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ユニクロの給料はもっと上げられる 賃上げ能力を検証【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが従業員の賃金の大幅アップを発表し、大きな話題になった。アパレル小売業の低賃金は優秀な人材確保の足かせになっている。なぜ同社はこれだけの賃金アップが可能なのか。データをもとに詳しく分析しよう。

 ファーストリテイリングが1月11日に発表した今年3月から実施する国内従業員の大幅賃上げは、販売不振と人手不足に苦しむアパレル業界にとってはサプライズを通り越してパニックをもたらしたが、ネットに氾濫する記事はあおるだけで不正確なものも目立つ。ユニクロとH&Mなどアパレルチェーンの生産性と給与水準の実態を検証し、賃上げ能力を探ってみた。

ファーストリテイリング賃上げの骨子

 まず対象は日本国内勤務の正社員であり、海外とりわけ欧米勤務の正社員との格差を是正してグローバル水準に近づけ、グローバルなキャリア運用と人材確保を進めるのが賃上げの真意と見られる。対象者が国内8400人と伝えられるから、2万人前後(国内ユニクロだけで1万2698人/22年8月期、以下同)と推計される国内常勤雇用者の4割強に相当する。今回の報酬改定の対象とならない常勤雇用者の方が多数派であり、役職手当などを廃して業績評価報酬となるキャリア人材と安定志向の地域社員などノンキャリア人材を仕分けたのではないかと推察される。

 ファーストリテイリングといえば、13年に「1億円役員はいます。1億円店長はまだか。」という年収を公開する広告を出して話題になった。15年の改訂版では社長の2億4000万円を超える最高3億9000万円の執行役員を想定した21階級(13年版は18階級)の報酬テーブルが想起されるが、今回の報酬改定もこの報酬テーブルに基づいて行われるようだ。22年の1月には中途採用の最高年収を10億円(柳井会長の年俸は4億円、ただし、他に本人分だけでも136億6500万円の配当収入がある)に引き上げているから、この報酬テーブルもさらにインフレしているに違いない。

 雲の上のエグゼクティブ階級は別にして、今回の報酬改定は新卒社員にも手厚く、現行25万5000円の初任給が30万円になって年収が18%、入社1〜2年で就任する新人店長は月収29万円が39万円になって年収が36%もアップし、そのほかの対象従業員も年収で数%〜約40%の範囲でアップするとプレスリリースはうたっている。

 正社員の報酬改定に先駆け、昨年9月には国内店舗の準社員(社保適用のパート)やアルバイトの時給も改定済みで、募集サイトには時給1300〜1400円と掲示されている。未だ時給1100円などと掲示されている求人も見受けられるが、これは直営店舗ではなくローカルのFC店舗で、「ユニクロ販売員募集」とうたっているから誤解を招きかねない。直営であれFCであれ、「ユニクロ販売員」の最低時給は統一されるべきだろう。
 

ネット記事の誤解を正す

 ネットに氾濫する記事はIR情報を誤解しているケースが少なくない。典型的なのは、ファーストリテイリング有価証券報告書の「提出会社の状況」にある「従業員1698人の平均年間給与959万4000円」をファーストリテイリング全社の給与水準と取り違えていることだ。これは持ち株会社としての株式会社ファーストリテイリングの平均であり、店舗や物流施設まで含めた全世界フルタイマー従業員5万7576人の平均でも国内フルタイマー従業員約2万人の平均でもない。

 持ち株会社というヘッドクオーターだから経営幹部とアシスタント、管理要員ばかりで平均給与が高くなるのは必然で、現場を含めた全社平均とは大きく乖離する。それはH&Mの平均給与も同様で、ネット記事には10万ドルとか12万ドルとか高額な平均給与が紹介されているが、大きな勘違いだ。

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