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「グッチ」が「バレンシアガ」を“ハッキング” アナリストらの評価は?

 「グッチ(GUCCI)」は4月15日、創業100周年を祝う最新コレクションをデジタルプラットフォーム上で発表した。オペラやクラシックなどで歌われる独唱曲を指す“アリア(Aria)”と題された同コレクションでは、13日頃から噂されていた通り、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターによる「バレンシアガ(BALENCIAGA)」へのトリビュート作品が登場した。

 「グッチ」によれば、今回の試みはコラボレーションやカプセルコレクションではなく、「バレンシアガ」のデザインなどをミケーレ流に再解釈して取り入れた、特別な“ハッキング・プロジェクト”だという。「グッチ」のGGパターンやアイコンモチーフ“フローラ”の上に「バレンシアガ」のロゴが重ねられていたり、「バレンシアガ」に特徴的なシルエットと「グッチ」らしさを掛け合わせたジャケットがあったりと、相手ブランドの要素を“ハック(盗み取る)”したアイテムなどが注目を集めた。なお、生産や販売について現時点では未定となっている。

 ミケーレ=クリエイティブ・ディレクターは、「コレクションの視聴者を驚かせたかった。クリエイティビティーは対話や実験、自由を必要とするので、閉ざされた空間であるアトリエを出て対話を続けようと考えた。認知度の高い2つのブランドの特徴や要素、ロゴなどを混ぜ合わせるのは、冒涜的な遊びをしているようだった」と語った。

 「バレンシアガ」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)​=アーティスティック・ディレクターは、「デザイナー同士がある意味では互いに影響を受けあっているということを認め、それを形にした今回のプロジェクトは、とても素晴らしいし勇気のあるコンセプトだと思う。ファッションは影響を受けることで進化していくものであり、『グッチ』はそれを優れた方法で表現した。ブランド同士が互いをどう見ているかについて、新たな視点をもたらした」と述べた。

 今回のプロジェクトは、「グッチ」と「バレンシアガ」がいずれもケリング(KERING)の傘下であることから実現したものと思われる。同社のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)会長兼最高経営責任者(CEO)は、「ファッションやラグジュアリーにおけるクリエイティビティーは、社会の絶え間ない変化を養分にして育つものだ。さまざまな変化によって新たなニーズが生まれ、クリエイターはそれに触発されて新鮮な作品を作り出す。アレッサンドロとデムナは両者とも画期的で多様性に満ちたビジョンを持っている、因習を打破するデザイナーだ。アリア・コレクションにおけるユニークでクリエイティブな試みは、彼らの独創性を示すと同時に、当社がいかに自由なクリエイティビティーを重視しているかの証左でもある」と話した。

 現代においてファッション業界でのコラボレーションは珍しいものではないが、人気の高いラグジュアリーブランド同士によるこの斬新なプロジェクトは、驚きと好感を持って受け止められたようだ。

 知的財産分野を専門とするジェフ・グラック(Jeff Gluck)弁護士は、「今回の取引の詳細については分からないが、一般的に知的財産権はデザイナーではなくブランド側が保有している。親会社が同じであることから比較的容易に合意に達したのではないかと思われるが、とても面白い試みで、いい意味で業界のルールを破った事例だ。個人的には『ナイキ(NIKE)』と『アディダス(ADIDAS)』のコラボレーションが見てみたい」とコメントした。

 ブランディングのコンサルティング会社、ザ・スタイルゲート(THE STYLE GATE)のアレッサンドロ・マリア・フェレーリ(Alessandro Maria Ferreri)CEO兼オーナーは、「共同ブランディングよりもさりげなくて、とても知的なプロジェクトだと思う。これにより、『グッチ』はさらに魅力的なブランドになった。今回のプロジェクト作品への反応を見て、好評であれば調整の上でアイテムを販売する可能性もあるのではないか」と分析した。

 マーケティングおよびコミュニケーションの専門家であるパオロ・ランディ(Paolo Landi)は、「今回の試みは高度にコンセプチュアルで、とても美しいアイデアだと思う。希少な作品ゆえに売り上げの面で利益をもたらす可能性も高いが、それ以上に、ブランドカルチャーの観点から『グッチ』と『バレンシアガ』の双方に大きな無形財産をもたらした。競合するのではなく、これまでにない画期的かつ現代的な方法で協力しあうことで、それぞれのブランドがさらに強くなると同時にファッション業界にも活力を与えた」と述べた。

 米投資銀行バーンスタイン(BERNSTEIN)のルカ・ソルカ(Luca Solca)=​アナリストは、「素晴らしいアイデアだと思う。『グッチ』は中国市場で人気が高いが、今回の試みは中国のSNS上で大きな反響を呼んでいる。新規性や希少性があり、これまでにないデザインの作品だということで、消費者の購入意欲はさらに高まるだろう。ブラボーだ」と高く評価した。

 ブランディング会社インターブランド(INTERBRAND)のレベッカ・ロビンス(Rebecca Robins)最高人材組織開発責任者兼最高文化責任者は、「ここ数年、ファッション業界におけるコラボレーションは新たな形を取るようになってきている。『モンクレール(MONCLER)』が世界中のクリエイターと協業する『モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)』や、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・​シモンズ(Raf Simons)が共同で手掛ける『プラダ(PRADA)』などがその例だ。『グッチ』は以前からさまざまなコラボレーションを行っているが、今回はこれまでにない目新しい方法だ」と述べた。

 同じくブランディング会社コーリー・ポーター・ベル(COLEY POETER BELL)のジェン・セーケイ(Jenn Szekely)=マネジング・パートナーは、「今回のプロジェクトは一般的な意味でのコラボレーションとは少し異なるかもしれないが、こうした協業は顧客にとって魅力的なものだ。両方のブランドのエッセンスをうまく取り入れた、1足す1が3となっているユニークな商品であれば購買意欲を強く喚起できるので、そのブランドにおける通常の価格帯よりも高価格で販売できる」と説明。また、「コラボをする際には、共同ブランディングをしたりどちらかが主導したりとさまざまな方法があるが、双方のブランドにとって最適な形を見つけられるかどうかが成功のカギとなる」と語った。

 ケリングは4月20日に2021年1〜3月期(第1四半期)決算を発表しており、売上高は前年同期比21.4%増の38億9000万ユーロ(約5018億円)だった。20年10~12月期には同8.1%減だったことを踏まえると大幅に回復している。この理由として、スターブランドである「グッチ」の売り上げが10~12月期には同13.5%減と不調だったのが、今期は中国市場で3ケタ成長だったことが寄与して同20.1%増の21億6770万ユーロ(約2796億円)とV字回復していることが挙げられる。なお、ほかの傘下ブランドである「サンローラン(SAINT LAURENT)」は同18.8%増の5億1670万ユーロ(約666億円)、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は同19.9%増の3億2820万ユーロ(約423億円)といずれも好調だった。その他のメゾンに含まれるため「バレンシアガ」単体での売上高は開示されていないが、同ブランドも非常に好調だったという。

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