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「僕が求めるのは、自由なクリエイションができる環境だ」 ジャンポール・ゴルチエが語る現代ファッションの明暗

 アンドロジナス(性の差異を超えた自由なファッション)やアンダーウエアルックといったアヴァンギャルドなクリエイションで1980年代のファッションシーンを席巻し、40年以上にわたって業界をけん引してきたファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)。これまでに著名なアーティストのコスチュームや映画衣装のデザインを担当し、近年は自身の半生を描いたミュージカル「ファッション フリーク ショー(Fashion Freak Show)」を公演するなど、コレクション以外の領域でもその才を発揮している。そんなゴルチエ=デザイナーと深いつながりを持つオンワードホールディングス(以下、オンワード)が、彼が生み出してきた作品を振り返る企画展「エクスパンディング ファッション バイ ジャンポール ゴルチエ(EXPANDING FASHION by JEAN PAUL GAULTIER)」をカシヤマ ダイカンヤマ(KASHIYAMA DAIKANYAMA)で10月13日まで開催中だ。同展の開幕に合わせて来場したゴルチエ=デザイナーに、表現の場を横断しながらクリエイションを追究する理由や、現代のファッション業界の明暗などを語ってもらった。

WWDジャパン(以下、WWD):今回の企画展に至った理由は?

ジャンポール・ゴルチエ=デザイナー(以下、ゴルチエ):カシヤマ ダイカンヤマがオープンした際に「何かイベントをやらないか?」と誘いを受けたことが始まりだ。オンワードとは古くから付き合いがあり、私のデザイナーとしての活動はオンワードの存在なしでは語れない。

WWD:オンワードとはいつからつながりがある?

ゴルチエ:キャリアをスタートさせた当初からだ。1976年に自分のブランドを立ち上げ、最初の3回は自力でショーを行った。しかし、4回目の資金を賄えず、どうしようかと迷っていた時期があった。ちょうどその頃、パリのあるショップが新人デザイナーを募集していた。それに応募し、デザイナーとして働いた報酬を元手に4回目のショーを行った。そのショップこそ、樫山(現オンワード)がパリで運営していた「バス ストップ(BUS STOP)」だった。その後、日本でのライセンスビジネスや直営店の運営など、オンワードと共に幅広いビジネスを行った。オンワードは、僕にとってファミリーのような存在で、切っても切れない大切な縁がある。

WWD:今回はオートクチュールの展示に加え、過去のプレタポルテを再現したアイテムを販売する。復刻アイテムには現代的なデザインを加えたか?

ゴルチエ:新たな要素は一つも加えていない。80年代に描いたデザイン画をもとに、当時の服を忠実に再現しただけだ。しかし、どのアイテムも今の時代との違和感はない。ハイウエストのスカートなどは今のトレンドで、最新のコレクションにさえ見える。復刻するアイテムを選ぶ際に、オンワードから「この時代のこのアイテムはどう?」と提案してもらったことで、客観的にアーカイブを振り返ることができたのもよかった。

WWD:2015年からプレタポルテの発表を休止し、オートクチュール・コレクションに専念している。その理由は?

ゴルチエ:プレタポルテは40年以上やってきた。当時はクリエイターの先駆けとして、自分の発想をそのままクリエイションに生かすことができた。しかし、今のプレタポルテは、ビジネスの世界、マーケティングの世界で、制約がすごく多い。僕が求めるのは、自分の発想を自由に表現できる環境だ。

WWD:ビジネスの制約以外の理由はあるか?

ゴルチエ:コレクションの幅を広げすぎて、一つ一つのクリエイションに集中できなくなったのも問題だった。プレタポルテでは、メンズとウィメンズに加え、キッズまで手掛けていた時期があり、多いときは年に6回、プレ・シーズンも含むと最大で12回もショーをやっていた。表現の手段は時代によって変化するし、多くのショーを行うやり方も当時はよかったのかもしれない。しかし今は、職人による刺しゅうといった伝統工芸を生かした表現に時間を費やしたいと思っていて、それを実行するにはオートクチュールが最適だ。

WWD:オートクチュールに専念し、ビジネス規模は縮小した?

