
「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」の創業者であるデザイナー、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)の史上最大規模のオークションが、2025年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークの初日である25年1月27日(現地時間)、パリ11区のヴォルテール大通り沿いにある廃墟で開催された。このオークションは、パリのモーリス オークション(MAURICE AUCTION)とロンドンのケリー テイラー オークションズ(KERRY TAYLOE AUCTIONS)の共催で、昨年末にアナウンスされるとSNSを中心に大きな話題となり、開催前に行われた展示会には2日間で約2000人が来場。また、関係者を招いたカクテルパーティーも開かれ、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)「ディオール(DIOR)」ウィメンズ アーティスティック ディレクターや、アードリアン・アピオラッザ(Adrian Appiolaza)「モスキーノ(MOSCHINO)」クリエイティブ・ディレクター、ジョバンナ・バッタリア・エンゲルバート(Giovanna Battaglia Engelbert)「スワロフスキー(SWAROVSKI)」クリエイティブ・ディレクターらが姿を見せた。
全ての出品物は、イタリアで高級ブランドのアパレル生産や自社ブランドを展開するキャスター(CASTER)のアンジェラ(Angela Picozzi)とエレナ・ピコッツィ(Elena Picozzi)創業者姉妹の私物だ。彼女たちは、イタリアファッション界の重要人物として知られ、当時無名だったマルタンを1980年代後半から支援していた母親グラツィエラ・ピコッツィ(Graziella Picozzi)の影響により、何十年にもわたって彼の作品を収集してきた。
アンジェラは、「出品物は、ファッション史の重要な一部であり、保護すべきものだと常に考えてきた。そして、時間が経つにつれ、マルタンの才能とビジョンがより広く知られ、研究され、語られ、そして着用されるべきだと感じるようにもなった。だからこそ、私たちは収集物を販売することを決めた」と語り、モーリス オークションの競売人サロメ・ピルソン(Salome Pirson)は「マルタン・マルジェラの世界観を反映した廃墟でのオークションの開催は、これまでのオークションにはないユニークな体験となった。多くの来場者とバイヤーに受け入れられたことを大変嬉しく思う」とコメントした。
出品物の多くは、オリジナルのパッケージに保管されているデッドストックや当時は店頭に並ばなかった非売品、さらにはマルタンが1988~89年に手掛けていたグラツィエラらとのコラボブランド「!」のアイテムまで、博物館に展示されるにふさわしいような初期作品だ。「!」は、“名前のないブランド”というコンセプトのもと4つのコレクションが制作され、88年のジャケットとベスト、ネクタイのセットや、70点のオリジナル手描きスケッチが入ったフォルダなどが出品された。また、「メゾン マルタン マルジェラ」89年春夏コレクションのジャケット制作時に使われたオリジナルの型紙や、ファックスで送られた初期コレクションのスケッチをまとめたフォルダなども登場。マルジェラは通常、スケッチを製造業者にファックスで送ることはなかったため、これらは非常に貴重な資料といえる。
だが、数ある出品物の中でも目玉は「メゾン マルタン マルジェラ」90年春夏コレクションのアイテムで、ペイントキャンバス製ブレザージャケットやパニアバッグ付きのパンツ、取り外し可能な袖が付いたスーツ、ガーゼ素材を使用したドレスのように着用するビッグベスト、複数の方法で着用可能なクリアビニールトップ、ジャボ風のブラなどは、1200~5000ユーロ(約19万~79万円)での落札が見込まれていた。
しかし、結果は予想を大幅に上回る形となり、同シーズンのブラック&ホワイトの水玉模様のウールスーツは10万1400ユーロ(約1612万円)で落札され、マルジェラの作品としては史上最高額を樹立。これに続く高額落札作品も、同シーズンのペイントキャンバス製ブレザージャケットの9万1000ユーロ(約1446万円)、パニアバッグ付きのパンツの8万5800ユーロ(約1364万円)、グレーウールジッパージャケット&パンツの6万5000ユーロ(約1033万円)、ホワイトコットンメッシュドレスの6万2400ユーロ(約992万円)だった。最終的には全270点が落札され、売上総額はフランスで開催されたファッションオークション史上最高額となる188万9000ユーロ(約3億円)を記録した。
モーリス オークションとケリー テイラー オークションズは、年に2回ファッションオークションを共催しており、これまで数々の世界記録を更新している。