「ギャルソン」川久保玲が影響され続ける“キャンプ”とは?

コラム コレクション・レポート

2018/3/13 (TUE) 12:00

 「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」2018-19年秋冬のショーで、川久保玲デザイナーは珍しくコレクションの着想源を挙げました。それは、これまでも川久保デザイナーが強く影響を受けてきたという米作家のスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)が1964年に発表したエッセイ「キャンプについてのノート」です。この”キャンプ”とは野営やアウトドアを楽しむことを意味する言葉ではありません。”ひどく誇張された”“並外れた”“不真面目な悪趣味”などの皮肉な価値の中に魅力を見いだす美学のことです。

 早速、同書を購入して読んでみると、58項目のルールで、イギリスの詩人で作家のオスカー・ワイルド(Oscar Wilde)の詩と共に“キャンプ”の特徴が記してありました。ソンタグは「この世には名付けられていないものがたくさんある。そしてまた、名付けられてはいても説明されたことのないものがたくさんある。そのひとつの例が、その道のひとびとのあいだでは”キャンプ”という名で通用している感覚である」といいます。

 キャンプの説明文の中には「ジャン・コクトー(Jean Cocteau)の人柄や彼の作品の多くはキャンプだが、アンドレ・ジッド(Andre Gide)についてはそうではない」などの具体例があります。64年に書かれたエッセイなので、例えに挙げられている物事や作品を理解するのが難しいものもありました。筆者が理解できた“キャンプ”の例は、バレエの「白鳥の湖」、アーネスト・B・シュードサック(Ernest B. Schoedsack )による映画「キングコング」、フェザーボアやフリンジ、ビジューがあしらわれたドレスに代表される20年代の婦人服など。また多くのアール・ヌーヴォーの芸術で、例えばパリのメトロの入り口にあるエクトール・ギマール(Hector Guimard)作のアーチ、ステンドグラスが組み合わされた“ティファニーランプ”、英ヴィクトリア朝の画家オーブリー・ビアズリー(Aubrey Beardsley)によるペン画などです。一言では説明することが難しい、深みのあるストーリーやデザインばかりです。

 ショーでの「コム デ ギャルソン」のファーストルックは、繭のような玉を貼り付けたドレスに、白い生地をミルフィーユ状に重ねたジャケット。いびつな凹凸を持つ純白のドレスは、醜と美が同居するキャンプの哲学に当てはまると思いました。中には米のキャラクター、ベティー・ブープ(Betty Boop)の顔が描かれたセーターを分解して中綿を詰め込んだもの、まるでドレスを抱きかかえているように見えるシルエットのイブニングドレスなど、違和感や嫌悪感を抱かせるものの中に美しさや可愛さがあります。全16ルックそれぞれのドレスが異なる素材とシルエットで構成されていますが、共通するのは生地を数十枚も重ねたレイヤードと、中綿を入れたぷっくりとしたボリューム感。展示会では、商品として販売されるコマーシャルラインにその特徴が多く用いられていました。セーターの腹の部分に、中綿が詰まっているディテールは、少し不格好に見えながらもどこかチャーミングで、その魅力がキャンプなのだと感じました。

 同書中の最後である58番目のキャンプの説明でソンタグは「窮極のキャンプ的言葉『ひどいからいい』。もちろん、いつもそう言えるわけではない。ある種の条件の下においてのみ」と締めくくっています。これらのキャンプの哲学は、上辺だけの美しさではない“深いクリエイションを生み出す”という「コム デ ギャルソン」のブランドの根幹とリンクしているのだと感じました。

※ソンタグの引用文は「反解釈」(ちくま学芸文庫)所収の同エッセイより

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