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デジコレでドタバタ対談 「マメ」でパリコレ開幕!予想外の豊作ぞろいに感動した初日

 ミラノ・ファッション・ウイークが終了し、2021年春夏のコレクションサーキットもいよいよ最終章、パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が開幕しました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも対談レビューという形で、引き続き“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、パリコレ1日目(9月28日、現地時間)をリポート!各都市のメンズコレクションを取材してきた「WWDジャパン」の大塚千践デスクとパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターの対談でリポートします。

パリコレ前に「JW アンダーソン」でほっこり

丸山:さて、いよいよパリコレがスタート!――の前に、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」がオフスケジュールで発表しました。前日には豪華なキットが編集部に到着。前回のメンズ・コレクション同様、“show in a box(箱の中のショー)”というアイデアで、箱の中から大きなバインダーが現れました。バインダーには、リリースのほかさまざまな色の紙やルックや写真などが詰まっており、ルックを切り取ってみたり、展示したりと受け取った側が好きに“それぞれのインスタレーション”を作りコレクションと関わることができます。

大塚:メンズのときよりも動画に慣れたのか(笑)、ジョナサンのリラックスした語り口に癒されたわ。ボリュームの強弱を極端につけたシェイプに遊び心は感じるけれど、色使いも潔いし、基本的にはベーシックなウエアをベースにしている感じがする。メンズと同じく、長く愛される服作りに気持ちが移っているのかな。あとデザイナー自身の丁寧な解説を発信するのは、なんだかんだでバイヤーやジャーナリストに好評ですね。ジョナサンはメンズで先陣を切っただけあって、ホスピタリティーが抜群でした。

丸山:「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は今回、ティックトック(TikTok)でもライブ配信をしていました。ティックトックで公開された動画は、ユーチューブなどで公開されたボックスの説明の動画のほかにも、アンダーソンによるコレクションの説明が差し込まれていました。ハリー・スタイルズ(Harry Styles)が着ていたカーディガンを作ってみようというチャレンジでティックトックユーザー内の知名度を上げた「ジェイ ダブリュー アンダーソン」ですが、ティックトックのライブの性質上フォロワー以外のおすすめページにもランダムで表示されるので、わかりやすい説明を挿入したのはよい対応だったと思います。

国がサポートを強調

丸山:トップバッターの「マメ(MAME KUROGOUCHI)」を見ようとしてパリコレの公式サイトを開いたら、なんとその前にロズリーヌ・バシュロ(Roselyne Bachelot)仏文化大臣によるスピーチがありました。内容は、リアルイベントは衛生規定を守って行われることや、特に苦しい状況に置かれている新興ブランドにきちんとサポートを行うという宣言でした。フランスでは感染者数が増えていますが、この状況を受けて安全性を強調したのかもしれません。日本政府が東コレ開催前にこうしたスピーチを行うとはちょっと想像できないのですが、やはりフランスは国全体でファッションを盛り上げようという姿勢を感じました。その後、女優のシャロン・ストーン(Sharon Stone)が登場してパリコレ開幕を宣言しましたね!――と言いつつ、ちょっと自分はシャロン・ストーンがピンと来ずだったのですが(笑)、何か有名な映画に出演されてますか?

大塚:シャロン・ストーンといえば「氷の微笑(Basic Instinct)」でしょ!って言っても昭和世代じゃないとわかんないか……。まだまだお若い姿を見られて、深夜だけど元気出ました。動画の画質はもうちょっと何とかならなかったのかと心の中でツッコミつつ、アンバサダーがパワフルでオシャレだとわくわくしてくるね。

丸山:自分のWi-Fi環境が悪いのかと思いましたが、やっぱり画質悪かったですよね(笑)。指を鳴らして開幕を宣言したのがキュートでした。

窓を通して記憶を辿る「マメ」

丸山:いよいよパリコレのオフィシャルスケジュールがスタート!トップバッターの「マメ」は写真家の奥山由之による映像を公開。窓からの日差し、カーテン越しにうっすらと見えるドレスなどを曇りガラスを通して見ているような繊細で美しい映像なのですが、プロデューサーのSeihoによる音楽とも相まってちょっとゾクっとするような、冷たさもある仕上がりになっていました。

大塚:先ほどの「氷の微笑」ではないけれど、「マメ」も奥山由之による映像のもやっとした質感とムードに昭和の美を感じた。今は何でも鮮明に映し出される時代だからこそ、こういう奥ゆかしさを含んだ表現につい見入ってしまったよ。作家性が強いから、ルック写真とセットで見ないと全体像はつかめないけどね。世界を舞台に、堂々と和の創作で挑むスタンスがかっこよかった。世界の人がどう見たのか気になるね。

