「WWDJAPAN」のソーシャルエディターは毎日、TwitterやFacebook、Instagram、そしてTikTokをパトロールして、バズった投稿や炎上、注目のトレンドをキャッチしている。この連載では、ソーシャルエディターが気になるSNSトレンドを投げかけ、業界をパトロールする記者とディスカッション。業界を動かす“かもしれない”SNSトレンドの影響力や、投稿がバズったり炎上してしまったりに至った背景を探る。今、SNSでは何が起こっているのか?そして、どう向き合うべきなのか?日々のコミュニケーションのヒントにしたい。
ソーシャルエディター津田:今年6月に、「ユニクロ(UNIQLO)」が2022年秋冬から一部商品を値上げすると発表しました。8月に入り、実際に値上げした秋冬商品が販売され始めると、SNSでも値上げに対してさまざまな声が出ています。「値上げされても安いから買う!」という声もあれば、「毎週金曜日に楽しみにしていたチラシの中に期間限定価格の記載がなくなっている……」「値上げしてしまうならもう買わない」などの悲しみのツイートも多く見かけます。

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そんな中、9月5日付の全国紙や地方紙に「ユニクロのフリースが2990円になる理由」という広告が出されました。そこには28年前の1994年に1900円のフリースを発売したこと、そのフリースの価格を見直さざるを得ないこと、その理由が明記されていました。「価格を維持するために品質を犠牲にするという選択肢はありませんでした。ユニクロはお客様に長く愛される普段着を作る会社だからです。(中略)『安かろう、悪かろう』ではユニクロの服ではありません」という一節があり、個人的にはその考え方は非常に納得感がありました。その広告に対しても「言い訳にしか聞こえない」や「余計な広告にコスト使わないでほしい」など否定的な声もありましたが……。ファーストリテイリングの取材を担当している五十君さんはこの値上げについてどう考えますか?
記者五十君:原料高、物流コスト高騰といった環境下では値上げは必然で、私は「秋冬も価格は据え置きます」と言っているブランドの方が信用できません。実際のところ、そう言っているブランドも含めて「ユニクロ」同様にメリハリをつけて値上げしているところがほとんどなので、それなら正直にそう伝えた方がイメージはいいんじゃないかと感じます。もちろん値上げで失う客数はあるでしょうし、短期的には売り上げも落ちるのかもしれませんが。

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残念ながら原料高などの状況は数カ月で収まるものではなさそう。それならば、ブランドが直面している状況を正直に伝えて、できるだけ理解してもらうよう消費者とコミュニケーションしていく方が合理的だと思います。業界のリーダーであるファストリが値上げして、アパレルの置かれた状況を丁寧に伝えていくことは、他社にとっても助けになるのでは。
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津田:まさに今回の値上げの理由を説明した広告は、業界のリーダーとしてアパレル業界の現状の説明責任を果たしたとも受け取れますね。人気商品や数量が多く売れる商品はなるべく値上げしない方針で、8割の商品は価格を据え置くといいますし、広告によれば値上げしたフリースは生地を100%再生素材にし、目付けも上げるそうです。ただ値上げするだけではないということですね。“ヒートテック極暖“と”ヒートテック超極暖“も値上げしますが私は暑がりで、冬でも普通のヒートテックしか着用しないので全く問題なしです(笑)。
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また、ユニクロをはじめとするSPA企業の値上げによって、古着市場の売上が倍増するのではないかとの見方もあります。ファストファッションから古着に流れる人がいた場合、今までは着ていなかったジャンルの服に出合ったり、古着カルチャーに触れることで服の歴史を知ったりする人が増えれば、より服を面白く感じられるのではないかと思います。

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五十君:コロナ禍から回復する中でよりファッション性の高い服を求めるムードが強まっていますが、そうなると定番品に強い「ユニクロ」には不利という分析もあります。実際、このところ業績はあまり芳しくない。今秋は値上げもありますが、一方で出店再開などで話題も豊富に仕込んでおり、発信力を高めることに腐心している印象があります。古着市場の隆盛も、価格の安い服への支持という面ももちろんありますが、「人とは違う服がほしい」「ひねりのある服がほしい」というファッション性を求める気持ちが世の中に広がっているからこそと読み取ることもできますし、サステナビリティの意識ともつなげやすい。値上げしたユニクロの売り上げがどうなるのか、古着人気が今後さらに加速していくのかは要注目ですね。
次回は、“成分ブーム”から見る人気インフルエンサーの変化について語り合います。