成長はない。この1カ月半の道のりは簡単ではなかったが、本当に難しいのは、イタリアのロックダウン措置が段階的に解除される5月4日からだと思う。そこで市場でのダメージを目の当たりにするだろうからね。政府がどのように対応し、市場には何が起こるか。私たちの仕事は、コレクションを届けるべく企業活動の再会に向けて準備をすることだ。しかし、消費者の考え方がどう変わっているかわからない。私たち企業に課せられた部分は努力できるが、市民や企業へのサポートなど、政府が行わなければならない部分も多い。でも、米国や中国をはじめとしたすべての政府がうまく対応しているようにも見える。消費者感情は政府の動きにかかっている。今回の危機で、企業は間違いを正し、適切な優先順位をもって現状に即した形をとる機会に恵まれた。私は自分たちを気の毒だとは思わないようにしているし、市場に柔軟に対応できることが大きな利点のひとつであると考えている。そして私たちは、以前とは違う新たな戦略を構築する。ただ先を急ぐのではなく、企業価値を見直し、過去を振り返りながら新しい未来を創っていく。

WWD:イタリアのジュゼッペ・コンテ(Giuseppe Conte)首相は4月26日、ロックダウンの規制を5月4日、18日、そして6月1日と段階的に緩和する方針を発表したが、これについてどう思う?

ルッフィーニCEO:私たちの健康に対する危機は経済危機と同様に大きなインパクトがあり、社会に対する大きなリスクも存在している。イタリア人のことをよく知っているならわかると思うが、私たちはもっと早くに活動を再開することもできる。うまくやれるし、健康に関する規則を守りながら必要な仕事に戻ることが可能だ。普段の8月は夏休みを取っていたが、6月にコレクションが発表される前の現時点で40日間も休んでいることを考えると、仕事量は膨大で私たちはリスクを抱えている状態だ。オンラインで働くのはとても簡単だが、私たちの業界では生地の手触りを確かめ、試作品を作って改良するなど、人の手を使う作業も当然ある。産業のそうした部分は会社で行う必要性がある。

WWD:ロックダウンが終わる前に生産拠点を再始動してもいいのか?

ルッフィーニCEO:それは4月27日から可能だ。輸出があるから、すでに4月の4週目からベネト州トレバゼーレゲの拠点を開けて試作品のデザインやリサーチ、開発を限られた人数で行っている。そこを第一にして少しずつ再開していく。従業員全員が同時に職場に戻れるとは思わない。私たち経営陣は落ち着いており、必要とされる優先事項や注意点を承知している。ウイルスの再流行が起きてはならない。規則に従って注意深く作業することを絶対的に最優先としなければならない。業界やそこで働く人びと、そして企業を守らなければならない。さもないと私たちにとってもイタリアにとってもよくない結果となるだろう。

WWD:一部マーケットでは店舗を再開している?

ルッフィーニCEO:中国、そしてドイツやノルウェーなどいくつかの欧州市場で再開している。イタリアでは政府の指示に従って18日から再開する予定だ。まずは生産拠点を再開することが重要で、店舗は安全が確保され次第オープンする。中国や韓国のような状況はヨーロッパでは難しいと思う。中国では日によっては昨年と同様の営業成績も見られるが、欧州やイタリアではそうはいかないだろう。中国には多くの現地顧客がいるが、ヨーロッパでの顧客は40%が旅行客だからだ。アメリカでは新型コロナ危機を打開するために必死の対応がなされているが、米国の店舗をオープンさせるのは最後になると予測している。

WWD:20年1〜3月期決算の売上高についてアナリストと電話で話をした際にあなたは、必要であれば「モンクレール ジーニアス」のプロジェクトを再考することも視野に入れていると認めていた。とにもかくにも会社にとっての長期的ビジョンの必要性を強調していたが、それについて詳しく話してもらえるか?

ルッフィーニCEO:失ったものを回復させるのは当然だが、長期的戦略を見失ってはいけない。20年度の結果を改善する方法はあるが、長期的視野を持ってブランドを存続させていくことが重要だ。私には明確なビジョンがあり、それを進化させることはあっても変更することはない。この四半期の結果だけに目を向けるのはブランドにとってよくない。先を見据えて来年、再来年の「モンクレール」を考えていくべきだ。

WWD:ところで、個人的な充電方法はある?

ルッフィーニCEO:私にはエネルギーがある。それを自分の中で見つけ出そうとしているし、仕事を再開するのに必要な士気も十分にある。この1カ月半の間に起こったことにある意味では満足もしている。うまく仕事を進めるやり方をチームから学ぶことで力をもらえた。会社とのつながりや大家族の一員であると感じられたことからも多くのエネルギーをもらえた。私もチームのみんなも再開の準備はできている。いつどのように再開するのかは私たちだけの問題ではないが、できるだけ早く活動を再開することをみんなが待ち望んでいる。

WWD:ロックダウン中に新しい自分を発見した?いつも以上に自分を見つめ直したということはあった?自粛生活の期間で驚きなどはあった?

ルッフィーニCEO:テクノロジーのすごさをあらためて認識したのは確かだ。私はテクノロジーが大好きだが、それが今回このような働きをするとは思ってもみなかった。オフィスにいるのと同じようにお互いを近くに感じながら仕事ができたからね。社員のつながりを保つために、その日の出来事をチームでシェアするプログラム「エナジープラン(Energy Plan)」を発足させたのだが、それがいい例だ。テクノロジーがみんなのエネルギーを生み出した。本社で働く700人の従業員が参加しており、5月からは世界中の従業員もこれに加わる。それから、社員の健康と給与を保証しなければと考えていたときに、彼らの存在そのものが私自身を守り、安心させてくれていることにも気が付いた。従業員たちは強く、それが私を助けてくれた。何かを与えようとしたときに、全てが自分に返ってくる。この気付きは現状においてなくてはならないものでもある。

WWD:今回のようなスマートワーキング(オンラインを活用した効率のいい働き方)は、長期的に行われるべきだと思う?

