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ランジェリー業界のゲームチェンジャー vol.2 IT起業家と連携してECビジネスを構築するリリートレーディングの九冨里絵

 下着業界はファッション業界に比べるとメディア露出が少なく、またサイズの展開が多いため、在庫管理が複雑、生産工程で使用する資材が多い、生産ロットが大きいなどの理由から新規参入が難しいといわれてきた。大手の下着メーカーおよびアパレルメーカーによる市場の寡占によって、なかなか新陳代謝が進まない印象だったが、ここ数年、D2Cブランドが増加している。また、異業職種からのデザイナー転身やSNSを通じたコミュニティーの活性化など、下着業界では30代の女性を中心に新たなムーブメントが起こっている。下着業界に新風を吹き込むゲームチェンジャーらにインタビューし、業界の今、そして今後の行方を探る。

 第2回に登場するのは、オンラインのランジェリーセレクトショップを運営する九冨里絵リリートレーディング(LILY TRADING)社長だ。東京・代官山のランジェリーセレクトショップや新進気鋭ブランドの輸入代理店、オリジナルブランドの立ち上げなどを次々と手掛け、現在は出資を受ける同世代のIT起業家などと連携して新たなECビジネスを構築中だ。

――ランジェリーに興味を持ったきっかけは?

九冨里絵リリートレーディング社長(以下、九冨):10代の頃から、若くて痩せている女性が美しいという価値観に違和感を感じていました。分厚いパッドが入ったブラジャーや派手な配色のランジェリーも同様で、日本には「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のような既成概念にとらわれないファッションブランドがあるのに、どうしてそれに似合うランジェリーブランドが存在しないのかと思っていました。そんなときに出合ったのがニュージーランドの「ロンリー・ランジェリー(LONELYLINGERIE)」。幅広い年齢の女性をモデルに起用し、デザインも着け心地もナチュラルで、共感できる初めての下着ブランドでした。私のように違和感を感じている女性たちに向けて、2017年3月、東京・代官山に下着のセレクトショップ「タイガーリリートーキョー(TIGER LILY TOKYO)」をオープンしました。“現代を強く生きる美しい女性のためのクローゼット”がコンセプトで、洋服を選ぶように下着を選ぶことができるショップをつくりたかったのです。それは実店舗からオンラインショップになった今も変わりません。

――当時のブランドラインアップは?

九冨:新進気鋭のヨーロッパブランドを中心に10ブランドほどそろえていました。その中の「ドラ・ラーソン(DORA LARSEN)」や「ル・プティ・トゥルー(LE PETIT TROU)」などは日本における輸入代理店も務め、PR活動にも力を入れてきました。その結果ブランドの認知度も上がり、日本から各ブランドの自社ECへのオーダーが全体の2〜3割を占めるまでになり、弊社の役割はもう終わったと思って契約は19年秋冬で終了しました。個人輸入も当たり前となった今、ただインポートランジェリーを仕入れて卸したり販売したりすること以上の何かにチャレンジしたいと思うようになりました。

――今はオンラインショップが中心だが?

九冨:代官山の店舗は順調な滑り出しでしたが、実店舗ではフィッティングや試着が第一とする傾向が強く、本来やりたかったこととのギャップを感じるようになりました。現在応援してくれている投資家やベンチャーキャピルなどとの出合いもあり、オンラインで新しいことにチャレンジしたいと思って代官山の店舗は18年6月に閉めました。現在は、オンラインでノンワイヤーのブラジャーやショーツ、ルームウエアを展開するオリジナルブランド「モンべべリリー(MON BEBE LILY)」などを中心に販売しています。

オンラインでの新たなコミュニケーションに挑戦したい

――IT関連の起業家との連携はどのような経緯で生まれた?

九冨:友人である石田健マイナースタジオ社長と話したとき、出資を受けるという選択肢があることを聞き、IT企業家の方々と連携して次のステージへ進もうと決めました。現在、石田社長や廣澤太紀ザシードキャピタル代表などから出資を受けていますが、自分に足りない力を、雇用形式ではなく対等の立場でアドバイスしてもらえるのはとてもありがたいですね。石田社長にはオンライン市場での顧客獲得や販売について、適切な戦略を明確にすることを教えてもらっていますし、廣澤代表には、1995年以降生まれの若手起業家の紹介などを通じて柔軟で新しいアイデアを与えてもらっています。

――現在の会社組織は?

九冨:私のほかにマーケティングとSNS対応のスタッフが2人います。現在、ツイッターで2万6000人、インスタグラムで1万5000人のフォロワーがいて、オンラインショップにも多くの問い合わせがあるので、その対応を任せています。1人はベルギー・アントワープ、1人は中国・上海在住の日本人で、定期的にオンラインミーティングを行なっているのでコミュニケーションも問題ありません。

――新型コロナウイルスの影響で働き方などに変化は?

九冨:一番大きい変化は、オフィスをシェアしていたIT企業がコロナ感染拡大でリモートワークとなり、オフィスの必要性がないと判断して6月末に賃貸契約を解約することになったことです。IT業界ではよくある話ですし問題ありませんが、アパレル業界ではオフィスやショールームがあり、そこで商談するというスタイルが定着しているのでオフィスがない=信用できない、と思われがちです。そのため、小さなスペースにオフィスを移転することにしました。変わっていく世の中に対応していかないと、止まっている業界、置いていかれる業界になるのではと危惧しています。私は今妊娠中なのですが、コロナ感染拡大で出社せずミーティングもオンラインでできるため、感染リスクが減ってとてもよかったと思っています。オンラインの仕事なら、産休も育休もフレキシブルに対応できます。アントワープのスタッフが最近出産したのですが、タブレットがあればできる仕事ですし、本人の希望もあって産休は10日間程度でした。そういった経験からも、今回のリモートワークの浸透が女性の社会進出を加速させてほしいですし、働く女性が多い下着やアパレル業界もこのタイミングで大きく変わるべきだと思います。ここで変わらないと優秀な人材はどんどん他の業界に転職してしまい、業界全体が停滞するのではないかと思います。

――今後の目標は?

九冨:オンライン上の新たなコミュニケーション方法に挑戦したいと思っています。しばらくは体に触れる密な接客はできないと予想されるため、間接的でも心地よく買い物できる方法をはじめ、商品やサービス環境を整えたいと思っています。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター、日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身