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「マメ」2020年春夏はパリコレトップバッターでも自然体 「トッズ」とのコラボも公開

 「マメ(MAME KUROGOUCHI)」が、2020年春夏パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)公式スケジュールのトップバッターとして、9月23日にランウエイショーを行いました。18-19年秋冬からパリでの発表を続けており、今回で4シーズン目。公式スケジュールでの発表はブランド初です。公式スケジュールになると、注目度はぐっと上がります。そんな節目のシーズンをガッチリ取材しようと、ショー開始の少し前にバックステージを訪ねました。

 会場は、緑いっぱい花いっぱいのフランス庭園が美しいリュクサンブール公園そば。薬科大学の回廊です。公式スケジュールのトップバッターということで、現場はさぞピリピリしているのかと思っていましたが、モデルもヘアメイクもフィッターも、皆さん非常にリラックスしたムード。構内で挨拶した黒河内さんもふんわり柔らかく自然体で、思わずちょっと拍子抜けしました。

 黒河内さんに今から約4年前にインタビューした際、「(ブランドとして認知が上がり、スタッフも増えて責任は増しているけれど、だからこそ)作ることにもっともっと自由でいたい。ブランドの成長に合わせて変わらなきゃいけないというより、むしろ子どものような感覚や初心に戻ろうとしている」といったことをおっしゃっていたんですが、パリでも自然体の黒河内さんを見て、それを思い出しました。この人はパリに行って、また一つ階段を上がってもそういった部分は変わらないんだなと実感。

 いや、いつでも自然体でいるということは、そうあるように黒河内さんが猛烈に努力している結果なのかもしれません。アスリートが心身を鍛えて常に最高のパフォーマンスを出すように、黒河内さんも強い精神力でどんな時も平常心であるよう努めているのかも。それを周囲に感じさせないところが彼女のすごいところです。そういう、たおやかだけれど芯の強い女性像って、まさに「マメ」の描くイメージと重なりますよね。

 さて、前置きが長くなりましたが、肝心の服はというと、今シーズンはグリーンの色使いが印象的です。そして何層にも重なるレイヤードがポイント。ジャケットの肩からバッグを掛けて、その上からメッシュのドレスを重ねてすっぽり包んでしまうといったスタイリングが目を引きました。「マメ」の服って、11年春夏のスタート以来、黒河内さんの日々の生活や心の動きに非常に密着していて、彼女のパーソナルな部分のダダ洩れといってもいいものです。今シーズンは一体どんなことに心が動いたのかと黒河内さんに尋ねると、まず最初に返ってきたのは「勉強のために、カイコをアトリエで飼い始めたんです」という言葉。……えっ、カイコですか?

 黒河内さんが素材研究に非常に熱心で、日本各地の素材産地を頻繁に回っていることは有名です。ゆえに、彼女は産地の職人さんたちからすごく愛されています。それが高じて、とうとうアトリエでの養蚕につながったということなんでしょう。「カイコの幼虫がサナギになり、自身を繭で包んでいくのを観察していると、神秘的ですごく美しかった」と話は続きました。そこから“包む”ということのリサーチを始め、日本のアートディレクターの草分け的存在、岡秀行さんの書籍「包む」に行きついたとのこと。「マメ」の服には、色使いやディテールに日本的な感覚が色濃く漂いますが(特に、パリで発表するようになってからそれは強まっていると思います)、着物や風呂敷に代表される“包む”という概念って、まさに日本的な感覚だなと納得。

 “包む”という発想から、何層にも繊細に重なるレイヤードが生まれているわけですが、その着想源を細かく聞いていくとさらに面白い。たとえば、キラキラ光るメッシュは「東京でたくさん見る、ゴミ置き場のカラス除けのネット」から発想したものだそう。他は、衣服を運ぶ際に被せる「透明のガーメントケース」や、「前回の展示会終了後に、飾っていた花がゴミ袋に入れられて捨てられていた様子」など。彼女の目を通すと、日常の意外な場面も生き生きキラキラとしてきます。「カイコをきっかけに“包む”ことに心が奪われて、その意識で日常の中で美しいものを探した」というクリエイションは、ブランドが毎シーズン続けていることですし、ブランド名に通じる“まめまめしさ”といった日本の美学も感じます。

 そして、忘れてはいけない今季の重要ニュースは、「トッズ(TOD’S)」とのコラボレーション。キトゥンヒールのバックスリングパンプスを、白、黒、ネイビーの3色で展開していました。「『マメ』と『トッズ』に一体どんなつながりが?」と疑問に思いましたが、「前シーズンのショーに、トッズのディエゴ会長(ディエゴ・デッラ・ヴァッレ=Diego Della Valle)が来てくださって、クラフツマンシップに対する考え方にお互い共感した」と黒河内さん。最初は意外な組み合わせだと感じましたが、日本の産地の技術をリスペクトする「マメ」と、職人を大切にするイタリア企業トッズは、確かにモノ作りに対して共感する部分は多そう。同時に、トッズの会長が若手ブランドのショーをしっかり見て回っていることにも驚きました。日本で大手アパレルや小売りの会長が東コレに現れて、デザイナーと意気投合してコラボに至ったといった話は、ほぼ聞いたことがないですから。

 公式スケジュールでの発表になったことで注目度が上がり、これまでのミニショー形式よりもぐっと客数は増えたようです。さらに「来場者のうち、約半数は海外の方になりました」と広報担当者は手応えを話していました。ブランドスタートからまだ丸10年経っていない中で、ここまで来たのはやはりすごいこと。ビジネスの本番である展示会はこれからですが、バイヤーがどう反応したのかは、また追って取材していきます。