
「パンク」と聞いて、鋲のついた革ジャンやモヒカンを思い浮かべるなら、少し立ち止まってほしい。第43回「ミラノ・ウニカ」(7月7〜9日)が2027-28年秋冬シーズン向けに掲げたテーマは、「パンク」だ。ただ、ここで言う「パンク」とは、音楽でもファッションのスタイルでもない。自分の頭で考え、実験し、決まりきった美意識に流されない——そんな「態度」のことだ。均質化した趣味を抜け出し、自分だけの個性を貫く。その姿勢こそ、イタリアの手仕事が守り続けてきたものだと、「ミラノ・ウニカ」のステファノ・ファッダ(Stefano Fadda)ファッションディレクターは言う。
この思想を最も雄弁に物語るのが、イタリア最高峰のファッション・フォトグラファーの一人に数えられるジャン・パオロ・バルビエリ(Gian Paolo Barbieri、1935-2024)との協働だ。バルビエリ財団との共催による展覧会「ザ・ラディカル・エレガンス(The Radical Elegance)」では、彼の象徴的な24点の写真が、FW27-28コレクションの生地と並べて展示された。半世紀近くイタリアン・モードの世界観を築いてきた巨匠の眼差しと、明日のテキスタイルが、静かに響き合う。「厳格な様式と自由奔放な表現が同居するバルビエリの美学は、まさに今季掲げたパンク精神そのものだ」とファッダ・ディレクターは語る。彼は、この秋冬に何を見たのか。
「ミラノ・ウニカ」のファッションディレクターに直撃
「パンク」の真意
WWD:テーマに「パンク」を掲げた。ただ、トレンドエリアを見る限り、「パンク」を感じさせるほどアグレッシブなテキスタイルは少なかったように見えたが。
ステファノ・ファッダ「ミラノ・ウニカ」ファッションディレクター(以下、ファッダ):一般的に「パンク」といえば、非常にアグレッシブで、前衛的で、とにかく新しい——そういうイメージだろう。でも、それは古典的な考え方だ。今回、私にとっての「パンク」とは、あくまで「態度」であり、プロセスに関わるものだ。既存のプロセスや概念を打ち破ろうとする、テキスタイル開発における「アティテュード」を意味している。例えば日本の素材を思い浮かべてほしい。小松マテーレやカジグループの極薄のナイロン素材は、遠くから見ればなるほど普通のナイロンに見えるかもしれない。だが、近くで見て、触れてみれば、既存の「ナイロン」を打ち破るような強烈なインパクトを備えている。開発は天啓のようなインスピレーションから始まったのかもしれないし、絶え間ない技術革新の先に生まれたのかもしれない。いずれにせよ、彼らの「ナイロン素材」は、その存在も、それを生み出した背景も、まさに「パンク」スピリットの賜物だ。
WWD:では、なぜテーマに「パンク」を選んだのか。
ファッダ:「ミラノ・ウニカ」の出展者たちがターゲットにするラグジュアリー市場は、いま困難な状態にある。そうした中で、出展者であるテキスタイルメーカーに求められるのは、ベーシックなものではなく、まさに「パンク」な姿勢であり、テキスタイルだ。結果として、ビジュアルが突飛である必要はない。厳しい経済状況だからこそ、服にはこれまで以上に「買う理由」が要る。理由は、ひと目見て欲しくなるビジュアルでも、既成概念を上書きするタッチでも、何でもいい。重要なのは、「服を買いたくなる理由」を強烈に感じさせることだ。
WWD:それは、構造的な転換期を意味するのか。
ファッダ:次シーズン(2028年春夏)のコンセプトは、すでに完成している。現時点では明かせないが、少なくとも「パンク」ではない。より職人的(crafted)な方向になるだろう。
WWD:今回の協働相手に、ジャン・パオロ・バルビエリを選んだ。なぜ彼だったのか。
ファッダ:彼は、ファッション写真の「撮り方」を最初に変えた写真家の一人だ。だからこそ、その「態度」がまさにパンクだった。写真の見た目そのものは、非常にクリーンで精緻に映るかもしれない。だが、ファッション写真の撮り方を変えたという、その態度こそがパンクだったということだ。