ファッション

ランジェリー業界のゲームチェンジャー vol.5 世界に一つのビスポークランジェリーで女性に自信を与える「チヨノ・アン」のイェガー 千代乃・アン

 洋服に比べると使用する資材やサイズ展開が多く生産ロットも大きい下着は新規参入が難しく、大手下着メーカーやアパレルメーカーによる市場の寡占が顕著だ。新陳代謝もあまり進まなかった印象の下着業界だが、ここ数年D2Cブランドが増加したり、SNSを通じた情報発信が活発になったりして、30代の女性を中心に新たなムーブメントが起こっている。そんな下着業界に新風を吹き込むゲームチェンジャーらにインタビューし、業界の今、そして今後の行方を探る。

 第5回に登場するのは、ビスポークランジェリーブランド「チヨノ・アン(CHIYONO ANNE)」のイェガー 千代乃・アン 代表兼デザイナー。海外で育ち、日本に留学中に下着が女性のマインドにもたらす影響について研究した。ロンドンでデザインと技術を学び、日本で起業というプロフィールからも分かるように、国際的な感覚と独自の感性を併せ持つデザイナーで、その物作りに対する姿勢はテレビ番組の「情熱大陸」で紹介され注目を浴びた。一対一の会話から生まれる世界で一つのランジェリーを身に着けることで、その人自身の美しさを表現し、自信を持ってほしいと願いながら製作に取り組む。

――オーダーメード、オートクチュールでなく“ビスポーク”とする理由は?

イェガー 千代乃・アン代表 / デザイナー(以下、イェガー):“ビスポーク”とは、私がテーラー技術に触れたサヴィル・ロウで使われる言葉です。ご存知のように“bespeak(to be spoken for/会話する)”が語源で、顧客とデザイナー兼クラフツマンが会話しながらともにイメージする一点ものを作り上げていくというもので、その2者の関係性に深さがあります。それは私のデザイナーとしての哲学です。こちらのデザインを押し付けるのではなく、顧客とのコミュニケーションから生まれるデザインを大切にしたいと常に思っています。顧客が心地よいと感じるもの、美しいと感じるものを一緒に発見するプロセスはとても貴重な経験です。自分の中の新しい一面を知り、自分のために作られたランジェリーを身に着けることで自信が生まれ、幸せをさらに感じられるようになっていくと信じています。

――さまざまな選択肢がある中で“ランジェリー”を選んだ理由は?

イェガー:いくつか理由がありますが、その一つが、10代のころに自分に合う下着が見つけられなかったことです。当時、イギリスに住んでいたのですが、小柄な私の体形に合う小さなサイズのブラジャーはジュニア用で少しある程度。私はファッションが大好きで、友人たちはランジェリーのおしゃれを楽しんでいるのに、私はそれができないことにすごくコンプレックスを感じていました。もう一つは3歳から習っていたバレエのレッスンでの経験です。私が所属していたロイヤル・バレエ団には採寸して体にぴったり合ったコスチュームを作ってくれる衣装係がいて、その衣装はどの服より、どの下着より体にフィットして動きやすく、最高の着心地。それを着て踊ると心から自由になれ、自分を表現することができました。その忘れられない感覚と経験が、ビスポークランジェリーを選んだ主な理由です。

19歳のときに見た下着広告に
カルチャーショックを受け、
日本での起業を決意

――イギリスで起業するという選択もあったと思うが、なぜ日本で?

イェガー:私が通っていたロンドン大学の東洋アフリカ学院は非常にリベラルで、マイノリティーの声を大事にし、フェミニズムに対する関心が高く、活動家の友人もたくさんいました。そのような環境の中で生活していた私は、19歳で日本に留学したときに見たある下着の広告にすごく驚きました。それは、体の段差を防ぐ下着を紹介するものでしたが、年齢を重ねた女性の体を否定するもののように感じられ、大きなカルチャーショックでした。似たような表現はほかにも多くあり、固定概念によるプレッシャー、それがコンプレックスにつながるのだと強く感じました。美しさの在り方は人それぞれであるということを伝えたい、ありのままの体が美しいということを伝えたい、それを実現するには完璧にフィットするランジェリーを作ることだと思い、日本での企業を決心しました。留学を終えてイギリスに戻り、大学院でファッションビジネスやデザイン、技術について学び、再び日本へ帰ってきました。しばらくはモデルをしながら起業のための資金をためて、24歳のときにブランドを設立しました。

――イギリスから移住し、24歳で起業するまでの苦労は?

イェガー:当時は日本語もあまり話せませんでしたから、確かにハードルは高かったです。本気でランジェリーの仕事をやろうとしているのに、ハーフだから、若いから、モデルだからという理由でなかなかビジネスの中身を見てもらえず、スタートまで困難がありましたが、今、振り返ればその経験も日本文化を理解するために役立ちました。そのとき感じたことがブランドコンセプトやビジネスモデルにも生かされ、エンジンにもなりましたし、女性たちに自分の体を好きになってほしい、自信を持って欲しいと思うようになりました。

――現在、オーダーのサイクルは?

イェガー:週1〜2日を顧客との時間に充てて、1日3枠をご用意しています。6割以上がリピーターになってくださっているのは、技術者にとって大きな励みです。回を重ねるごとに顧客の満足度のレベルも上がりますから、それにチャレンジするのも大好きです。家族や友人を紹介してくださる顧客も多く、自分の喜びを大切な人とシェアしてもらえるのはうれしいですね。

――今後の目標は?

イェガー:現在いる4人の縫製スタッフを育ててチームを大きく、そして強くし、地方や海外でもさらに多くの注文を受けられるようにしたいと思っています。スタッフがそれぞれの得意分野の技術を磨き、その分野では私を超えてほしいです。生産能力を上げること、プロモーションを強化すること、リピーターを大切にすること、そのバランスが永遠の課題です。

――現在の下着業界をどう見るか?

イェガー:最近はインディペンデンドなランジェリーブランドやそれらを販売するセレクトショップが増え、経血吸収型ショーツへの参入も多いですね。しかも、それらを手掛けるのは同世代の女性たちで、誇らしいしすごくわくわくします。アプローチはそれぞれ違うかもしれませんが、女性を幸せにしたいという目的は同じのはず。さまざまな個性がそろうことで発信力も強まり、大きなパラダイムシフトになると思います。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター、日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身

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