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急速なデジタル化に後れを取る仏百貨店 O2Oに活路見出すセレクトショップ

 3月17日よりロックダウン(都市封鎖)が続くフランスでは小売業界のデジタル化が急速に進んでいるが、百貨店は大きく後れをとっている。プランタン(PRINTEMPS)は雑誌「アンチドート(Antidote)」と提携したメディア型ECサイトを3月上旬に開設したばかりだし、ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)のECサイトは長年リニューアルされておらずデザインも機能も古めかしいままだ。昨年オープンしたシャンゼリゼ通り新店はECを設けず、さらに実店舗の売り上げ悪化により今後社内統合される予定だという。2017年に開設されたLVMHグループ傘下のボン・マルシェ(LE BON MARCHE)のECサイトの売り上げも期待値には及ばず、フランスでは英米大手ECサイトが優勢だ。(この記事はWWDジャパン2020年4月20日号からの抜粋に加筆しています)

 一方で、昨年1月にパリに新店をオープンしたネクスト・ドア(THE NEXT DOOR)や、若年層とLGBTQIA+に支持されるランセイン(L’INSANE)はターゲットを絞り、オフラインでのコミュニケーションを密にすることで独自路線を見出し、生き残りをかける。開店5周年を迎えたトム・グレイハウンド・パリ(TOM GREYHOUND PARIS)は、ロックダウンを予期して急遽ECサイトを制作し、店舗営業停止日に運営を開始した。今後コンセプトを定期的に変えて編集型のECサイトを展開する予定だ。

 コロナショックを機にさまざまな物事が淘汰されていく中で、小売りが生き残っていくために今後求められるのはコミュニティー力とO2O(Online to Offline)だろう。消費者がお金を費やす対象が時間・人・信頼へと変化し、誰が働いているか、誰にお金を落とすか、誰とつながれるかという“人”検索で店を選び、そこで費やす時間が重要視される傾向になると思う。ここでいう“人”とはスタッフだけでなく顧客も含まれ、顧客同士の交流を増やすこともコミュニティー強化に繋がる。つまり小売りは、資本主義ではなく顧客第一主義で消費者と有機的な信頼関係を築くことが、結果的に売り上げへと影響するのではないだろうか。そのヒントを探るためパリの小売各店に調査を行なったが、5月11日までのロックダウン延長が4月13日に決まり、対応に追われる多くの百貨店やセレクトショップから回答は得られなかった。そんな中でも回答してくれたセレクトショップ2店は、新たな可能性を信じて好機へと変えるために挑戦を続けていた。

トム・グレイハウンド・パリ

回答者:ダヴィッド・カン=ゼネラル・ディレクター

Q.外出制限期間中、ECサイトは機能しているか?

A.ロックダウンが命じられる直前にスタートしたばかりのECサイトは、活発に機能している。

Q.ECサイトからの注文はどのように配送している?

A.残念ながら運送会社が限られているため、遅延など配送の問題は発生している。業務を行っている運送会社と協力しながら、通常通りとはいかずともなんとか配送できている。

Q.2020年春夏コレクションをどう販売していく?

A.3月17日をもって実店舗の営業を停止しているため、ECサイトやSNSを通じて20年春夏コレクションのプロモーションに徹している。

Q.現在、最も懸念していることは何?

A.20年春夏コレクションのセレクションには非常に自信があるが、実店舗を開けられないため、消費者に商品をどれだけ提示できるかという点。可能な限り全ての商品をECサイトに掲載し、多くの人と共有できるよう努めている。

Q.この危機にどう立ち向かい、どう乗り越える?

