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「アリックス」の2020年春夏はテーラリングで新境地 ブランドを進化させるコミュニティーの力

 パリ・メンズ・コレクション最終日の6月23日に「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM以下、アリックス)」がショーを開催した。創始者であるマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)はアメリカ・シカゴ出身の33歳。2012年にヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)らと立ち上げた「ビーントリル(BEEN TRILL)」を人気ブランドに育て上げ、15年に自身の娘の名を冠した「アリックス」(18年に現ブランド名に変更)を始動した。「モンクレール(MONCLER)」や「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」「ナイキ(NIKE)」との協業に加え、キム・ジョーンズ(Kim Jones)率いる「ディオール(DIOR)」メンズ・コレクションではキャップやバッグのバックルをデザインするなどチームへの参加も後押ししてコミュニティーはますます広がり、それを自身のコレクションに還元している。今季のショーに携わったモデルや音楽プロデューサー、ヘアメイクアップなどは昔からの友人が大半を占めており、妻のジェニファー・ウィリアムズ(Jeniffer Williams)もモデルとしてランウエイに登場し大歓声を浴びていた。

 ショーの会場に選んだのは、19世紀に大手銀行の本社として使用されていた歴史的建築物のル セントリアル(Le Centorial)。テーラードコートをまとったウィリアムズはバックステージで、「テーラリングは若いブランドにとって非常に難易度が高い。『アリックス』なりの解釈でテーラーリングを再定義し、共通言語の一つにすることが僕にとっての新たな挑戦だ」と目を輝かせながら語る。ショーの前半はメンズ・ウィメンズ共に色気が香るテーラードのルックが続いた。ブランド設立当初から品質の高さにこだわってきたウィリアムズは現在、テーラードの本場であるイタリアを拠点にしている。ショーの中盤以降は再生皮革のコートやミリタリー風のベスト、バリスティックナイロン製のバッグなど、「アリックス」の代表的なアイテムがランウエイを飾った。ブランドのシグネチャーであるローラーコースターバックルはルックにニュアンスを加え、さらにシューズやジュエリーにも用いて装飾するなどバリエーションが広がっていた。仏新聞「ル フィガロ(LE FIGARO)」のジャーナリスト、ヴァレリー・グエドン(Valerie Guedon)は「非常に質の高いテーラーリングはラグジュアリーを印象付けるようだった。しかし、特筆するほどの新しい概念や楽しみ方の提案があったとは言い難い」とコメントを寄せた。

 全体的には非常に洗練されたコレクションだったが、本格的なテーラリングが、「アリックス」が得意とするストリートの要素にうまく融合しているようには感じなかった。決して反発はしていないものの、異質なもの同士がまだ溶け合っていないような状態だ。だが「アリックス」にとってはきっと筆者の見解よりも、コミュニティーの一員である顧客がテーラーリングにどのような反応を示すのかが重要であるはずだ。コミュニティーの中でクリエイションが磨かれていく「アリックス」には、今後も独自の進化と新たな提案を期待したい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける