ファッション
連載 エディターズレター:IN FASHION 第39回

偉大なショーマン、ドリス・ヴァン・ノッテンの退任で失うかもしれないもの

有料会員限定記事

デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)の引退によって私たちは何を失うのでしょうか?帰宅中の地下鉄内で「ドリスが退任」の一報を目にして小さく悲鳴を上げてから2週間、今もその事実に小さなため息をついてしまいます。40年近く第一線で活躍してきたドリスにはこの先、別の人生も楽しんで欲しいと心底思う。それでも寂しさが拭いきれないのは、彼がファッション界で最も偉大なショーマンの一人だったからです。

ショーの椅子が表すブランドの価値観

ファッションショーで使用する椅子にはブランドの価値観が反映されます。1人にひとつずつの上質な背もたれ付きの椅子は座る人にリラックス感や優越感を与えるし、ベンチシートは序列がなく平等な印象を与えます。と同時に、大概は人数オーバーで窮屈にもなるのがベンチシートの特徴です(マルジェラ本人時代の「マルタン マルジェラ(MARTIN MARGIELA)」のショーは肩書き問わずの早い者順で実に平和でした)。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の椅子はベンチシートです。来場者を平等に扱おうとする姿勢がそこに表れている。ただし、窮屈にはなりません。

こんな話を聞いたことがあります。ドリスのチームは客席にシートナンバーを置くための長い専用定規を持っていると。そして定規の印通りに極めて正確な等間隔でカードを置いてゆくと。結果、ドリスらしい整然とした美しさを損なうことなく、かつ優越感や不平等感を抱かせることなく来場者を収めることができるそうです。私はこの客席の作り方にドリスの人間力と美的センスが凝縮されていると思います。

この続きを読むには…
残り1095⽂字, 画像1枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

独立系クリエイティブ集団が台頭、クリエイターの新潮流を見る

5月13日号は、クリエイターを取り巻く新潮流を特集します。昨年7月17日に発行した「U30 クリエイター」特集に続き、その最前線を追いました。

冒頭では独立系クリエイティブチームにフォーカス。「クリエイティブアソシエーション」「クリエイティブエージェンシー」など、独自のスタンスを掲げてクリエイティブの可能性に挑む集団です。彼らの狙いは、クライアントとクリエイターが対等な立場でものづくりに向き合え…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。