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「生活必需品」を巡る百貨店の葛藤 エディターズレター(2021年5月14日配信分)

※この記事は2021年05月14日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

「生活必需品」を巡る百貨店の葛藤

 5月12日から緊急事態宣言が延長され、東京都による商業施設への休業要請も継続されました。しかし百貨店やショッピングセンター(SC)の対応は分かれました。営業再開を一部にとどめる商業施設、ほぼ全館に広げる商業施設の両極になっています。今のところ大半の商業施設は前者に属しており「臨時休業」を掲げたまま食品と化粧品、そこに一部の服飾雑貨を加えた程度で営業しています。一方、後者としては高島屋とルミネは衣料品フロアも再開し、実質的にほぼ全館営業といえそうです。おおざっぱにいえば、前者は8割休業、後者は8割営業といった感じでしょうか。

 休業要請から除外される「生活必需品」の定義は自治体で異なります。東京都の場合は衣料品も「生活必需品」に含まれており、線引きは百貨店やSCの各社に委ねられています。一口に衣料品といっても「ユニクロ」「無印良品」のようなカジュアルなブランドから、通勤着・外出着の中価格・高価格ブランドまで幅があり、明確な線引きは不可能です。百貨店各社は、都が掲げる人流抑制という大義名分と、顧客の要望、自社だけでなく取引先まで含めた雇用など、さまざまな影響を鑑みて12日以降の対応を決めました。

 衣料品を再開した高島屋の村田善郎社長は、日本百貨店協会の会長として6日に出した要望書で「百貨店への更なる休業要請は、生活インフラとして再開を求める顧客要望や従業員の雇用不安、更には取引先の業績悪化等を勘案しますと、極めて厳しいものと受け止めざるを得ません」と訴えました。百貨店の休業が人流抑制に果たしたデータも示されずに、単に人が集まるからという理由だけで、百貨店および取引先の雇用まで危険にさらすことはできないという主張です。

 12日時点では百貨店の売り場の大部分を占める衣料品を再開したのは高島屋だけでしたが、そごう・西武が14日から同様に衣料品の営業を再開すると13日に発表しました。今後も続く百貨店が出てくるかもしれません。

 一方、三越伊勢丹は営業フロアの拡大に慎重な立場をとります。新宿や日本橋の店舗は大部分を閉めています。「ファッションの伊勢丹」を金看板にする同社。衣料品の再開について竹内徹副社長は「人流抑制を踏まえると、シェアが高いからこそ衣料品は再開できない」と説明します。同社の試算によると4月25日から5月31日の休業で、売上高290億円が消失する見通しだといいます。ダメージはあまりに大きいと言えます。

 休業要請が出る中での営業再開は感染リスクとも隣り合わせです。店内で感染者を出せば、大きな非難を浴びるでしょう。でも大部分を休業させたままであれば、取引先を含めたスタッフの生活が脅かされてしまう。しかも小売業の休業要請の対象は現実には百貨店とSCだけで、そのほかの大型店は緊急事態宣言中も営業を続けている。矛盾だらけの休業要請を突きつけられ、各社は葛藤しています。

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