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オンワード保元社長が再びZOZOと組んだ理由 老舗は「デジタル流通企業」に変われるか

 オンワードホールディングス(HD)がZOZOとの協業を発表した。オンワードのオーダーメードブランド「カシヤマ(KASHIYAMA)」とZOZOがゾゾスーツで得た100万件以上の体形データを連携させた服を「ゾゾタウン」で8月から販売する。目指すのは、オンライン完結で簡単にオーダーメードできる事業の拡大だ。オンワードHDはZOZOが2018年末に導入した会員向けの割引サービス「ゾゾアリガト」に反発してゾゾタウンを退店した経緯がある。約1年半ぶりの“雪解け”は「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」を掲げるオンワードHDの改革の一里塚でもある。保元道宣社長に狙いを聞いた。

WWD:一度は袂を分かったZOZOと協業に至った経緯は?

保元道宣社長(以下、保元):昨年9月、ZOZOの社長に澤田(宏太郎)さんが就任したことが発端だった。澤田さんとは個人的に10年以上のお付き合いがある。09年12月に当社が自社EC「オンワードクローゼット」を立ち上げた際、私がEC担当の執行役員、澤田さんはEC支援のスタートトゥデイコンサルティング(13年にZOZOに吸収合併)の社長として、一緒にプロジェクトを進めた。ZOZOの社長就任に際して祝電を送り、10月にお会いした。当社の「カシヤマ」とZOZOのマルチサイズプラットフォームの話が出て、一緒に何かできないだろうかとなった。すぐに現場の担当者同士で具体的なシステム連携などを煮詰め、協業への道筋が決まった。協業のスタートは8月だが、実際はコロナ前から進めていた案件だった。

オンライン完結型の可能性を探る

WWD:ゾゾタウンに約1年半ぶりの再出店だ。

保元:退店の理由だった「ゾゾアリガト」は終了しており、わだかまりはない。それに今回のカスタマイズは既製服と違い、ZOZOに在庫を預けて販売する形態ではない。「カシヤマ」は成長しているものの、顧客基盤は40代以上のお客さまが中心だ。ZOZOを利用する若い世代との接点を増やしたい。もう一つの狙いは、オンライン完結型の強化だ。

WWD:テーラードスーツを主力にする「カシヤマ」は、1着目は店舗で細かく採寸し、2着目以降はオンライン購入を促す手法だった。

保元:カスタマイズはリアル店舗で丁寧に採寸するのがベスト。店舗で採寸した体形データをパターン(型紙)に自動変換し、中国・大連の自社工場を動かして、最短1週間でお客さまの手元に届ける。この仕組みが「カシヤマ」の最大の強みだ。ただ、一方で来店せずにオンライン上だけでの注文を望むお客さまの声もある。オンライン完結型は自社サイトでもやっているが、ZOZOと組めばもっと多くの方々に利用してもらえる。日本の地方、あるいは海外市場を考えると採寸のためのリアル店舗を増やし続けるのも限界がある。ひとまず約50〜60店舗(7月現在33店舗)を目指しているが、オンライン完結で顧客満足を高める手法も磨く。ZOZOとの協業はその良い機会になる。

WWD:ZOZOでのカスタマイズ事業で5年後の売上高100億円を掲げている。

保元:もともと「カシヤマ」は自社のリアル店舗とECで250億円の売上高目標を掲げてきた。(集客力のある)ZOZOへの出店でそれくらいに成長させたい。メンズ・レディスのセットアップだけでなく、靴などのアイテムにも広げる。ZOZOではカスタマイズの協業と同時に、既製服の「J.プレス(J.PRESS)」「ジョゼフ(JOSEPH)」など11ブランドも同時に出店する。

当社の場合、EC売上高のうち自社ECの割合が9割(20年3〜5月期)と高い。私は自社ECが7割、他社ECが3割くらいのバランスがちょうど良いと考えている。自社ECを中心にしつつ、ZOZOなどの他社ECで新しいお客さまとの接点を広げる。

リアル店舗を半分に減らす

WWD:中核会社のオンワード樫山などの百貨店を主力にした既存事業に大ナタをふるっている。昨年から今年にかけての構造改革でリアル店舗約1400店舗も撤退を進めている。店舗数はほぼ半減する。