ルッフィーニCEO:これまでにスマートワーキングをネガティブに捉えたことは一度もないが、その方向に完全にシフトする機会がなかった。今は素晴らしいやり方だと感じている。デスクが隣り合わせの職場に全員同時に戻ることは難しいだろうから、5月もこの仕事のやり方を続けるつもりだ。子どもがいる人や年老いた家族の世話が必要な人にとっても助けになるだろう。

WWD:インスタグラムの非公開アカウントでは曜日ごとに異なるアクティビティーを発信しており、月曜日はみんなで“モンクレールでの最高の瞬間”をシェアしているそうだが、ルッフィーニCEOの“最高の瞬間”とは?

ルッフィーニCEO:この取り組みは多くの記憶が呼び戻されることもあって大好きなんだ。みんなも話しているように、証券取引所での上場初日のことは私にとっても非常に重要な出来事だった。昨年に初開催したイノベーションのためにアイデアを出し続けるイベント、ハッカソンや、「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」の立ち上げもそうだ。この取り組みはみんなに多くの活力を与えてくれるし、つながりを保つこともできれば記憶のアルバムにもなる。

最高の瞬間について最初に語ったのは私だった。数カ月前の話になるが、昨年12月に英国ファッション協議会(The British Fashion Council)が開催した「ザ ファッション アワード(The Fashion Awards) 2019」でビジネス・リーダー賞を受賞して帰って来たとき、チームのみんながカフェテリアで私を迎えてくれた。全く予期していなくて、大きなサプライズだった。受賞したとき以上に強く美しく心を動かされた。

WWD:非公開インスタグラムでは、毎週木曜日にルッフィーニCEOがゲストを招いてトークをするというが、どのようなゲストを呼んでいる?

ルッフィーニCEO:モンクレールには5つの基本的な価値観があり、ゲストとはその価値観について話をする。毎週100~200人がリアルタイムで視聴している。最初のゲストはイベント会社ヴィラ ユージェニー(VILLA EUGENIE)創業者のエティエンヌ・ルッソ(Ethienne Russo)だった。彼をトップバッターにしたのは、ちょっとクレイジーだからだよ(笑)。彼は「モンクレール ジーニアス」や「モンクレール グルノーブル(MONCLER GRENOBLE)」のショーで私たちに多くの感動を与えてきた。それからジャーナリストのニコラ・ポロ(Nicola Porro)、ルカ・デメオ(Luca De Meo)=ルノー(RENAULT)会長兼CEOも招いた。彼には素晴らしいマネジメント能力がある。トヨタ(TOYOTA)からフィアット(FIAT)に至るまで世界の自動車業界で経験を積み、現在は日本でのスキャンダル後のルノーを再建している。彼らとのトークによって人や価値観を深く知り、将来につなげていきたい。

WWD:ゲストを交えたトークや、従業員専用のインスタグラムアカウントそのものを一般公開することは考えている?

ルッフィーニCEO:私たちにとっての個人的なプロジェクトを公開したいとは思わないが、将来的に続けていくことはできるし、私たちのコミュニケーションの一部にもなり得るだろう。誰かを除外したりはしたくないが、今のところは私たち社員だけのものであり、外部とシェアすることはしないだろう。しかし、新たな展開があるかどうかは様子を見たい。

WWD:過去の広告キャンペーンのイメージをSNSに投稿するなど、コミュニケーションの手法にも変化が見られるが、それによって不確実な状況に直面している現在の世界の不安が軽減されると思う?

ルッフィーニCEO:外部とのコミュニケーションも社内と同じ方法を取っている。パンデミックによって全てのものが古くなり、タイミングを失ってしまった。かわいい女性がかわいいジャケットを着ても今の状況にはそぐわないということだ。過去にうまくいっていたことも価値観が変われば不適切となり、変える必要が出てくる。消費者が求めているものは変わった。製造が停止していたこともありキャンペーンを変更することはできなかったが、フォトグラファーのアニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz)やブルース・ウェーバー(Bruce Weber)による過去のキャンペーンが現在の価値観にマッチしていると感じた。彼らは現在もまだ通用するし、一緒にいるというメッセージも感じられる。過去は私たちの未来だ。もちろん消費者に向けたコミュニケーションは、現在の価値観に合致した全く別の力強いものにするためにも再考が必須だ。困難な状況はこれからも続くだろうが、落胆している場合ではない。危機を脱する頃にはより強くなっているだろう。

WWD:最後にすこし軽い話題を。非公開インスタグラムで音楽のプレイリストを作成していたが、あなたにとって音楽とはどんなもの?

ルッフィーニCEO:音楽はとても大切だ。家に帰ったらすぐに音楽を流す。音楽には素晴らしいパワーがあるからね。古い音楽が好みだ。古い記憶には心が強く揺さぶられる。プレイリストにはお気に入りの2曲を入れた。ひとつはマイケル・ナイマン(Michael Nyman)の「Time Lapse」、もうひとつはウンベルト・トッツィ(Umberto Tozzi)の「Ti Amo」さ。