丸山:そうですね。パリコレの公式サイトもニューヨークのように動画とルックがセットで見られるとうれしいんですが……。コレクションのテーマは“窓”で、すりガラスをイメージしたニットや格子柄のアイテムが登場しました。特に黒河内真衣子デザイナーは、カーテンには住んでいる人の記憶や日差しの色が染み込み、その人らしさが出ると考えているそうで、レースカーテンのような刺しゅうを施したドレスや、日に焼けたカーテンのようなイエローがかったワンピースなどにその思考が反映されていました。リリースとは別に黒河内真衣子デザイナーからの手紙も入っていて、これがすごくよかった。黒河内さんがコレクションに至るまでの考えてきたことや見てきたものの回想録のような内容なのですが、コレクションをスッと自然に理解することができましたし、一字一句に「マメ」らしさが反映されている美しい文章で、全文掲載したいくらいです(笑)。配信に先立ってアポイントメント制でメディアをアトリエに招いて、黒河内さんがじっくりと制作背景を説明されたそうですよ!うらやましい!ちなみにそのリポートはこちらから読めます。

「ウェールズ ボナー」

丸山:「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」はデザイナーの父親の出身地でもあるジャマイカで撮影した映像を公開しました。映像では8人の若者が目的地にたどり着くまでの様子を表現したそうで、自然の中でスタートした映像は次第にカラフルなジャマイカの街に移ります。コレクションは、ジャマイカの名作映画「ロッカーズ(ROCKERS)」にインスパイアされたそうです。

大塚:「ウェールズ ボナー」の映像はかなりコンセプチュアルだけど、ルックで服を見ると一時期に比べて肩の力が抜けて、いい意味で“隙”ができたクリエイションを継続していた印象。私生活が順調なのも関係しているのかな。シャープなテーラードを主軸にしていたころはすごみがある一方、ストイックすぎてちょっととっつきにくかったんだよね。それが1月に発表した2020-21年秋冬にリラックスしたムードが強まって、今シーズンはスポーツウエア色が濃くなって快活さもプラスされていた。とはいえまだまだハードルが低い服ではないのだけど、昔ながらのデザイナー気質がある骨太な彼女の姿勢はいつか化けそうな気もするので、僕は応援したい!

「キムへキム」

丸山:「キムへキム(KIMHEKIM)」が公開した映像は、モデル同士がふざけあったり、ライトで遊んだりとルック撮影の現場の裏側のようでほっこり。コレクションテーマは“Dreams in the City”。まばゆい都市の中で自分自身を探す人に捧げたコレクションだそうです。ブランドはパリ拠点で生産はデザイナーのキミンテ・キムへキム(Kiminte Kimhekim)の出身の韓国で行っているのですが、キミンテはソウルでロックダウンを過ごし、自分を信じることや情熱を持つことの大切さを再確認したそう。そう考えるとテーマが“Dreams in the City”となったのも納得です。

大塚:さわやかなBGMとモデルたちの自然な様子に対し、服はゴリッゴリにモードなのがちょっと笑っちゃった。フォーマルの脱構築的クリエイションは世に溢れているけれど、彼の強みって何なのでしょう?

丸山:2シーズン前にパリコレデビューした比較的若いブランドなのですが、大ぶりのパールでドレープを作ったデザインの“ヴィーナス(VENUS)”シリーズや、デザイナーの出身地である韓国の韓服にも使われるオーガンザを使ったアイテムなど、売れるアイコン商品をたくさん持っているのが強みだと思います。若手デザイナーっていろんなアイテムに挑戦しがちですが、彼はアイコン商品を育てて、少しずつアップデートしていくのが上手。今回は自分自身を見つめ直す、という意味でパールではなく鏡を使ってたり、オーガンザも今回はシャープなテーラーリングに組み込んでいます。“ヴィーナス”シリーズはボッティチェッリ(Botticelli)の「ヴィーナスの誕生」に出てくる布のドレープを着想源にしているのですが、今回「ヴィーナスの誕生」が透け感のあるプリントで登場していました。かわいい。売れそうです。

大塚:なるほど。「マメ」や「ウェールズ ボナー」もそうだけど、自身のルーツや自国のカルチャーにまっすぐ向き合うことが、世界と戦う上では強い武器の一つになるのだね。

母国ジョージアの日常を映した「シチュエーショニスト」

丸山:「シチュエーショニスト(SITUATIONIST)」は、デザイナーのイラクリ・ルザゼ(Irakli Rusadze)の母国、ジョージアの日常とともに最新コレクションを届けました。街行く人がストロングショルダーのスーツやペンシルスカートをまとったモデルたちを物珍しく見つめたり写真を撮ったりしているのが面白かった。ジョージアといえば「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の出身国でもありますが、名前は知っていていもこういう日常までみる機会はなかなかないですよね。先ほどの「ウェールズ ボナー」しかり、パリコレなのに世界のさまざまな土地の様子を垣間見ることができるのは面白い体験です。

