PROFILE: 鎌谷信宏/豊島 東京二部五課 課長

繊維商社は、「課長」がかなり大きな権限を持つ。多くの繊維商社がかつて「課別独立採算制」を導入しており、課が一つの会社のように動いたことにルーツがある。今でも課長は予算策定から大半の決裁権まで大きな権限を持つ。繊維・ファッション業界のハブである「繊維商社の課長のお仕事」には、ファッションビジネスの重要なエッセンスがぎゅっと詰まっている。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月30日号からの抜粋です)
豊島の鎌谷信宏課長が率いる東京二部五課は、百貨店アパレルや郊外紳士服チェーンを相手に、メンズアパレルのOEM・ODMを行っている。売上高は50数億円。この数年は右肩上がりで成長している。鎌谷課長は一貫してメンズ畑で、これまで素材から製品開発までを提案するビジネススタイルにこだわってきた。「素材からこだわっていいものを作って提案する、という商い自体が好きで。でも商社なのでもちろん利益も大事」。こう語る背景には、百貨店向けのODMビジネス自体が行き詰まり、この10年の間には所属していた課そのものがなくなり、半年ほどだがメンズOEMから外れたこともあったからだ。国内の高品質な素材を海外で縫製し、大手アパレルに納入するOEM・ODMはかつて、多くの商社が手掛けたビジネスの一つで、かつては多くの競合がいた。「大手のスケールメリットやパワーの前に悔しい思いをしたことも多かった」。だが、今では大手も含めプレーヤーは激減した。理由は独自に素材を開発し海外で縫製する、という加工貿易は実際には手間も工数もかかって利益が出にくいことと、2極化で、ターゲットである中間価格帯の市場も縮小した。だが、そうした中でも鎌谷課長はコツコツとビジネスモデルを磨き上げ、もうかる仕組みを構築してきた。「詳細は明かせないが、テキスタイルや縫製工場などの発注先と売り先のアパレルや小売りの両方が、ウィンウィンになる仕組みを作ってきた」。かつては百貨店アパレルのサプライヤーが郊外紳士服チェーンとも取引することはタブーだったが、「長年の取引を通じて信頼を積み重ねたことで、その慣習を乗り越えられた」。東京二部五課は営業6人のうち、4人が20代と若いチーム編成だ。ODMモデルは売り先や発注先の工場との丁寧なやり取りが必要ではあるものの、「ビジネスを個人に依存せず、仕組みとして動くように設計してきた。だから若くてもやればやっただけの成果が数字になる」。健康経営やコンプライアンスなど商社でも働く意義や働き方を再定義するタイミングだ。「だからこそ、数字だけじゃない仕事自体の楽しさも味わってほしい」。
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