金相場の高騰により度重なる値上げにもかかわらず活況なジュエリー市場。海外、国内ブランド問わず好調で、売上高が2ケタ増という百貨店が多い。今、なぜ、ジュエリーが売れるのか、その背景と消費者心理は。(この記事は「WWDJAPAN」2024年12月30日&25年1月6日合併号からの抜粋です)
ジュエリー
記者はこう見る
益成恭子/編集部記者
2024年、印象に残った取材
「ショパール(CHOPARD)」のイベントで、ハイジュエリー特集で紹介した“どんぐり”を施したネックレスを実際手に取ることができ、その表現力の豊かさと職人技の細やかさに大感動した。
2025年はこんな取材がしたい
ジュエリーデザインや制作過程の取材。ジュエリーに込められた作り手の思い、それがどのように職人により形になるのかという現場を知ることで、その価値の理解を深めて伝えたい。
"比較購買で価値に対してより厳しくなる消費者目線
ハイジュエリーからエントリー価格帯まで、全般的に好調だったジュエリー市場。金相場の継続的上昇で各社値上げをせざるを得ない状況だが、それでも、ジュエリーが売れ続けた。理由は、若手富裕層の増加やインバウンド消費、男性消費者への市場の広がりなどが挙げられるが、一番大きいのは消費者の価値観の変化だ。
コロナ禍で“長く使えるいいもの”へと価値観シフト。そして、二次流通の拡大により若年層の間では“再販できる品質の高いジュエリー”を求める傾向が強まった。それに加え、ラグジュアリー・ブランドのバッグの価格が高騰して高額品になった。以前は、ラグジュアリー・ブランドのバッグに集中していたご褒美需要が、ジュエリーにシフトしているのだ。バッグに50万円、100万円を払うのであればと、資産価値のあるジュエリーを選ぶ人が増えている。
海外ジュエラーというと、“路面店は銀座”“ハードルが高い”というイメージが強かった。だが、ここ数年「ティファニー(TIFFANY & CO.)」や「ブルガリ(BVLGARI)」などが表参道に出店。5月に「ブシュロン(BOUCHERON)」が移転オープンし、9月には「ショーメ(CHAUMET)」が出店した。また、イベント感覚で楽しめるポップアップやSNSなどにより、急速に若年層の間で認知が広がった。
その効果もあり、アイコン商材が根強い人気だ。「カルティエ()」の今年100周年を迎えた“トリニティ”や創業140周年の「ブルガリ」の“セルペンティ”、「ブシュロン」の誕生20周年“キャトル”などが代表格。各ブランドとも、周年のプロモーションが奏功し、売り上げを伸ばした。誰が見ても分かるブランドとデザイン、ブランドストーリーに資産性などが加わり“間違いない買い物”として選ばれている。
一方で、国内ジュエラーも順調に売り上げを伸ばしている。百貨店のジュエリー売り場はどこも2ケタ増と好調で、自家需要の高まりにより客単価がアップ。以前は、予算内の購入が多かったが、“自分だけの特別感”や“長く愛せるいいもの”を求める消費者が増えた。また、消費者の購入の仕方も変わった。事前にインターネットで調べて、そのジュエリーに価格と見合う価値があるか見極めて比較検討する。だから、18金を選ぶ層が増え、ベーシックだが見栄えのするデザインのジュエリーやパーソナルオーダー、カスタマイズできるジュエリーが選ばれる。好調ブランドは、「ヴァンドーム青山(VANDOME AOYAMA)」や「アガット(AGETE)」など。「ヴァンドーム青山」では、王道のダイヤモンドジュエリーを地金の種類や価格で選べるように幅広いラインアップを提供し、あらゆる需要に応えている。豊富な色石やコーディネート提案が特徴の「アガット」も絶好調。色石やチャームを選び、カスタマイズできる特別感が受けている。
他業種同様、ジュエリー業界でも市場の二極化が進んでいる。いわゆる貴金属と呼ばれるファインジュエリーかそれ以外の安価なアクセサリーのいずれかだ。2025年は、それがさらに進むと予測される。金相場はさらに上昇し、価格改定も予想されるが、本物志向の18金を求める層が増えるだろう。海外ブランド、国内ブランド、クリエイターと選択肢はいろいろ。幅広い選択肢において、消費者の目が、ジュエリー自体の価値=素材、デザイン、価格のバランスに対して、さらにシビアになるはずだ。イメージやストーリーも大切だが、それはジュエリー自体の付加価値にすぎない。数多くあるブランドの中で選ばれるには、ストーリー性とジュエリー自体の価値のバランスがさらに重要視されるだろう。
ジュエリー市場を読み解く上で
振り返っておきたいニュース3選
専門家はこう見る

本間恵子/ジュエリージャーナリスト
“ファイン”と“手に取りやすい”の明暗が分かれる
最大のニュースは、金が史上最高値をつけたことだ。10月末の価格は10年前のほぼ10倍の1g=1万5162円だ。この高騰で、顧客層が二つに分かれた。一つは金に価値を見出し、18金の大ぶりなジュエリーを購入する層。高くても資産になるという考えだ。もう一つは、純度の低い10金の繊細なジュエリーを購入する層。こちらは価格上昇でジュエリー購入にためらいがある。来年は金がさらに上がるとみられ、後者はますますジュエリーに手を出しにくくなる。だが、訪日客数が過去最高を記録し、百貨店やハイブランドの購買に貢献し、市場は活況だった。ハイジュエリーも好調。厳選された素材と卓越した職人技、そしてアーカイブと結びついたデザインが好まれ、この動きは来年も続くだろう。ラグジュアリー業界全体が、素材や職人技の稀少性を重要視する流れにあるからだ。
その他のジュエリーでは、顧客層が四つに分かれる。一つ目は、18金をはじめとする価値ある品を求める層。二つ目はハイブランドに忠実な層。三つ目は、ファッションとしてモード感の高いものやプチジュエリーを好む顧客。四つ目は、ジュエリー好きで、珍しい宝石や個性のあるデザインを熱愛する層だ。12月に都内で開催されたイベント「ニュー ジュエリー トウキョウ」には、四つ目の層が詰めかけた。個人デザイナー132ブランドが集う会場に3日間で1万2684人が訪れ、“ジュエリー好き”の顧客層を掘り起こした。来年もこの層が日本のジュエリーシーンを個性的なものにしていくだろう。
最後に、来年のキーワードを挙げる。聞き慣れなかった“ファインジュエリー”という言葉を最近はよく聞くようになった。意味するのは、18金以上のゴールドと、質のよい天然宝石を使ったジュエリーのこと。10金やシルバー、合成ダイヤモンドなどは入らない。高くても価値があるファインジュエリーと素材価値を抑えた手に届きやすい価格のジュエリー、来年はこの2つの明暗が分かれるだろう。明の方がファインジュエリーだ。