ファッション

快進撃を続ける「モンクレール」 会長兼CEOが語る革新の哲学

 「モンクレール(MONCLER)」の快進撃が止まらない。それを支えているのは、2018年2月にスタートした複数のデザイナーとの継続的な協業に取り組むプロジェクト「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」だ。その好調な滑り出しにより、2018年12月期は売上高が前年同期比18.9%増の14億2007万ユーロ(約1704億円)、純利益が同33.1%増の3億3249万ユーロ(約390億円)と増収増益を記録。毎月新しいコレクションを店頭に投入するという販売方法も定着させた。そして現在は昨年に続き、全コレクションが一堂に会する期間限定コンセプトストア「ハウス オブ ジーニアス(HOUSE OF GENIUS)」を東京、ミラノ、パリに構えている。

期間限定店を開く理由

 その指揮を執るレモ・ルッフィーニ(Remo Ruffini)会長兼最高経営責任者(CEO)は、「ハウス オブ ジーニアス」について「プロジェクトを始動した頃から、私の中にはすでに“強固なアイデンティティーを持ったポップアップストア”というアイデアがあった。それは、『モンクレール』の『ハウス オブ ジーニアス』の哲学を反映できるようなダイナミックな期間限定店というイメージ。つまり、全てのコレクションを集結させ、デザイナーたちによるアーティスティックな才能の表現をまとめて披露する空間だ。そして、これはプロダクトからコンテンツへの旅の始まりでもある」と説明。「昨年10月にニューヨークや東京、そして同時に世界の百貨店や直営店に開いた期間限定店のコンセプトは、ブランドに対するたくさんのエネルギーを生み出し、成功したといえる。だからこそ、今年も昨年に続き、東京の原宿という魅力的なエリア、ミラノを象徴するヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア、そしてパリのシャンゼリゼ通りに出店した」と話す。

新たに加わった2人の才能

 同店で取り扱っている19-20年秋冬コレクションからは、新たなコラボレーターとして「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)と、自身の名を冠したブランドを手掛けるリチャード・クイン(Richard Quinn)が参加した。藤原ヒロシやピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)ら既存のメンバーも含めると、クチュールからストリートまで、そして、ベテランから若手までをそろえる人選は、多岐にわたるクリエイティビティーや多様性を称える“1つのメゾン、異なるボイス”というモットーに基づいている。「『モンクレール ジーニアスでは、各デザイナーがブランドのヘリテージやDNAを真摯に向き合いつつ、それぞれの解釈による『モンクレール』を表現したコレクションを提案している。私はマシューとリチャードのクリエイティビティーや彼ら自身のコレクションが大好きで、彼らは他者と全く異なる存在だ。だからこそ、『モンクレール ジーニアス』のチームに加わるのにふさわしい。リチャードの作り出すシェイプやボリュームとプリントの扱い方は素晴らしく、とても洗練されている。マシューについても、斬新なファブリックの使い方やハードウエアとの組み合わせ方を高く評価している」。

 そんな個性豊かなデザイナーたちとコラボレーションする「モンクレール ジーニアス」により「ブランドにとってのエネルギーを生み出し、バズを巻き起こすということ」を目指していたというルッフィーニ会長兼CEOは、社内にも大きな影響があったことを明かす。「インターナルなカルチャーにも強いインパクトがもたらされたことは隠すことができないし、非常に誇り高く感じている。このプロジェクトを遂行していくことは複雑であり、大きな組織としてや、経営面、ロジスティック面で大変な努力を必要とする。社内にとっては、新たな働き方、組織、そして新たなリーダーシップのスタイルと言い換えられるだろう。このプロジェクトによって、組織としてさらに柔軟なキャパシティーを持ち、クリエイティブな姿勢に磨きをかけた」。

 それだけでなく、「モンクレール」は革新的なアイデアを出し合う社内イベントのハッカソンを開催するなど、従来のファッションブランドや企業という枠を打ち砕く取り組みを積極的に行なっている。そこには、どんな意図があるのか?「常に心掛けているのは、イノベーションにおける強固なカルチャーを作り出すということ。私にとってイノベーションとは、自然な姿勢であるとともに、それを自由に表現できるベストな環境を会社が提供することだと考えている。全てのレベルにおいて、それぞれが日々のイノベーションを担っているということを感じてほしい。『モンクレール』では、自分たちは常にスタートアップという感覚でいる。そして、スタートアップとしてフットワークを軽く、いつだって新たな挑戦を求め、われわれのユニークさにひもづくスピリットの探求を続けていく」。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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