
東京以外で、訪日客に人気の都市といえば、大阪と福岡だ。大阪・心斎橋は、関西国際空港からのアクセスも良く、観光地の道頓堀を中心に商店街があり、食い倒れの街として知られている。一方、福岡は韓国から飛行機で約1時間半、博多や天神は空港から10分程度と交通の便が抜群。太宰府天満宮や福岡タワーなど観光資源をはじめ、百貨店や複合商業施設などが多く、九州の玄関口といった存在だ。ここでは、大丸心斎橋店と福岡・天神の岩田屋本店に、インバウンド商況および動向について聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年5月20日号からの抜粋です)
大阪・心斎橋 大丸心斎橋店
免税売り上げ比率
2024年2月期
33%
好調ブランド
「エルメス」「シャネル」「グッチ」「セリーヌ」「ミュウミュウ」「モンクレール」「ディーゼル」「カルティエ」「ブルガリ」
中国からアジア圏へ訪日客が多国籍化
買い物・食べ歩きを楽しむ
大丸心斎橋店(以下、大丸)の2023年度の免税売上高は前年の2倍以上の313億円で、免税売上比率は約33%だった。今年4月には、単月の免税売上高が過去最高を記録。大丸松坂屋百貨店の稲生智子 大丸 大阪・心斎橋店 営業推進部マネジャーは、「韓国をはじめ、東南アジアや北米からの来店が増えた。円安に加え、桜の季節などの理由から、春は訪日客が多かった」と述べる。コロナ前は、免税売上高の8〜9割が中国本土だったが、コロナ後は、中国本土が6割、台湾、香港、韓国中心に変化した。「全体的に、30〜40代後半が多いが、韓国は20代が多い。東南アジアからは年配の人を含めた家族旅行が目立つ」。
商品別の売り上げ構成は、コロナ前は化粧品が約6割だったのが、ラグジュアリー・ブランド中心の高額品に変化した。爆買いというよりは、欲しいものを購入する傾向にシフト。好調ブランドは、「エルメス(HERMES)」「シャネル(CHANEL)」「グッチ(GUCCI)」「セリーヌ(CELINE)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」などだ。稲生マネジャーは、「20万〜30万円のバッグが好調だが、品切れの場合は、シューズやスカーフなど、店頭にあるものをとりあえず購入していく」と話す。ウエアでは、「ディーゼル(DIESEL)」や「モンクレール(MONCLER)」などが人気。「ブルガリ(BVLGARI)」や「カルティエ(CARTIER)」では、エントリー価格から100万円以上のジュエリーが動く。消費が高額品に移行しているということもあり、平均客単価も伸長。コロナ前は平均5万〜6万円だったのが10万円強で、国別に見ると、中国が平均の10万円、アメリカが高めで20万円弱、韓国は低めで8万円程度だ。
心斎橋が人気の理由について、稲生マネジャーは、「商店街で買い物や飲食ができ、アメリカ村などで街歩きが楽しめる。空港からのアクセスも良く、ホテルが多い。それらの掛け合わせによる」と話す。大阪はショッピング以外にも、食べ歩き目的の訪日客が多い。個人旅行客が増えて、電車や地下鉄といった公共交通機関を利用する旅行客が増加したため、交通の便の良さをはじめとした利便性が重要視されるようだ。
大丸では訪日客施策として、訪日サイトへの掲載を筆頭に、中国ではレッド、韓国ではカカオトークやネイバーなどを通してSNS発信を行っている。店頭には、両替機やコインロッカーを設置し、ポケトークや翻訳アプリの入ったスマートフォン、外部の通訳サービスで訪日客に対応している。また、ポイントがたまるアプリやディスカウントクーポン(5%)を用意。19年の改装後、本館9階にインバウンドラウンジを設置した。ここでは1日に100万円以上の商品の購入者や、アプリで特定ランク以上になった人であれば、免税、手荷物預かり、ドリンク、マッサージをはじめ、ショッピングアテンドのサービスを受けられるという。
買い物&食の天国
心斎橋
1 / 4
福岡・天神 岩田屋本店
免税売り上げ比率
2024年3月期
12%
好調ブランド
「セリーヌ」「ディオール」
円安と地の利の良さにより
国内旅行感覚の韓国若年層が激増
福岡・天神といえば、九州最大の繁華街だ。岩田屋本店、三越福岡店、大丸福岡天神店といった百貨店が密集するほか、商業施設が集まるエリア。岩田屋本店では、免税売上高は昨年末に最高を記録し、今年3〜4月は、それをさらに上回った。岩田屋三越の小林麻衣子・営業本部 営業政策担当マネジャーは、「コロナ前は中国人による高額品消費が中心だったが、コロナ後は韓国勢が急増。高価格帯商品へ消費動向がシフトした」と話す。免税売上高の比率は、23年度は約12%だったが、今年に入ってから約20%に伸長。地域別では、21年度は中国が6割以上で韓国が1%程度だったのが、23年度は韓国が5割以上になり、約12%の中国を上回った。小林マネジャーは韓国人客急増の理由を、「何度も来られる近さと安さ」と分析する。客単価は、宝飾品やアートなどを購入する層もいる中国人が高い傾向で、若い層が多い韓国勢は10万円以下だ。
売れ筋は、「セリーヌ」の“トリオンフスモールバゲット”で客単価は20万円前後。「ディオール(DIOR)」はバッグや小物が主流で、平均客単価は17万円前後だ。「コロナ後はハイブランドに人気が集中。指名買いできない商品も多く、店頭にあるものを購入していく」。
インバウンド好調の理由は、岩田屋本店にしかないブランド展開やラインアップの豊富さが挙げられる。また、近辺に「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ティファニー(TIFFANY & CO.)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」の店舗やバーニーズ ニューヨークがある。小林マネジャーは、「回遊性に優れ、天神=ショッピングエリアという認知度が上がっている」と話す。インバウンド施策の1つとして、公共交通機関にもポスターを掲示して天神にインバウンドの集客を図ると同時に、SNS発信も積極的に増やしている。購買客には、5%のディスカウントが受けられる三越伊勢丹グループで共通のゲストカードを発行している。その発行・使用率は高く、普及に努めているという。「個人旅行が増えて、SNSで情報を得てから来日する層が増えている。その情報の波に入り、発信していく必要がある」。