
2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークが繰り広げています。久々にメンズコレクションサーキットに戻ってきた編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋が、ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届け。今回はミラノコレのラスト、3・4日目。
“未完成の美”からもう一歩!
朝イチは「シモン クラッカー」
本橋涼介「WWDJAPAN」ヘッドリポーター(以下、本橋):ブランド名の由来であろう“クラッキング=壊す・割る”、つまりファッションの既成概念を壊すという思想が、まさにストレートに体現されていた「シモン クラッカー(SIMON CRACKER)」。デッドストックやアップサイクル素材を使い、タグの露出や断ち切り、手書きの文字など、DIY的かつパーソナルなニュアンスが満載で、朝イチからお腹いっぱいです。
モデルもおそらくプロではなく、一般人を起用。“未完成の美”をそのまま肯定し、最終的な完成形は着る人に委ねようという意図がしっかり伝わってきました。
ただ、この手法自体はすでに広く認知されているもの。だからこそ、コンセプトの深化や、もう一段上のクリエイションを期待したくなります。
創業デザイナーの遺志を継ぎ
緊張感を取り戻したい「カシミ」
本橋:急逝した創業者ハリド・アル・カシミ(Khalid Al Qasimi)の後を継ぎ、双子の妹がデザイナーに就任してから、ブランドの空気感は確実に変わりました。
今回の「カシミ」は、軽やかなウールで仕立てたエプロンシャツなど、クラシックな素材使いに静かな祈りのような中東的ムードが漂っていて、穏やかな品格を感じました。ただ、かつてのようなフューチャリスティックなテキスタイル使いや、攻めたシルエットを知っている身としては、少しだけ物足りなさも。
一時期は北千住の「アマノジャク」などイケてるセレクトショップでも見かけましたが、今は国内での露出も落ち着いた印象。今の静けさの中に、あの頃の張り詰めた緊張感が少し戻ってくるといいなと、個人的には思います。
「エトロ」は原点回帰?魂のレベルで
共感できるテーマの再来を願う
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):一方の私は「エトロ(ETRO)」からスタート。メンズもウィメンズもマルコ・デ・ヴィンツェンツォ(Marco De Vincenzo)が手がけているハズですが、ずいぶんこの頃と印象が変わりましたね。
良く言えば、マルコによって突然若返ったことに戸惑った男性は、お気に入りが見つかりそう。一方苦言を呈するとしたら、随分コンサバでちょっとマルコっぽくはないカンジ。かつてのメンズに回帰した印象です。シルエットの遊びが格段に減って、王道回帰。ジャストサイズのジャケットにショーツのセットアップ、ブルゾンに、カラフルなシルクシャツやスカーフを合わせます。
原点に立ち返るのは、アリだと思います。しかしかつてメンズを手掛けていたキーン・エトロ(Kean Etro)は、地産地消や動物との共生など、本能に近い直感でテーマを導き、心や魂のレベルで共感するスタイルを生み出していました。スタイルだけでは、あのときの共感は得られません。「今、洋服を通して伝えたいこと」が想像できるメンズ服がまた生まれることを願います。
「アルテア」は爽やかなリゾートスタイル
村上:お次は、「アルテア(ALTEA)」。パイル地だったり、飾り編みだったりのスキッパータイプのポロシャツがイチオシです。ボタニカルモチーフの開襟シャツは、リネンなどで作ったサファリジャケットやワークブルゾン、グルカ風のパンツを合わせて、爽やかなリゾートスタイルにまとめました。
「ゼニア」もパジャマでノンシャラン
異国情緒盛り込みユニバーサルなムード
村上:昨日拝見した「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE &GABBANA)」の展示会の後は、同じく「ゼニア(ZEGNA)」の展示会へ。
今回はミラノを離れ、他に先んじてドバイで2026年春夏コレクションを発表しています。今シーズンは、多くのアイテムに洗いをかけたり、シワ加工を施したり。パジャマのようなシャツやパンツにリネン混のシャツジャケットや紙のように薄いスエードのノースリーブなどを合わせます。アプローチは、「ドルチェ&ガッバーナ」に似ているのかも。パジャマスタイルを計算し尽くして着こなすのはダサいので、ノンシャラン、あまり気取らず無作為に洋服を選んだり重ねたりのムードを演出というアプローチです。そこに加えるのが、圧倒的な技術力の洋服。細く切ったスエードを編み込んだカーディガン、織り柄をトロンプルイユ(だまし絵)したスエードブルゾンをさらりと羽織れば、ノンシャランでもスタイリッシュなのです。
「プラダ」メンズに女性が夢中の
「ミュウミュウ」ブルマー登場
本橋:今回の「プラダ(PRADA)」は、「フェミナイズ=女性化」がキーワード。ラフィアの帽子をはじめ、ウィメンズのようなアイテムが数多く登場し、全体的にはマイルドな印象でした。「ジェンダーレス」ではなく「フェミナイズ」。つまり男性服の女性化の中でも目立っていたのは、ブルマー。ウィメンズでは「ミュウミュウ(MIU MIU)」で市民権を得たスタイルですが、それをメンズでやるとは。ショーツラバーの村上さんからして、これはどうなんでしょう?
ラフとミウッチャは「これまでで最もスムーズで簡単だったコレクション」と語っていましたが、着る側からすると、なかなかそう簡単にはいかない気もします(笑)。
村上:「A CHANGE OF TONE」をテーマにしたコレクションは、まずメッセージや思いの発信方法を変えた印象でした。無論、その根底には反戦や世界平和という願いがあるのだろうと思いますが、以前ならそれに通じるメッセージを声高に叫んでいたところ、今回は「声高なメッセージこそ対立の火種なのでは?」と考えて、先鋭的になるより、ありのままの自然体を表現したような印象です。本橋さんが言う「トーンダウン」は、そんな表現の結果だったんじゃないかな?
それをラフ・シモンズ(Raf Simons)が加入して以降の「プラダ」らしく、アイコニックなアイテムのアップデートで表現している印象を受けました。問題の(⁉︎)ブルマーは、既に他のブランドよりも一際短かかったショートパンツの「フェミナイズ」なアップデート。マルチポケットのサファリシャツなどもロング丈になって、気分はウィメンズのワンピースです。ダブルのジャケットにスリムなトラックスーツのスタイルも、かつての「プラダ」のアップデートを思わせます。レザーブルゾンは今季、シボ感のあるレザーのビンテージ加工ではなく、ムラ染めした後にステッチワークを加えるなどしてクラフツマンシップを表現しました。
そして、カラフルなマルチストライプや大ぶりの花柄などで、1970年代のヒッピーなムードを表現。女性らしいムードやヒッピーのようにピースフルを願う気持ちから、声高には主張しないものの、不安で不穏な世界に語りかけるようです。
Snow Manラウールの初ミラノ
デビューは「サウル ナッシュ」
本橋:ブランド名でピンとくる人はまだ少ないかもしれませんが、今回のミラノで最も“話題をさらった”のはここだったかもしれません。
なにせ、Snow Manのラウールが海外ブランドで初めてランウエイを歩いたショーだったから。これまで「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」や「メゾン ミハラ ヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」など日本ブランドのショーに出演してきたラウールですが、ついに海外ブランド&ミラノデビュー。モデルとしても着々とアップデートを重ねていますね。
SNSでも数字を持ってる男なだけに、ショーが始まってからは「いつ出る?どこで出る?」と、暗がりのクラブハウスのような会場で僕も血眼。記憶も記録も、ラウール一色です。ショーの後、会場の外で無事キャッチできたときは、心底ホッとしました。