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ワコールが挑む「顧客データ起点」のデジタル戦略 コロナ禍で待ったなし

 新型コロナウイルスの影響で2021年3月期通期予想が創業以来初の赤字になると発表したワコールホールディングス(HD)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)に本腰を入れる。7月31日に京都本社で開いた決算説明会で安原弘展社長は「直面している課題のスケールは非常に大きいが、パンデミックによってもたらされた機会を冷静に受け止め、長期ビジョンの実現に向けて変革を加速させる」と強調した。

他社にはない「膨大な女性の体形データ」

 強みとする研究力や販売力などの組織能力をDXによって進化させる。オムニチャネル戦略や2020年度から導入した3Dボディスキャナー、AI(人工知能)接客に加え、RFID(無線電子タグ)を活用した省力化など「将来の成長に欠かせないデジタル革命への取り組みは前進している。とどまることなく着実に進めていきたい」と話した。

 特に国内のワコール事業では、顧客データの活用をベースとしたビジネスモデルへの変革を加速する。中核事業会社であるワコールの伊東知康社長は「この5年間でリアル店舗と自社EC、百貨店の顧客を合わせると約300万人がワコールで買い物されている。顧客データをベースに新規顧客の拡大とロイヤルカスタマー化を図り、高収益の経営体質を確立していきたい」と説明する。

 具体的には顧客データを起点とした自主管理型ビジネスへの移行を進める。同社は約300万人の購買データのほか、ワコール人間科学研究所が蓄積してきた体の計測データ約4万5000人分と3Dボディスキャナーのデータ約2万人分を保有する。「これらのデータをセットで管理できるという特徴を生かし、研究を起点とした従来のビジネスモデルから、顧客を起点に双方向のモノ作りとマーケティングプロセスを実行するビジネスモデルへと進化させる」(伊東社長)。ビッグデータや新技術をオープンイノベーションで活用し、これまで接点のなかった顧客の獲得にも積極的に取り組む。7月に伊勢丹新宿本店で導入された、体形タイプと婦人服のマッチングサービス「マッチパレット」もその一環だ。

5年後にEC化率25%めざす

 緊急事態宣言でリアル店舗が休業するなか、ワコールの20年4〜6月期の自社EC売上高は前年同期比91%増と大きく伸びた。20年3月期で約15%だったEC化率(売上高に占めるECの割合)を25年3月期に約25%へと引き上げる。自社最大の物流センターである滋賀県の守山物流センターを21年秋までに1.5倍に増床。外部委託していたECの配送を自社運営に切り替える。

 現状、リアル店舗の売上高の割合は卸売ビジネスが約80%、直営店などによる自主管理ビジネスが約20%。これも25年3月期には卸売ビジネス約60%、自主管理ビジネス約40%に移行させる。直営店と自社ECを含めた自主管理ビジネスの割合は半分くらいになるイメージだ。

 屋台骨である卸売ビジネスの縮小は、ここ数年の百貨店や量販店の相次ぐ閉店による売り場の減少が大きな要因だ。「売り場の統合や人員配置の見直し、百貨店の定借ビジネスへの転換に伴う契約変更など複合的な要因もある。リアル店舗の収益性をいかに高めるかを議論、検討する社内プロジェクトを立ち上げた。年内には各社と交渉して取引条件などを確定していきたい」(伊東社長)。

 ブランド再編と人件費の削減にも着手する。ブランド数は3割減らし、インナーウエア以外の商品も集約する。20年3月期に30%を超えた総人件費率は4年後をめどに25%以下まで抑える。「店頭で活躍してきたビューティアドバイザー(販売員)をマーケティングやマネージャー職に配置転換するなど人員の適正配置と採用人数の調整によって固定費の削減にスピードをあげて取り組み、収益力の強化につなげたい」(伊東社長)と話している。

橋長初代(はしなが・はつよ)/流通ライター:同志社女子大学卒。ファッション専門誌の編集を経てフリーランスのライターに。関西を拠点に商業施設、百貨店、専門店、アパレル、消費トレンド、ホテル、海外進出などの動向を「WWD JAPAN.com」「日経クロストレンド」などに寄稿。取材では現場での直感と消費者目線を大事にしている。最近の関心事は“台湾”と“野菜づくり”と“コロナ後のファッションビジネス”。「リモート取材が浸透すれば、もっと取材先を広げていきたい」