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「口紅から甘い香り」 香水ブランド「キリアン」創設者に聞く、メイクアップ参入の狙い

 エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)傘下の仏ラグジュアリーパルファムブランド「キリアン(KILIAN)」は今秋、ブランド初のメイクアップ製品「ル ルージュ パルファム」(全12種、各6200円)を日本でも発売する。同製品は今年、北米、仏、英、露、中東などの旗艦店を中心に発売され、2カ月で7万個を完売(メーカー出荷ベース)したヒットアイテムだ。アジアでは、8月に韓国で先行発売し、今秋、満を持して日本で販売する。6月中旬に開催したプレスイベントに合わせて来日した創設者のキリアン・ヘネシー(Kilian Hennessy)に、メイクアップ製品投入の意図と今後の展望を聞いた。

WWD:昨年10月に日本初上陸を果たしてから、三越日本橋本店、日本橋高島屋、大阪高島屋、伊勢丹新宿本店メンズ館と順調に店舗を増やしています。プレスイベントのほかに、今回の来日の目的があれば教えてください。

キリアン・ヘネシー「キリアン」創設者(以下、ヘネシー):伊勢丹新宿本店本館への出店を予定しており、その調整を含めいくつか新店の話をしています。私は新規の市場に参入するときにいつも同じ手順を踏むのですが、まずローカルのチーム、日本の場合はELCジャパンに数カ月オペ―レーションを任せて、6カ月から9カ月経ったころに実際に足を運びます。そのときにプレス関係者、インフルエンサーや小売り関係者を招いて大きなローンチイベントを行います。この方法で結果が出ているので、それを踏襲しています。ブランドのDNAや真の価値をローカルスタッフが理解してこそ、最適なプロモーションができると考えているためです。ブランドとしての統一感(インテグレーション)にこだわると新規市場では準備が間に合わずバタつき、また、ローカルチームのブランドに対する知識や理解が及んでいないのでより結果が出ません。

WWD:新製品「ル ルージュ パルファム」はブランド初のメイクアップアイテムとなりますが、詳細を教えてください。

ヘネシー:「キリアン」ではルージュにもパルファムと同じ香料を使っています。パルファムの中で人気の「ラブ ドント ビー シャイ オード パルファム」という香りで、マシュマロからインスパイアされた、バニラやネロリなどどちらかというとスイート系の香りです。女性はバニラの香りが好きなので、口紅から甘い香りが漂うようにその香りをつけています。香水も口紅も、もの作りの過程は似ています。それがアロマキャンドルでもせっけんでもボディーローションでも、異なるアイテムに香りをつける工程はさほど変わりません。今後もいろいろなものに香りを乗せて何ができるか試行していきます。

WWD:「ル ルージュ パルファム」のデビューコレクションを“赤”だけにした理由は?

ヘネシー:一つは個人的に女性が赤い口紅をつけているところが好きだから。もう一つは、赤を好んでつける友人たちは一様に自分にとっての“完璧な赤”を追い求めているということを知ったからです。自分にとっての完璧な赤い口紅を求める旅は、完璧な香りを求める過程と同じだと思っています。双方とも女性にとってアイデンティティーを決定する強力な要素になります。

WWD:同じ色でサテンとマットの2つの質感を作った理由を教えてください?

ヘネシー:ほかのブランドでそうした展開をしているところがなかったからです。個人的にはマットな口紅が好きですが、全ての人にそれが似合うわけではない。若い時はマット系の口紅をつけている人でも、ある程度の年齢になると老けて見えることを恐れて「もうマットはつけられない」となる。そのようなときにサテンの質感を選べるのはいいと思ったのです。ただ、マットの方はテクスチャーに関してとてもこだわって作ったので、使用感がこれまでのマット系のリップとは全く違うと思います。マットが好きな人でも、見た目は好きだけど唇が渇いて使い心地が好きではないという人も多いようです。ですが、エスティ ローダー カンパニーズとも努力を重ねて、唇につけたときの使用感をとても快適に仕上げることに成功しています。マットは難しいと思っている人にも、あまり気負わずに使ってもらえるのではないでしょうか。