A.現状を受け入れ、まずは前を向くこと。前例のないさまざまな方法で働き続けることが重要だと思う。先を見据えて、今は世界中の消費者の興味を引くビジュアル作りに注力し、ECサイトがより活発になるようにしたい。ビジュアルのコンセプトは、社会状況や潮流によって変えていく。現在発信しているキーワードは“私たちはパリにいます”“素晴らしい春夏の服を用意しています”“でも自宅に閉じ込められています”といった事実。そこで、パリのアパルトマンのシックで素敵なインテリアをビジュアルに使用して、“Quarantine in Paris(パリの検疫期間)”をテーマにしたコンテンツ作りに成功した。このコンテンツに注目を集まれば、ロックダウン解除後には20年春夏コレクションについてもっと知りたいと、多くの人が実店舗とECサイトに訪れてくれることだろう。

ランセイン

回答者:リン・ゼイン創始者兼バイヤー&ローラ・ダルモン=バイヤー

Q.外出制限期間中、ECサイトは機能しているか?

A.ランセインは非常に小さな家族のような構造のため、とても柔軟性がある。この局面を顧客を含めて私たちコミュティーが無益に過ごすことのないよう、新たなプロモーションや注文予約制度、マーケティングキャンペーンを立ち上げた。公式サイトに設けているブログのコンテンツを見直し、定期的な更新でフォロワーとコミュニケーションを密に取り合い、自宅隔離中にそれぞれの考えを磨いてアップデートできるようにしている。ロックダウン直前に2020年春夏コレクションの商品を撮影する機会があった。ECサイトは最新コレクションの状態を保ち、顧客は限定品も注文することができる。

Q.ECサイトからの注文を、どのように配送している?

A.チームと顧客の安全が最優先事項だ。可能な限り細心の注意を払い、フランス政府とWHOが推奨する規則と衛生手順に厳格に従い配送の処理を進めている。配送の準備は、店舗の近くに住むスタッフが防護具を着用して外部との接触を一切なしにして進めている。商品は、通常時には経由する仲介業者を介さず、直接運送会社で手続きを済ませてソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の規定に沿って行っている。

Q.2020年春夏コレクションをどう販売していく?

A.ロックダウンと同時に最新コレクションの販売を開始し、在庫の一部はすでに売れている。注文予約制度と、コンテンツ作成の組織をさらに強化しているところ。新型コロナウイルスの危機が迫っている頃、私たちはブランドに出していた注文をキャンセルせずに全て履行することに決めた。ほかの多くの小売店がキャンセルしたことを考慮すると、ほぼエクスクルーシブの状態で提供できると考えたからだ。売り上げの大部分を占めるアジア市場は、ヨーロッパに比べて非常に活発だ。SNS上での顧客の存在は大きかったが、ロックダウン中にさらに強調された。そのためインスタグラムやフェイスブック、ウィーチャット(微信、WeChat)といったプラットフォームでさまざまなキャンペーンやお知らせを発信している。

Q.現在、最も懸念していることは何?

A.最も懸念する事柄の一つは、実店舗の将来。ランセインは最初から、コミュニティーとの密なコミュニケーションの中から有効なアプローチやイベント、展覧会、ポップアップを選択してきた。ファッションは単に衣服というだけではなく、あらゆるインスピーレーションから生まれた抽象的で具体的な芸術表現の一部でもあるという考えを持っているからだ。そのため、私たちを待っている回避できない危機の時期、いうならば“アフターコロナのトラウマ期”を利用して、コミュニケーションの大部分をデジタル化することにますます注力する予定だ。ほかにも、若手ブランドがこの危機にうまく対処できるのかという懸念もある。われわれは若手ブランドの支持者だが、オープンから1年ほどしか経過しておらず、影響力が強いとはまだ言えない。私たちの美学と価値観を共有するブランドを可能な限りサポートするつもりだが、脆弱なブランドは生き残るのが厳しいだろうとも思う。

Q.この危機にどう立ち向かい、どう乗り越える?

A.われわれは独自の美学で魅力をもつ非常にニッチな商品を提供するプラットフォームとして、この危機を乗り越えられると信じている。私たちの顧客は衝動的に買い物を楽しむというよりも、情熱的な鑑定家のように自身の目を信じる慎重な買い手が多い。彼らとともに店も成長することで、進化の曲線を描き続けられると思っている。もちろん未来は不明瞭であり、消費者の購買意欲をコントロールすることはできない。それでも、私たちの強みは常に前向きで意欲を維持することだから。


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ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける