デザインの“パクリ”問題や口約束で受けてしまった仕事、著作権や商標権など、実はファッション業界と法律は密接に結びついている。法律を知らなかったことでビジネスに大きな影響や損害を与えてしまう可能性もある。一方で、「法律は難しくてよく分からない」と敬遠している業界人も多いのではないだろうか。そこで、弊紙記者が業界を代表してファッション業界に関係する法律(=ファッションロー)を専門とするスペシャリストたちに業界の悩みや疑問を相談していく。さて、ここでの今日のお題は?(この記事はWWDジャパン2020年3月2日号からの抜粋です)
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公取委が楽天を調査 「送料無料化」問題で出店者と対立
楽天がネット通販モール「楽天市場」で販売する3980円以上の商品は一律で送料込みの価格表示にすることを決めたことを受け、「楽天市場」の出店テナントで構成される任意団体「楽天ユニオン」は反対を表明。楽天が規約を変更することは独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたるとして公正取引委員会(以下、公取委)に調査を求めた。
楽天の三木谷浩史会長兼社長は“送料無料ライン”という表現について「誤解を生みやすかった」として名称を“送料込みライン”に変更したが、導入の必要性を引き続き主張し、当初の予定通り3月18日から実施すると発表している。(3月13日追記:その後、新型コロナウイルスの影響などを鑑み、全店舗一斉導入ではなく、準備ができた店舗のみ先行して実施することを決めた。)
【今日の弁護士】
光野真純/TH総合法律事務所 弁護士
WWDジャパン(以下、WWD):今回問題になっている「優越的地位の濫用」とは?
光野真純弁護士(以下、光野):独占禁止法によって禁止されている行為で、取引上優越した地位にある事業が、その地位を利用して取引の相手方に対して不当に不利益を与えることを指します。今回はプラットフォームを提供している楽天が出店者に対して「送料込みの価格表示にしなさい」と言ったことが、「不当に不利益を与える」といえるかが問題になっています。
WWD:下請法だと資本金の額で親事業者かどうかが決まるが、「取引上優越した地位にある事業者」に該当する条件は?
光野:明確な基準はなく、1.取引依存度や発注者の市場における地位、2.受注者の変更可能性、3.事業規模、4.商品の需給関係などを総合的に判断します。
WWD:公取委の調査の結果、優越的地位の濫用だと判断されたらどうなる?
光野:送料込みの価格表示の撤回を命じる排除措置命令や課徴金が課されます。予防措置として社内研修などが命じられる場合もあります。排除措置命令は回復措置に過ぎないので、最近はペナルティーとして課徴金が課されることも多いです。
WWD:楽天以外のプラットフォーマーに同様の問題は起きていないのか。
光野:送料に関する問題ではありませんが、アマゾンジャパンが2019年4月に公取委の調査を受けています。同社が運営する「アマゾン マーケットプレイス」では、個々の出店企業が直接商品を売買して、アマゾンは取引のプラットフォームを提供しているのですが、出店企業が最低1%のポイントを付与することと、ポイントをアマゾンジャパンではなく出店者に負担させると利用規約を変更したことが優越的地位の濫用に該当すると指摘されました。このときは調査中に同社が規約変更を中止したため、公取委が調査の継続を取りやめました。
WWD:現在、公取委が楽天の調査に入っている段階だ。三木谷浩史会長兼社長は、“送料無料”を“送料込み”という名称に変更することを発表した。取り組み自体は予定通り3月18日から実施するという。
光野:名称を変えただけで公取委の判断に大きな差が出るとも思えませんが、どのような判断を下すか気になりますね。
“送料無料化”決定までに何をしたか
WWD:楽天としては、あくまで価格表示の統一が目的であって、価格設定は出店者の自由に任せているという主張なのだと思う。確かに送料込みの価格表示と、送料が含まれていない価格表示が同じ一覧上に表示されるのは消費者にとって不親切だし、是正すべきことだ。
光野:送料を出店者に負担させるわけではないので優越的地位の濫用には当たらないとも言えますね。自由に価格も設定できますし。ただし、利用規約をどのようにして変えたのかという点が気になりますね。
WWD:楽天は47都道府県で説明会を実施していたというから、一方的に制度を変更したわけではなさそうだ。一方で質問しても満足いく回答が返ってこないなど、楽天側の対応が不十分だったという出店者の声も報道されていた。“送料無料ライン”を発表する前に双方のコミュニケーションがもう少し円滑に行われていれば、ここまで大きな問題にならなかったのかもしれない。
光野:そうですね。もし楽天が今回の件を円滑に進める気があったのだとすれば、また、本当に最初から送料込みの値段表示にすることが目的だったのだとすれば、“無料”といった誤解を生みやすい言葉を使うのではなく、“送料込み表示”と言うべきでした。また、公取委は事業の進め方などを相談できる事前相談制度という窓口を設置しています。日経新聞の報道によると楽天は「違反のおそれがある」と回答を受けていたようなので、なおさら慎重に進めた方がよかったかもしれません。
WWD:窓口は誰でも利用できるのか。
光野:書面には書面で回答してくれますし、匿名で電話相談もできます。
WWD:勝手なイメージだが、「お役所仕事」でレスポンスが悪い印象がある。実際はどうか。
光野:電話相談はその場で回答してくれることが多いはずです。書面の場合は公取委も慎重になるので少し時間はかかると思いますが、回答がなかったというのは聞いたことがありませんね。また、もし事前に弁護士をはじめとする専門家に相談しているのであれば、意見書をもらっておくとか、きちんと出店者のことも配慮して進めているという証拠作りをしておけば、たとえ公取委が調査に入っても自社を守る術になります。
WWD:たとえ企業が間違った対応をしていなくても意図が正しく伝わらないことで関係者はもちろん、世論に誤解を与えて企業にとってマイナスになってしまうこともある。管轄省庁や専門家と事前のすり合わせを行って事業を進めることも大事だし、事業担当者や法務が広報と密にコミュニケーションをとって発表の仕方などまで総合的に戦略を立てて進めることの重要性を感じる。三木谷会長兼社長も、「“送料無料”とうたう方が、エンドユーザーには分かりやすいと思っていたが、各種報道で言及されている通り、誤解を生みやすかったと反省している。正直かつ分かりやすい名称に変更した」とコメントしていた。
光野:そうですね。楽天が最初から表示方法の改善を目標としていたのであれば、そう説明した方が消費者にしても出店者にしても反応は違ったのではないかなと思います。「事前によく話し合いましょう」とかって、当たり前のこと過ぎて文字にしても軽んじられてしまうのですが、現場だと意外と守られていないという印象がありますね。やはり誠実に対応する必要があると思います。
記者のおさらいメモ
1、「優越的地位の濫用」で課徴金といったペナルティーも
2、利用規約を変更するまでの経緯がポイント
3、公取委の相談窓口を利用することも有用
光野真純・弁護士がヘビロテしているお気に入りアイテムは?
昨年、「グローブ トロッター」でキャリーケースを新調しました。「アンダーカバー」とコラボしたものを使っていたんですが、小さいサイズがよくて、ロンドン路面店限定のアイテムに名前を入れてもらいました。本体が紺で持ち手が真っ赤。私らしさと弁護士らしさが出ているかなと。裁判に行くときに資料を詰め込んでます。