ファッション
特集 「CFCL」急成長の舞台裏 第3回 / 全7回

CFCLの“フェア”な組織づくり 公益性や多様性の理念に向けて社内制度もクリエイト

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シーエフシーエル(CFCL)」が「CFCL」らしいクリエイションを生み出せる背景には、高橋代表兼クリエイティブ・ディレクターが考える独自の世界観を社員一丸となって実現しようとする、熱量あふれる組織の存在がある。個々人の能力を引き出しつつトップの哲学などを深く学べる仕組みなどをそろえることで、モチベーションが上がっているようだ。ここでは、組織や制度を5つのポイントから読み解きたい。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月2日号からの抜粋です)

世界で戦える日本発のグローバルブランドを目指す上で、「CFCL」にはブランドの存在がファッション業界の労働環境の改善につながったり、社会が変わる一因になったりの歴史的マイルストーンを作りたい思いがあるという。社会性の高いブランドになるべく、「CFCL」は働く人にも目を向けている。

鍵を握るのが、“フェアネス(公平性)”の視点だ。他の業界では効果的に機能しているのに、一方のファッション業界ではなぜか普及していない慣習を取り入れ、勤続年数や業務内容による不必要な待遇差が生まれないよう意識。社内で多様なキャリアが生まれ、育くまれる仕組みを取り入れている。

具体的には、ファッション業界での経験の有無にかかわらずに優秀な人材を採用することで組織に多様性を与えたり(POINT1)、ライフステージの変化に対応すべく、さまざまな労働形態を作ることで社員の定着を図ったり(POINT2)、独自のストックオプション制度と現金報酬を組み合わせることで、不安定な創業期からのスタッフと会社が波に乗り始めてから働き始めた従業員の待遇是正を目指したり(POINT3)。社内の課題には「そこにフェアネスはあるか?」という視点で対応することを目指している。「本社」ではなく「オフィス」と呼称するのも、フェアネスの精神を象徴するエピソードの一つだろう。

ファッション史に名を残すという野望を掲げて仕組みもデザインするからこそ、結果的に社員一人一人の能力が発揮され、会社の士気は高い。とはいえ5年目のスタートアップ企業だからこそ制度設計は手探りの段階で、ブランドのコアバリュー(こちらの記事参照)のようにすでに確立したものではないという。

とはいえ、取材を通して出会ったCFCLのメンバーは、やはり誰もが生き生きと働いているように見えた。ブランドのコアバリューや毎シーズン発表するコレクション同様、制度設計もクリエイションし続けているからこその賜物だ。

POINT 1:
異業種出身者を積極採用

異業種出身者

ファッション業界の中途採用は“その道一筋”の経験者が多く、ゆえにファッション業界以外の知見を取り入れづらい閉鎖的な環境に陥りがちだ。その点、CFCLは異業種からの挑戦者を積極的に採用しており、70人弱の社員の半数を占めている。彼らの前職は、金融機関やコンサルティング企業、広告代理店、IT企業、化粧品メーカーなどさまざまだ。アパレル企業は、服を作って売ることだけが業務の全てではなく、経理や物流など、必ずしもファッションに関する豊富な知識が必要ではない部門も数多い。異業種出身の社員が多数いる状況は、「その人にはその人なりの専門分野がある」という社員間のリスペクトを生む要因の一つでもある。

POINT 2:
多様なキャリアパスで
長く働ける環境を整備

個々の能力を引き出すべく、CFCLは多彩なキャリアパスの開発にも前向きだ。キャリアアップを望む人も、ライフステージの変化に即して勤務形態を調整したい人にも等しく目を向け、時には新しい働き方の選択肢を提示することで、優秀な社員が長く会社に在籍できる環境を整えている。その時々の自身の現状に向き合いながら前向きに働くことで、キャリアに深みがある社員も誕生している。さらに、制度化すれば多くの人が働きやすさを感じられると判断した場合には、新制度の確立にも意欲的だ。例えば、留学を希望する人が休職した状態で海外渡航できる留学支援制度を作ったり、労働時間を分割してCFCLとは別のキャリアを両立できるようにしたりした。また一般的に、一度特定の分野でキャリアを築き始めると別分野の仕事に挑戦する機会は得づらいが、CFCLでは高度な知識と経験を要しない業務に限った話ではあるものの、特定の部署がプロジェクトへの参加を呼びかけることを通じ、異業種を経験できるケースもある。

社員からの相談を新制度設立に生かすことも

(社員)Q. 海外留学したいが、退職したくない…。
(経営陣)A. 会社に在籍したまま留学できる制度を作ろう。その間も社会保険料の支払いをサポートするよ。


(社員)Q. 「CFCL」のショップスタッフも続けたいし、ヨガ講師としても働きたい。
(経営陣)A. 労働時間の分割を検討することもできる。比率については要相談だが、そうすれば2つのキャリアを両立可能だ。

POINT 3:
ストックオプション制度で
待遇の公平性をアップ

「ブランドの価値を作っているのはデザイナーだけではない」という考え方から、会社の要である自社株を社員に分配するストックオプション制度がある。分配した株式については、毎年極力現金化の機会を創出している。株価は2022年の初回発行時から、25年現在までに5倍以上に伸長した。背景には、経営が不安定な創業時にリスクを承知で入社してくれた社員と、その後入社した社員の報酬をなるべく公平にしたいとの思いがある。実際、初期メンバーほど現金報酬に対して自社株の比率が高いという。たとえ退職しても、自身の株の保有権は消滅しない。

初回発行時と比較した株価の変化

初回発行時と比較した株価の変化

POINT 4:
独自のセミナーで
社員間の知識差を解消

ファッション業界出身者と異業種出身者における知識量の是正、ブランドのデザイン哲学に関する理解度の向上を目的に、月1回ほどのペースで社内勉強会を開催している。2021年5月から25年4月までの講義は約50回に達しており、テーマも多種多様だ。SDGsやBコープから、財務諸表の見方の解説、マーケティングやPRの基礎知識、著作権や意匠登録といった法律知識まで。中でも高橋クリエイティブ・ディレクターによる「デザイン理論」は全3回、各回1時間半のボリュームだ。講義は全て録画し、参加できなかったスタッフも後から視聴できるようにしている。重要な講義は新入社員が必ず観る資料として位置づける。

POINT 5:
社内公用語を英語にして
グローバル化

CFCLは英語を社内公用語にしている。日本のファッション企業に貢献したい思いがあるにもかかわらず、日本語が話せないことを理由に就職を諦める外国人が少なくないため、言語の障壁を取り払う試みとして始まった(こちらの記事参照)。現在、外国人スタッフは欧米や東南アジア出身者ら10%を超えている。

一方、英語が得意でない日本人スタッフには、英語教室に通う費用を一部負担しており、この制度は英語以外の言語習得に際しても適用している。また、英語の実践の場を増やすべく、日本人社員と外国人社員が食事の場を通してディスカッションするグループレッスンランチも実施。

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