WWD:「ル ルージュ パルファム」をすでに発売している国を教えてください。

ヘネシー:北米とフランス、英国、ロシア、中東、それにヨーロッパ全域です。欧米市場では旗艦店を中心にバレンタインデーに向けて発売しましたが、2カ月で7万本を完売(メーカー出荷ベース)するほど好評でした。アジアでは8月に韓国の「新羅ホテル」内にあるブティックで先行発売する予定です。今後、生産も流通も規模拡大のスピードを上げていきます。

来春に新色を発売予定 
メイクアップライン拡充の計画も

WWD:「ル ルージュ パルファム」以外にも“香る”メイクアップ製品を拡充する構想はありますか?

ヘネシー:今後3年で「キリアン」のメイクアップラインを構築していく計画です。現状では「ル ルージュ パルファム」は赤だけの展開ですが、ラズベリーやブラウン系、ヌード系のカラーも開発中で、新たに10色を来年のバレンタインに合わせて発売する予定です(日本での発売時期は未定)。1つの色でサテンとマットの2つの質感で展開する手法も成功しているので、その戦略を続けていきます。

WWD:マーケティングに頼らない自由なクリエイションをブランド哲学に掲げていますが、ビジネスとしての成長戦略をどう考えていますか?

ヘネシー:ある意味で私は自分のことをコマーシャルデザイナーだと思っています。売れないものは作りたくないので、市場に出回っている商品を研究し尽くします。例えば今回の口紅ではそのカテゴリーを研究し尽くして、今市場にないものを作り出して消費者に喜んでもらおうという発想です。そうして新しい市場を作り出していく。新しいものを市場に出すにはリスクを伴います。今回の口紅には香りがついていますが、エスティ ローダー カンパニーズにとってもこうした製品を作ることには半信半疑でした。「ヨーロッパ市場ではうまく行くかもしれないが、他のエリアでは難しいのではないか」という意見が多かったのですが、アジア地域、そしてこの日本でも一足先に試した人はとても喜んでくれました。これからも今までにないユニークな製品を提供していきたいと思っています。

WWD:「キリアン」ブランドにとって、アジアでの大きなマーケットは?

ヘネシー:韓国、日本、タイ、ベトナムに進出していますが、売り上げの規模で一番大きいのは韓国です。「ル ルージュ パルファム」の販売も韓国からスタートします。「新羅ホテル」内のブティックで先行販売して、その後、百貨店での取り扱いが始まります。おそらくそのころには日本でも販売を開始しているでしょう。

WWD:今回開催したプレスイベントのプレゼンテーションでは、1985年から95年を香水のクリエイションにおける黄金時代と語っていましたが、現在の香水業界をどのように見ていますか?

ヘネシー:95年以降の10年は、その前の10年と比べると香水業界にとってはあまりいい時代ではなかったと思います。その結果として、ニッチ香水のクリエイションの必要性が生まれました。名前の通ったブランドがレベルの高いクリエイションをしてくれていればよかったのですが、そうではなかったので消費者側から原点回帰が起こり、ある意味で規模が小さい、名前は知られていないけれど確実なモノ作りをする人たちが求められるようになりました。

WWD:「偉大ではなかった」とはコマーシャルになりすぎたという意味でしょうか?

ヘネシー:そうとも言えます。そうした時代を経て、今は新しいブランドやプロジェクトが次々と生まれるようになり、調香師やメーカーにとって非常にエキサイティングな時代になっていると思います。日本でもニッチなメーカーやブランドが存在できるようになってきています。

WWD:日本の香水市場はまだまだ規模が小さいですが、どのようにビジネスを成長させていくか教えてください。

ヘネシー:日本では化粧品市場に占める香水の割合が3%程度ということは認識しています。より快適に、香りをまとう提案をしていきたいと思います。今回新たに投入する「ル ルージュ パルファム」は、顔のまわりに軽い香りが漂い、ほのかに香りに包まれるアイテム。香水初心者のスタートポイントとしてはいいのではないかととても期待しています。