ファッションとアニメの関係が深まる中、アパレルブランドをはじめ、雑誌や商業施設、街づくりの領域にまでアニメを活用する動きが広がっている。アニメと企業・ブランドをつなぐ“コラボレーター”の役割を担う担当者たちや、ファッションとの協業に積極的に取り組むアニメ制作スタジオに話を聞いた。アニメファンダムの圧倒的な熱量を実感するとともに、その期待に応えるコラボを生み出す現場の情熱に学びたい。(この記事は「WWDJAPAN」2025年4月14日号からの抜粋です)
PROFILE: 戸川貴詞/「ナイロン ジャパン」編集長

ファッション誌「ナイロン ジャパン(NYLON JAPAN)」(以下、ナイロン)は2023年2月号特別版で、アニメ「チェンソーマン」(テレビ東京系列)を表紙に起用した。表は主人公デンジが扮するチェンソーマン、裏は彼の敵のサムライソードという人選が、1期最終話を想起させる。文字要素を極限まで少なくし、書き下ろしイラストが目立つデザインに仕上げた。
「ナイロン」は、毎年2月号で音楽を特集している。今回「チェンソーマン」を取り上げたのも、作品の音楽を深掘りするため。「チェンソーマン」は、米津玄師と常田大希の「KICK BACK」を主題歌に起用、エンディングは毎回異なる楽曲を流すという、音楽に力を入れたアニメだった。
必ずしも、「読者が好きなアニメだから」という動機で始まった企画ではない。戸川貴詞「ナイロン」編集長は、「見ているのはコンテンツそのものではなく、コンテンツが巻き起こす現象。『チェンソーマン』が『ナイロン』に合っているか?ではなく、『チェンソーマン』が『ナイロン』に何をもたらすか?を重視した」と説明する。特別版はアニメ、マンガ、ゲームなどの関連商品の専門店チェーンである「アニメイト(ANIMATE)」でも販売。アニメファンにも訴求したことで、新規読者獲得という結果が付いてきた。
雑誌ビジネスを担う者として
「ナイロン」はもともとファッションやビューティ、食、音楽、カルチャーなど、幅広いジャンルを取り上げてきた雑誌だが、近年はその流れがさらに加速している。23年9月には、「オワライ ナイロン(OWARAI NYLON)」と題し、お笑い芸人をフィーチャーした“お笑い本”を発売した。戸川編集長は、狙いを次のように語る。「作り手として数年前から1号1号違う人に向けて作っている感覚がある。例えば5つの特集企画のうち、ある人に1つの企画が刺さり、購買に至れば上々だと考えている」。現代人の興味関心はマルチレイヤー。同じ読者でも「ナイロン」を読んでいること以外、興味関心が重ならないこともあるだろう。戸川編集長も「読者層をひとことで言い表せなくなった」と苦笑いするが、このような時代だからこそ、さまざまなジャンルを取り扱う意義を見い出す。
一つの興味を深く追求する人も増えた。ファンダムを持っているコンテンツの強さも認識している。Z世代からよく聞く“推し活”は、若年層をターゲットにする「ナイロン」にとっても見過ごせない存在になった。「“推し”は、購入の決め手となる。『ナイロン』にとっては、新規読者を連れてきてくれる存在」と戸川編集長。「大切なのは、『ナイロン』のコミュニティーを広げること。雑誌というブランドビジネスの担い手として、同じ世界観にとどまり続けることは考えていない」。