保元:今後オンワードが目指すのは「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」だ。コロナによって社内の意識改革がだいぶ進んだ。これまでずっと店頭第一でやってきた。もちろん店頭は大事だけれど、社会のデジタル化が進めば、店頭とウェブの境もなくなる。コロナは頭を切り替える機会になった。

WWD:半減させたリアル店舗はどう変わるのか。

保元:リアル店舗はまず集約を進めている最中で、具体的な変革は少し先になる。まだ仮説の段階だが、既存ブランドをいかにデジタルトランスフォーメーション(DX)して競争力を高めるかがカギになる。集約した売り場の販売効率を上げる。例えば一つの百貨店の中で複数のブランド単位で分散していた売り場をまとめて複合型店舗を作る。またリアル店舗の欠品を恐れて供給過多になる嫌いがあった。ECとの在庫連動でこういった非効率を減らす。仮に売り場に色やサイズの在庫がなくてもECから速やかにお客さまに届ける。今後は地方百貨店の撤退でリアル店舗での接点がなくなってしまう地域も残念ながら出てくる。ウェブに誘導するだけでなく、ポップアップショップなどを設けて、商品を手にとっていただく機会を作る。これらの仮説を2〜3年かけて落とし込むフェーズに入る。コロナが長期化する前提で、リアル店舗とウェブのシームレス化の戦略を考える。

新規ブランドはD2Cが中心になる

WWD:今春スタートした「アンクレイヴ(UNCRAVE)」などD2Cの新しいブランドの導入にも積極的だ。

保元:D2CブランドはEC拡大の切り札だ。今後、新しいブランドの開発はD2Cが中心になるだろう。16年に買収した婦人服のD2C「ティアクラッセ(TIACLASSE)」は、コロナ禍で売り上げが3倍になった。「アンクレイヴ」の滑り出しも好調だった。ウィズコロナの時代は、オンライン完結の需要が伸びる。出店しなくても全国からお客さんを呼べる。リアル店舗のブランドのように売上高が何百億円にならなくても、損益分岐点が低いので利益が出やすい。D2Cブランドは数十億円の規模でよい。規模よりもウェブ上で埋もれない際立った個性が大切だ。

リアル店舗を前提にしたブランドと、オンラインを前提にしたブランドは少し違う。リアル店舗のブランドは百貨店やショッピングセンターのMDの中でどう見えるかが大切だし、坪効率のためマスに広げざるを得ない。一方、オンラインは見え方がフラットになる。商品そのものにしっかりした主張がないと埋没する。アイテム軸だったり、サイズ軸だったり、マスブランドで十分に対応できていなかったMDが不可欠になる。

WWD:既存のリアル店舗のブランドをどう立て直すか。

保元:リアル店舗とECの境界線はなくなる。リアル店舗の顧客には「23区」と「組曲」の違いは伝わるだろうが、初めてオンラインで接するお客さまにちゃんと伝わるかが課題だ。ブランドのステートメントをもう一度明確にしないといけない。基幹ブランドである「23区」「組曲」「ICB」「自由区」は平成の初期にデビューして、おおむね30年くらい経つ。これらの棚卸しも必要だ。集客力のある施設に出ていればよい時代ではない。お客さまのライフスタイルに合わせて進化しなければ生き残れない。次の30年に向けて基幹ブランドを再定義する。

WWD:売上高に占めるECの割合(EC化率)を50%に高めると宣言した。

保元:緊急事態宣言による店舗休業の影響で第1四半期(20年3〜5月期)のEC化率は45%に達した。店舗が再開した6月も35%と高止まりしている。デジタル流通企業に進化するならEC化率50%が一つの目安だ。当初は時間がかかると考えていたが、コロナ禍に背中を押されて3〜5年で達成できるかもしれない。「デジタル流通企業」でなければ生き残れないと社員の多くも痛感したはずだ。

今はECの拡大など販売主軸のDXだが、今後は商品企画、生産、物流などサプライチェーンのDXに向かうことになる。さいわい「カシヤマ」のカスタマイズ事業で一つの形を作ることができた。これからは既製服でもDXを進めるし、さかのぼって川上(素材・染色など)でも可能性を探っていく。

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