ゴルチエ:確かに利益は少なくなったが、ショーで発表した服は毎回完売するし、次のショーを行う資金は十分賄える。また、オートクチュールはプレタポルテのようにSNSマーケティングやイメージビジュアル作りに注力しなくとも、純粋に服の良し悪しでコレクションを評価してもらえる。大量生産・大量消費・大量廃棄のプレタポルテに比べて、いたって健全なビジネスだ。オートクチュールは一点物で、色はもちろん、同じデザインがあってはならない。そのルール自体を楽しみながら、毎シーズンの服作りに没頭している。そしてなにより、顧客一人一人に向けて最大のクリエイションを発揮できるのは、クリエイター冥利に尽きる。

WWD:04〜11年には「エルメス」のウィメンズウエアのデザインを担当していた。現在はシグネチャーブランドに専念しているが、その理由もクリエイションの制約を避けるため?

ゴルチエ:かつて「エルメス」のデザインを手掛けたのは、メゾンの世界観を守りつつ、自分の発想をどう生かせるかに挑戦したかったから。その実験は十分にできたし、そこにはもはや関心がない。今は自分のブランドで自由にオートクチュールを作っているうえ、ミュージカルという新たな表現にも取り組んでいる。この2つをもっと面白くすることしか考えていない。今、どこかの老舗ブランドからデザイナーの誘いを受けても、「もう遅いよ」と答える。「こんな僕に依頼せず、若い人が活躍する場をつくってあげて」と。

幼少期に抱いたエンターテインメント界への憧れ、現代ファッションの明暗

WWD:ミュージカルにはもともと興味があった?

ゴルチエ:そうだ。幼いころから映画をよく見ていて、9歳のときに演劇や映画の世界に入りたいと思い始めた。もともとは、ファッションよりもエンターテインメントの世界への関心の方が強かった。しかし、13歳のとき、ファッションデザイナーの恋模様を描いた映画「偽れる装い」(1945年仏、ジャック・ベッケル監督)と出会い、その考えが変わった。ランウエイを歩くモデルが拍手喝采を受けているシーンを見て、「こんな世界があるのか!僕はこれをやるんだ!」と決め、ファッションデザイナーを志した。ミュージカルはすでにヨーロッパで公演していて、時期は未定だが日本での公演も決まっている。日本公演はオンワードがスポンサーになってくれる予定だ。

WWD:現在のファッション業界のよいところと悪いところは?
ゴルチエ:よい点は、かつてのクリエイションやプロダクトの価値が再認識されていること。特に若い人にこの傾向が強く、ビンテージを今っぽく着こなしたり、リサイクル品をリメイクして取り入れたりしている。情報が溢れる中、自分の感覚を大切にして、自分なりにファッションを楽しむのは素晴らしいことだ。一方、悪い点は、世の中に服が溢れすぎていること。ファッションブランドの中には、大量にアイテムを作っておいて、売れなかったものを焼却してしまうところさえある。それなら、最初から売れる分だけを生産すべきだし、残った服はリサイクルするなどの手段を講じるべき。ブランドイメージを保つために廃棄するのは、あまりにも無責任だ。

ゴルチエから見た日本のジェンダーレス

WWD:アンドロジナスはジェンダーレスのクリエイションの先駆けでもある。今はジェンダーレスがムーブメントになっているが、日本ではまだまだその考えが浸透していないと考えられる。

ゴルチエ:僕は日本でジェンダーレスが遅れているとは思わない。メンズとウィメンズのカテゴリーに関係なく服を選び、自由にファッションを楽しんでいる。特に日本の男性は、ヨーロッパよりも圧倒的に自由で、先進的だ。伝統的に見ても、日本には袴の文化が根付いており、それは現代のスカートに通ずるものでもある。歌舞伎などの伝統芸能の衣装は、丸みを帯びたフォルムを採用して女性らしい優しさを備えつつ、硬い素材で男性らしい力強さを付加するなど、性別を超えたクリエイションが詰まっている。さらに、紐の結び方や服の色使いなども非常に繊細だ。こういった点も、日本人のファッション感度の高さを裏付けている。