ファッション

新生「クロエ」はサステナブル&ソーシャル・グッドに 素材へのこだわりとクラフト感あふれる2021-22年秋冬

 ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)新クリエイティブ・ディレクターのデビューを飾る「クロエ(CHLOE)」の2021-22年秋冬コレクションが3月3日、創業者ギャビー・アギョン(Gaby Aghion)生誕100年に合わせて発表された。夜のサンジェルマン・デプレの街を舞台にしたショー映像でモデルが現れるのは、アギョンが1960年代にショー会場として使っていたブラッセリー・リップ(Brasserie Lipp)などのカフェから。デザイン面でも当時のドレスにあしらわれ、ブランドのシンボルになっているスカラップディテールを随所に取り入れることで、彼女への敬意を表した。

 ファーストルックは、 “パフチョ(PUFFCHO)”と呼ぶ丈の長いカシミアのポンチョとパファージャケットのネックラインを組み合わせたアイテム。ボヘミアンムード漂うポンチョは歴代の「クロエ」のショーにも度々出てきているが、そこにガブリエラはユーティリティーのエッセンスを加えた。コレクションの中心となるのは、彼女が得意とするニットのロングドレス。故郷ウルグアイをイメージさせるマルチカラーボーダーや素朴なオープンステッチニット、肩から腰にかけてラッフルをあしらったデザインなどをラインアップする。そのほか、「クロエ」らしさを感じさせる軽やかなエンパイアラインのシルクドレスをはじめ、ウールガーゼのプリーツトップスやスカート、ナパレザーのドレスやスカート、シアリングのコートなどを織り交ぜ、新たな「クロエ」ウーマンを表現した。

 その女性像の解釈について尋ねると、「例えるならば、『クロエ』はアフロディーテ。そして、自分のブランド『ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)』はアテナのイメージ」とガブリエラ。「アテナは戦士で、アフロディーテも同じように強いけれど、その強さは愛や美、魅惑から来ている。だから、温かみや母性的な愛を放つような魅力的で丸みを感じる女性らしさがある。どちらも力強い女性ではあるけれど、アプローチが違う」と続ける。

 そしてバッグは、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の“エディス(EDITH)”を復刻した。「初めて買ったラグジュアリーブランドのハンドバッグが“エディス”だった。今でも好きで、オマージュを捧げたかった」とし、オリジナルに忠実なデザインを発売するほか、リサイクルカシミアやリサイクルジャカードを用いたものやミニサイズ、トート、ドクターズバッグなどもそろえる。さらに、「新しいことが必ずしも優れているわけではない」という考えから、eBayで買い集めたビンテージの“エディス”をコレクションで余った素材でカスタマイズしたバッグ50点も製作。そのほかにも、スカラップ状のキルティングやパッチワークを施したチェーン付きの“ジュアナ(JUANA)”や、手作業で編み込んだレザーに“C”型のウッドパーツをあしらったスタイル、ニットのショルダーバッグなどクラフト感のあるアイテムを提案する。

ガブリエラ就任で大きく動き出した改革

 「クロエ」は現在、環境や社会に配慮した持続可能なビジネスモデルへの変革の最中にあり、サステナブルな素材やものづくりの知識とノウハウを持つガブリエラがそのキーパーソンになることは間違いない。彼女が就任したのは昨年12月で、“サステナビリティと大義へのコミットメント”をテーマにした今季のコレクションの制作期間はたった2カ月だったというが、すでに大きな前進が見られた。

 特筆すべきは、素材へのこだわりだ。それは、ショー前にコレクションで使用している生地の見本が届き、ショー後に配信されたリリースに各アイテムが何の素材でできているかが書かれていることからも分かる。実際、“パフチョ”やドレスに用いたカシミアは80%以上がリサイクルで、シルクも50%以上がオーガニック。「リサイクル以外のポリエステルやビスコースの使用を止めたり、リサイクルやリユース、オーガニック素材を調達したりとより環境負荷の低い素材を切り替えることで、昨秋冬コレクションと比べて環境負荷は1/4相当になっている」という。また、素材だけでなくパッケージにいたるまでサステナブルなサプライヤーを導入したほか、ミャンマーのマングローブへの植樹を通してカーボンオフセットにも取り組む。

 さらに社会貢献活動として、ホームレスの支援を行うオランダの非営利団体シェルタースーツ・ファンデーション(SHELTERSUIT FOUNDATION)に過去のコレクションの残反を渡し、雨風から身を守るための“シェルタースーツ”を製作。そのいくつかをショー終盤に披露したほか、同団体の活動支援を目的にしたバックパックも販売する(1点販売されるごとにシェルタースーツ2着分の制作費用を出資する)。これについて、ガブリエラは「他者の苦難を認識し救いの手を差し伸べるという目的をパンデミック後の世界での企業努力に織り込んでいくことは、『クロエ』の使命の一部。ラグジュアリーブランドには、その義務がある」と話す。

 一方で、こういった背景にある理念や取り組みはショーやアイテムを見るだけでは分かりづらい部分でもある。「新しいコンセプトを快く受け入れてチームのおかげで、このコレクションを作り上げることができた。ただ、私のメッセージを実現するには、デザインだけでなくさまざまな部門の理解が必要。昔ながらのデザイナーならしないかもしれないけど、マーチャンダイジングやプロダクションの会議にも出席して、その浸透を図っている。(気候変動の悪化を防ぐために)人間に残された時間は限られているから、規模の大きなラグジュアリーブランドのビジネスを変えるには急速な改革が欠かせない」とし、今は社内全体での理解を深めているところだという。その輪を広げていくため、今後はいかに卸先や消費者に伝えていくかが重要になるだろう。

 コレクションとして見ると、今シーズンはパターンの数も限られ、「ガブリエラ ハースト」を想起させるスタイルの印象も強かった。就任から3カ月足らずで抜本的な社内改革と並行してコレクションを準備するのは、時間が十分でなかったのかもしれない。しかし、ガブリエラと「クロエ」が今進めていることは一朝一夕で成し遂げられることではないし、ショー翌日のZoomインタビューからは彼女のメゾンを担っていく覚悟と自信を感じた。「私はブランドが提案するものに対して長期的なアプローチで取り組んでいる。まずこの1年の最大のミッションは、環境への配慮という点での『クロエ』のスタンダードをより一層高めること」と語るように、彼女の壮大な挑戦はまだ始まったばかりだ。

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