大塚:「シチュエーショニスト」は母国ジョージアではそれなりに知名度があって、かつブランド立ち上げからはもう10年以上のキャリアがあるのだけど、映像はたぶんほぼゲリラ撮影のインディーズ感バリバリ。デムナ直系の強い色柄の服はもちろん、撮影の舞台となったジョージアの街並みも普段はなかなか見ることがないけれど、かなり個性豊かだったわ。故郷の街の様子を伝えたかったのかな。通行人のおじさんがジロジロ見ていたり、モデルがおばあちゃんの手を引いて道路を歩いていたりしてほほ笑ましかったけど、要素が盛り盛りで迷子になりました。

瞽女に着想源を得た「セシル バンセン」

丸山:「セシル バンセン」といえばコペンハーゲン・ファッション・ウイークを代表するブランドの一つですが、今回はコペンハーゲンではなくパリで発表。コレクションは、1970年代の瞽女(ごぜ)の白黒写真にインスパイアされたそうです。瞽女は三味線を弾きながら全国を転々としながら盲人芸能者ですが、映像は重たい雲が空を覆う北欧の草原から始まり、晴れ間が見える海岸へと移ります。最後の、ビーチに現れた巨大な鏡(?)にモデルが吸い込まれる展開は突然でびっくりしましたが(笑)、美しい映像でした。デンマークのユトランド半島で撮影されたそうです。

大塚:生っぽい「シチュエーショニスト」から一転して、クリアな映像と抜けのロケーションが気持ちよかったですね。最近はガーリーとテーラードのバランス感をものにしてきた印象で、映像も2つのスタイルを表現しているように見えたよ。曇天の草原ではモノトーンのシックな服、ラストの日が差した砂浜ではカラフルなガーリーで、スケールの大きな世界観とともに、さらに力をつけていきそうな予感がした。

「S.R. STUDIO. LA. CA.」

丸山:スターリング・ルビー(Sterling Ruby)による「S.R. STUDIO. LA. CA.」が配信したのは、“VEIL FLAG”と題し、米50州を表す星がない星条旗をまとったモデルがひざまずいた状態からゆっくりと立ち上がるという映像でした。音声は教えをたたき込むように一人の男性が言った言葉をもう一人の男性が繰り返すというものでしたが、最後の“President of Grand Dragon”はドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領のことをやゆしているのでしょう。“Grand Dragon”はKKK幹部の呼び名。プレジデントはこの場合は総統ではなく大統領と捉えられます。さらに“marching against leaderless leadership(リーダーなきリーダーシップに抗して行進する)”という文言は、ホワイトハウスに向かって行進したBLM運動を想起させますね。白人至上主義と指摘されている現大統領を批判し、11月の選挙で退陣させることを呼びかけているのだと理解しました。

大塚:こりゃもう完全にアートですね。意味深な冒頭で何が起こるんだろうと凝視していたら、星条旗広げて終了しちゃった(笑)。コレクションの全貌はまだわからないけど、さすがアーティスト発のブランドという感じ。背景にちゃんと意味を持たせつつ、表現は振り切ってるわ。昨年の「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」でデビューショーを見たんだけど、震えるほどかっこよかったのです。一点一点が服というより“作品”という印象で、見た目以上の強さがあるというか。その分、価格も非常にかっこいいのだけど。代名詞のブリーチ加工が施されている星条旗は650ドル(約6万8000円)でした。正真正銘のただの布なんだけど、なんか欲しくなるほど引かれてきた。

丸山:650ドルはなかなかの値段ですが、動画のクレジットにも出てきたアメリカ自由人権協会(ACLU)に売り上げの一部が寄付されます。ACLUは、6月にBLMのデモ隊がホワイトハウスを包囲した後、トランプ大統領が教会を訪れることを理由にデモ隊を武力で解散させたとして、大統領などを相手取って訴訟を起こした団体。そこに寄付されることを考えれば、ちょっとお安く感じるかも(!?)です。

大塚:ちなみに彼はラフ・シモンズ(Raf Simons)とあらゆる形で協業しているもの有名だよね。ラフの「プラダ(PRADA)」デビューは、盟友のピーター・デ・ポッター(Peter de Potter)のグラフィックを採用していたけれど、今後はスターリング・ルビーも絡んできたりして。ああ、妄想が勝手に膨らんでいく!ちょっと、今日面白くない?知名度でいうとまだまだこれからのブランドばかりで、個々に見るとクオリティーや方向性はバラバラなのに、続けて見るとアイデンティティーを強く打ち出そうとする姿勢が共通してる。しかも自分たちのルーツを発展させて表現しているから、ファッションを通じて異文化が競演する様が映像を通してでもわかるぐらい面白い。

丸山:そうですね。これまでは外の世界に着想源を得ていたけど、ロックダウンで外に出れず、また考える時間も多くなったからか自分自身のルーツや考えを反映したブランドが多かったですね。パリコレ1日目は若手ブランドや、初めてパリコレの公式スケジュールに加わるブランドが多いので、インディーズ感満載の映像を予想していましたが、いい意味で期待を裏切ってきたブランドが多く面白かったです!

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