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「ユニクロ」フリース価格1.5倍の衝撃 衣料品デフレから転換か

 ユニクロが秋冬商品の一部値上げを発表した。素材や機能性に改良を加えたとはいえ、商品によっては昨年の約1.5倍に跳ね上がる。記録的な原料高や円安によって、やむを得ない決断ではあるが、短期的には客離れも懸念される。そしてプライスリーダーであるユニクロの値上げは、他社にも波及する可能性がある。

 値上げする秋冬商品の税込価格は、フリースが従来の1990円から2990円へ、ウルトラライトダウンが5990円から6990円へ、肌着のヒートテック(極暖)は1500円から1990円へ、同(超極暖)は1990円から2990円へ、カシミヤクールネックセーター(ウィメンズ)は8990円から9990円へとそれぞれ変更される。一律の値上げではない。値上げはあくまで一部にとどめ、ヒートテックの通常モデルの990円、ジーンズの3990円をはじめ、大半の定番品の価格は据え置いた。

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、4月に行われた決算説明会で「ビジネスは会計年度やシーズンで考えるものではなく、もっと長期で考えるもの。22-23年秋冬物や23年春夏物は考えに考えぬいたプライスになる」と話していた。今後も続くことが予想されるコスト高を鑑み、長期的に持続可能な価格構成を目指したと思われる。

デフレ時代の号砲だった1900円フリース

 とはいえ、やはりインパクトは小さくない。

 中でも象徴的なのはフリースの1.5倍の値上げだ。ユニクロ躍進のきっかけになった商品であり、1998年から2000年にかけて社会現象になった。30代半ば以上の人ならば、ミュージシャンの山崎まさよしらが出演したテレビCMを覚えているだろう。フリースを着た出演者が各々の仕事などについて話し、最後に「ユニクロのフリース 15色 1900円」のコピーが出る。

 当時フリースはアウトドアブランドの専売特許のような商品で1万円以上が当たり前。それを1900円で打ち出した驚きは大きく、店舗に客が殺到した。ユニクロの快進撃はここから始まったといってよい。当時はバブル崩壊後のデフレが本格化した頃だった。ユニクロのフリースは、吉野家の牛丼、マクドナルドのハンバーガーなどと並ぶ価格破壊のシンボルに位置付けられた。以後、ユニクロのフリースは、四半世紀にわたって一部を除き1900円あるいは1990円の値札で売られてきた。

 1900円はユニクロのプライスポイント(最多価格帯)でもある。シャツ、カットソー、フリースなどで“イチキュー”の価格を確立し、消費者には「この値段で高品質」というイメージを浸透させた。イチキューはマス層が迷わず変える価格帯であり、しかもチェーンストアにとっては経営効率が良い価格だと、ファッション流通コンサルタントの齊藤孝浩氏(ディマンドワークス代表)は独自の研究に基づき著書で解説する。

 「1900円の商品は2900円の商品の1.5倍以上売れ、3900円の商品の倍以上売れる。そのため、1900円は商品回転が速く、なおかつ経営上必要十分な粗利率を確保できる下限の価格です。つまり、1900円は、売上額でも利益額でも貢献度がもっとも高い価格なのです」(「人気店はバーゲンに頼らない」中公新書ラクレ)

 一方、さらに安い990円になると数量も売れ、商品回転率も速いが、十分な粗利を確保できない。ひとつ間違うと自転車操業に陥ってしまう危険をはらむという。

付加価値アップは理解されるか

 今回の値上げは一部ではあるが、最多価格帯のイチキューあるいはイチキューキューの買いやすいイメージを消費者が今後も抱いてくれるかがカギになる。要は「ユニクロは高くなった」という印象が広がるのは避けたい。食品、日用品、光熱費などが立て続けに値上げされる中、消費者の財布のひもが固くなるのは間違いないからだ。

 前述の齊藤氏は、値上げされた商品よりも据え置いた商品の方に注目する。「もっとも数を売る定番のヒートテックやジーンズなど多くの価格はそのままでした。これまでどおり、値ごろ感のあるプライスポイントを維持するというお客さまへのメッセージが見て取れます」

 値上げするフリースやウルトラライトダウンにしても、まったく同じものではなく、素材や機能性を改良する。たとえばフリースは、昨年まで30%だった再生ポリエステル素材の割合を100%に切り替えた。環境保護の意識の高い消費者へのアピールを強める考えだ。

 ユニクロは07年に2990円の価格帯のジーンズの販売をやめて、3990円と4990円に絞り込んだことがある。ユニクロのジーンズが、専業メーカーのお株を奪うようなレベルアップを見せていた時期だった。あえてスソ値を切り捨てることで、「安さ」ではなく、「高品質・高感度」のイメージを定着させることに成功した。これをきっかけにジーンズ市場で確固たる競争力を築いていった。こうした成功事例を再現したいところだろう。

 昨年から今年にかけて食品や日用品の値上げが頻繁に報じられる一方、衣料品はあまり話題にならなかった。だが、実際には多くのアパレル企業が価格を見直している。ユニクロのようなベーシックな継続品番を主力にしたアパレルブランドは少数派で、大半の企業は毎年のトレンドに応じた新商品を出している。そのため単純な比較はできないが、価格帯の重心を上に動かしていることは確かだ。あるアパレル企業の幹部は「これまでのコスト上昇とは次元が違う。価格戦略を見直さないと業界自体が持たない」という。

 デフレが本格化して四半世紀。アパレル業界ではユニクロの1900円のフリースが引き金になって、各社が低価格業態の出店に雪崩を打ち、価格競争が激化した。ユニクロはずっとプライスリーダーであり、デファクトスタンダード(事実上の標準)のような存在として君臨してきた。それが空前のコスト高や円安を受けて、価格の見直しを余儀なくされている。長らくデフレが常態化していたアパレル業界は、異次元の局面に放り出された。先行きが見えない中、各社は難しい舵取りを迫られる。

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