メンズ・ファッション・ウイーク取材へ向かう機内で、服飾史家・中野香織氏の著書である「『イノベーター』で読むアパレル全史【増補改訂版】」(日本実業出版社)を読みました。その中で強く心に残ったのが、「ヴォーグ(VOGUE)」編集長などを歴任した伝説のエディター、ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)の逸話です。
本書で彼女は、ファクト(事実)とフィクション(虚構)を混ぜて語る「ファクション」の人だったというエピソードが紹介されていました。「幼い頃にディアギレフのバレエ・リュスの舞台を見た」「少女時代、バッファロー・ビルに乗馬を教わった」「大西洋横断へ飛び立ったリンドバーグの機体が、わが家の庭の上空を通っていった」。彼女はこうしたウソかホントか分からないような思い出話を、周囲にいる人に対して披露し続けたといいます。そして、この虚実を織り交ぜるような姿勢は、彼女の誌面づくりにも通底していたのだそう。優先すべきは事実の正確さではなく、読者に「夢」を見させることーー私たち記者とは目指す所が違うのかもしれませんが、それを仕事の核に置いた人でした。
緊縮ムードが世界を覆う今だからこそ、この世界に没入していたいと思わせる「ファクション」の価値は今、高まっているのではないでしょうか。その視点で2027年春夏パリ・メンズコレクションを振り返ると、これを最も高い次元で創作しているのは、やはり欧州のラグジュアリーブランドたちでした。ショーという十数分のパフォーマンスのために、セット、音楽、キャスティングを作り込む。サーフカルチャーとの融合をテーマに大波が打ち寄せるセットを組み、観客をその世界に引きずり込んだ「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が最たる例でしょう。ジュリアン・クロスナーの「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」によるステファヌ・マラルメ(Stéphane Mallarmé)の詩「半獣神の午後」に着想したコレクションも、官能的なテキスタイル使いで夢心地なパラレルワールドに誘いました。
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