ファッション

「ドリス ヴァン ノッテン」に見る継承の成功例 初の春夏ウィメンズは鮮やかな色柄と装飾で描く楽観的ムード

ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)がドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)の後継者で良かった。デビューを飾った3月の2025-26年秋冬コレクション、そして喝采を浴びた6月の26年春夏メンズ・コレクションに続き、初のウィメンズの春夏シーズンとなった26年春夏のショーは、そんな安心感を抱かせるものだった。この3回を通して感じたのは、ドリス本人のクリエイションとはやっぱり少し違うけれど、紛れもなく「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」であること。それは“実際に人が着るための服を作る“という創業者の信念をしっかりと受け継ぐとともに服をこよなく愛し、エモーショナルなショーを通して新たな美の表現に取り組むジュリアンの姿勢が表れているからだろう。

今季の出発点の一つとして挙げたのは、「どうすれば希望や喜びに満ちたオプティミスティック(楽観的)な感覚を表現できるか」だ。そこで彼が目を向けたのは、波と戯れ、風を感じるサーファーのシルエットや、「毎日訪れるシンプルな光景でありながら壮大で活力にあふれる」と考える夕焼け。リラックスした雰囲気を漂わせながらも、色柄と装飾を生かした高揚感のあるコレクションを見せた。

ファーストルックは、先のメンズのファーストルックにも通じるシンプルなカットのショートコートに、ルーズに履いたソックスとバレエシューズのようにソールが薄いスニーカーを合わせたスタイル。ただ、ウィメンズでは生地と同系色で植物モチーフのエキゾチックな刺しゅうをコートにたっぷりと施し、さりげなくも「ドリス ヴァン ノッテン」らしく仕上げている。その後も、序盤はグレーやエクリュ(生成り)、クリームといった淡い色合いのルックで構成。波の動きを想起させるフリルや太陽の光できらめく海面をイメージしたラインストーンなどで装飾を加えた。

今季のスタイルを特徴付けるのは、ダーツとラグランスリーブで作るコンパクトな肩と体のラインに沿うシルエットで仕立てたトップスやテーラリング、そして細身のひざ丈ショーツ。これらは、サーファーたちがまとうウエットスーツの優雅さからヒントを得たものだ。一方で、幅広の肩とピークドラペル、ダブルブレストで仕上げたマスキュリンなジャケットやコートも多出。軽やかなシアースカートやマイクロミニ丈のボトムスを合わせることで、硬さと軽やかさの対比を表現している。脚をあらわにする提案は、創業者時代にはあまり見られなかったジュリアンならではのアプローチと言えるだろう。

そして、パレ・ド・トーキョーの無機質なショー空間は、次第に鮮やかな色と柄で彩られていく。目が覚めるような黄色のアイテムには黒のビーズ刺しゅうで大胆に柄を描いたり、青と水色のトロピカルプリントを組み合わせたり。ストライプのニットローブやボディースーツからはビーチのムードが漂い、ジュリアンが好んで用いるドットは異なる色をずらして重ねたシアー生地やチュールに立体的な表現で取り入れている。

また、「喜びやオプティミズムを考えた時、楽観主義の象徴である60年代が思い浮んだ。当時のスタイルはシンプルなシェイプ、色やプリントに重点が置かれていた」と話すジュリアンは今季、幾何学的な線や円で構成されるグラフィカルなモチーフを多用。大小さまざまな尺度とピンク×オレンジや黄緑×朱赤、赤×白といった大胆な配色のプリントや総スパンコール刺しゅうで、前述のウエットスーツから着想したトップスや、風にひらめくシアーなカフタン風ドレスにロングスカート、そしてハリのあるベアトップブレスやミニドレスといった比較的シンプルなシルエットのアイテムにのせ、色柄を際立たせた。

ショーを終えた後、開始前と同じように心地よい波の音が流れる会場でジュリアンは、「以前からドリスとウィメンズには取り組んできたが、初めてメンズを手掛けるのはエキサイティングな挑戦だった。なので、とても楽観的かつ直感的なアプローチで取り組み始め、それを今も生かしている」と明かした。彼には、ドリスがゼロから築いてきた生地や刺しゅうなどのモノ作りに欠かせない背景や振り返ることのできるアーカイブがそろっているという恵まれた環境がある。その中で自身の感性やアプローチを生かし、シーズンを重ねるごとに「ドリス ヴァン ノッテン」の新時代を確立していくのが楽しみだ。

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