ファッション

教えて!パタゴニアさん 連載第10回 ビジネスモデルを抜本的に変えて危機に強い企業へ 日本支社長が語る 【後編】

 アパレル製品の持続可能性についての議論が活発化している。サステナブルな製品、サステナブルな〇〇といったあいまいなキャッチコピーがあふれる中で、アパレル企業には何をもってサステナブルなのかを説明する責任が問われ始めている。製品はもちろん、そもそもアパレル企業が存続していくにはどうしたらいいのだろうかーー「アパレル企業はサステナブルではない」と言い切りながら、ジャパン社を運営し、同社のミッションステートメント“私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む”に取り組むマーティ・ポンフレー(Marty Pomphrey)日本支社長に、パタゴニアがこれから進む道を聞いた。

WWD:多くの外資系企業は、本国の方針をなぞる形で日本でのビジネスを展開している。パタゴニアが推進する“製品の循環性”の実現は、国によって制度が異なるため、独自の施策も必要な気がする。日本独自の施策を行う予定はあるのか。

マーティ・ポンフレー日本支社長(以下、ポンフレー):当社もある程度世界全体で一括集中されてはいるが、日本独自のビジネスモデルを作り上げたいと考えている。もちろん考え方などベストプラクティスは本社の方法を踏襲するが、われわれは日本で33年間ビジネスをしてきた実績があり、フォローしてくれているカスタマーもいる。日本のカスタマーは品質に対して要求が高い。米国とは異なる日本独自の方法を作り、楽しく行っていきたい。熱心なスタッフも多いので、日本市場に合った、日本モデルを作っていきたい。

WWD:そのために行っていることがあれば教えてほしい。

ポンフレー:実は日本は大きな移行期間の真っ最中にある。プロセスや構造を変えるために、そして効率化を図るためにシステムに投資しようと考えている。理由は、この12~18カ月の間、私たちは危機に強い会社になろうと取り組んできたことがある。危機というのは新型コロナウイルスもその一つだし、環境危機もそうだ。このような危機的状況は今後発生していくし、ビジネスを抜本的に変え、危機に対応できる企業になっていきたいと考えている。

WWD:もう少し具体的に教えてほしい。

ポンフレー:例えば社員は、個々のスキルをさらに広げていろいろな仕事ができるようにしたいと考えている。社員一人が複数のスキルを持つことで、いろんな状況に対応できるようになる。店舗は関東に集中しているが、関東に大地震が来ると店舗も社員も大打撃を受けてしまう。もっと地域的にバランスが取れたものにすることもその一つだ。今こうしたディスカッションを重ねている。

 システムや人材に投資をすることで効率を高めることで時間的余裕が生まれる。そうすると仕事のほかにアクティビズムに時間を費やすことができる。

WWD:複数のスキルを身に付ける環境作りには、コストもかかる。そこまで社員に投資できるのは離職率が低いパタゴニアならではのような気もする。

ポンフレー:離職率は非常に低い。会社と社員、お互い何を期待しているかを明確にしているからだし、われわれはお互いに投資をしている。社員に対する投資は私たちの優先順位ナンバーワンになっている。社員のスキルが上がればミッションのためにより多くのことができるようになるからだ。社員への投資は必須だ。

 われわれのマネジメント理念では、マネジャーは管理することを減らし、コミュニケーションをより深めることが求められている。これが私たちの戦略だ。マネジャーの仕事は社員が障害に直面したときにそれを取り除くこと。そうすることで第一線で意思決定ができる。

WWD:創業当時からストーリーを伝えることでファン作りをしてきているので、意思を持った人々が集まってきていると感じる。

ポンフレー:ファンが多いのは、創業者が先見の明がある人物だったから、企業としていいスタートが切れている。私たちは時間を費やして考えることが可能だ。一般的な企業は利益を求めて四半期ごとに売り上げ目標を掲げてそのための戦略を立てている。われわれは、長期的な戦略を持ちながら、短期的な課題にチャレンジしている。

WWD:“新しく作らないファッション”が求められていると感じる。パタゴニアは“ウォーン ウエア”で一つの答えを出しているが、売り上げや規模を大きくするのには限界があるとも感じる。

ポンフレー:“ウォーン ウエア”はアパレルビジネスのほんの一部だ。われわれは新品を作るときに、素材や生産工程をよりよいものにしていくこと、より長持ちするもの、環境負荷が低いもの、これまでよりも、よりよいものを作ろうと試みているが、将来的には新品の販売よりも古着の販売の成長率を伸ばしたいと考えている。パタゴニアのユニークなビジネスとしてプロヴィジョンズのフードビジネスがある。これを伸ばしていきたいし、ローカルビジネスとしても伸ばしていきたい。

 日本ではソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)のプロジェクトも行っていて、エネルギーのソリューションを活用したフードビジネスも行っていく。日本産の食品を広げていきたいし、日本での取り組みを全社的にも広げていきたい。

WWD:古着販売の成長率を伸ばすことについてもう少し教えてほしい。

ポンフレー:どちらかというと新製品のビジネスをスローにしようという考え方だ。そのためにビジネスの構造を変えて、意図的に新品の販売がスローになるようにしたいと考えている。パタゴニアのビジネスにとっても地球にとっても現実的な対策ではないかと考えている。成長という考え方も、自然な成長とはどういうことか――前とは異なるアプローチを考えている。

WWD:新しいアパレル製品を売らない、作れば作るほど環境に貢献するという点でプロヴィジョンズの拡大はポジティブだ。

ポンフレー:フードビジネスは、地球にいいことをしているので大きく伸ばしたい。地球にとっても日本にとってもポジティブなインパクトをもたらすものだ。意図的に成長を遅らせるアパレルとは異なるビジネスモデルだ。

 簡単なことのように聞こえるかもしれないが、パタゴニアのビジネスモデルは非常に難しい。私がパタゴニアに雇われたときにイヴォン(・シュイナード創業者)と面談があったが、そのときに「2つの帽子をかぶらなければならない、2つのことをも全うしなければならない」と言われた。1つ目はビジネスを行うこと、2つ目は地球を救うというミッションを成し遂げること。この2つをやっていかなければいけないと言われた。会社として私に期待されていることは利益を出すことだが、それだけでは十分ではなく、もう一つのミッションを遂行していくことも期待されている。

 (8月9日に)IPCCの報告書が出たが、何も変えずに今のまま進むと、目標にしている気温1.5度の上昇幅を大きく上回ってしまう。これまでの成長モデルではなく、より厳しいビジネスモデルを採用しなければならないと考えている。今までの考え方を変えないと、人類はこの危機から逃れられないし、ただ単に砂に頭をうずめて何もできないと嘆いていてはいけない。

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