ファッション
連載 小島健輔リポート

2023年は2大コストをプロフィットに転換しよう【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナの影響も少しずつ薄れてきているものの、アパレル業界がコロナ前から抱えてきた生産性の低さはあまり解消されていない。2022年以降のコスト高騰によって、従来型の収益構造は見直しを迫られる。具体的に検証してみよう。

 コロナ禍からの売り上げ回復が進むとは言え、調達コストや光熱費から人件費まで何もかもがインフレする2023年は販管費の抑制も限界がある。ならば2大コストたる店舗費と人件費をプロフィットに変えるという逆転の発想が必要なのではないか。

 アパレルチェーンの店舗費負担は家賃と共益費に減価償却費や高騰する光熱費を加えれば売り上げの20%に迫るケースが増えているし、急増するキャッシュレス決済手数料、とりわけ商業施設デベの包括契約やハウスカードの割高な手数料はテナントの収益を圧迫している。しまむらやユニクロの店舗費負担は業界水準の半分以下の7〜8%台に収まっているが、米国の大手アパレルチェーンでは一般的な水準だ。

 わが国の商業施設は家賃や共益費の高さに加え、当初定借契約期間も3〜6年と短い(米国は10年)ゆえ営業断絶のリスクが高く、米国には見られない売上金預かりの月2回払いと言う業界慣習もテナントチェーンの資金繰りを圧迫している(ユニクロや外資チェーンは直接収納している)。

 そんな店舗費負担を軽減する発想の転換がマーケットプレイス化とリテールメディア化だ。

マーケットプレイス化

 マーケットプレイス化とは「外部商材による在庫負担なき品ぞろえの拡張」であり、売り上げが増えて販売手数料(粗利益)も手に入る。今日の店舗小売りでは消化仕入れは百貨店などに限られた例外と思われがちだが現実は異なるし、ECモールは在庫負担のない手数料商売だから品ぞろえを無限に拡張できる。

 無限といっても出品者(単品登録なので出店ではない)から在庫を預かって出荷するFC(フルフィルセンター)の拡張投資負担が大きいから、急速に売り上げを伸ばそうとするならドロップシッピングを広げることになる。ドロップシッピングとはモール側が在庫を預からず、受注データを宅配伝票にして出品者に電送し、出品者が顧客に出荷する仕組みだ。倉庫運営費や宅配外注費の高騰でモール事業者のフルフィルは逆ざやになりがちで、収益性を考えてもドロップシッピングは必定だ。これらフルフィル費用が取扱高の10.3%(22年3月期)に達するZOZOなんか、そう割り切れば収益構造が一変すると思うのだが。

 最近はそのメリットに注目してか、米国では先行するウォルマートに加えて大手百貨店もメーカー在庫を引き当てるマーケットプレイスを拡張しているし、越境EC大手のシーイン(SHEIN)も自社ECからの転換を検討している。日本でも大手セレクトショップの自社ECがドロップシッピング型のマーケットプレイスを加えるメリットは大きいのではないか。

 店舗小売業のマーケットプレイス化も基本は同じだが売り場の物理的制約が大きく、D2Cブランドをそろえるプロモーション販売業態(現品販売か「売らない店」かは問わない)はともかく、通常の店舗では端境期に催事運営する「二毛作商法」が現実的だ。最低保証に抵触しないよう端境期の売り上げをかさ上げするのは必定だが、通常と同じサプライで在庫を抱えては切り替えを阻害するから、季節商材の催事販売やD2Cブランドのプロモーション販売(先行受注会)で在庫負担のない売り上げを稼ぐべきだ。これらは期間とスペースを限ったプロモーショナルな販売代行であり、D2Cブランドの成長とともに常設コーナー、あるいはD2Cブランドをそろえるプロモーション販売業態への発展も期待できる。

 端境期に限らず、スペースに余裕があったり販売効率が低かったりすれば、ラックジョバー※1.を使って不得意アイテムを任せたりアイテムを拡張するという手もある。服飾雑貨やプチプラ雑貨、ドラッグコスメや薬品、グロサリー食品では珍しい手法ではないから、トライする価値があるのではないか。

※1.ラックジョバー(棚借り問屋)…棚からコーナーまで幅があり、ホームセンターではアイリスオーヤマ、ドラッグストアの100円コーナーはキャンドゥやワッツが手がけている

リテールメディア化

 ECと店舗を連携する自社アプリで顧客情報とPOSデータが即応する(iD-POS)OMO体制が確立しているなら、ストアのリテールメディア化による収益も可能だ。

 顧客がアプリが入ったスマホを持って店舗に入るとストアモードに切り替わり、個別店舗内の商品位置を案内したりプロモーション情報を提供する。特定商品に近づいたり二次元コードをスキャンすると、商品情報を提示したりクーポンを発行することもできる。

 わが国でもホームセンターのカインズやディスカウントストアのトライアルで活用されているが、米国では顧客行動データや店内プロモーションを提供してサプライヤーから収益を得るリテールメディア化が始まっており、NB(ナショナルブランド)をそろえるディスカウントストアや食品スーパーはもちろん、ドラッグストアや百貨店にも広がると思われる。売り上げは商品販売の1%程度と限られるが原価がほとんどかからないから利益に直結しており、OMO体制を確立した小売各社は拡大を急いでいる。

 わが国でもブランド商材を扱う百貨店や大手セレクトショップでは同様な活用やメディア収益が期待されるが、購買行動に即応するiD-POSの確立が大前提で、アパレル業界ではこれからの課題というのが現実だろう。iD-POSを確立した小売事業者ならSPA型でもメディア収益が可能で、客層が共通するなら取り扱っていないゲームやアプリ、ネットサービスなどのプロモーション収入が期待できる。

クレカ手数料の取り込みと会費収入

 リテールメディア化とは違うが、顧客化をベースとして収益を得る確実な方法がある。典型的なのがハウスカードの自社発行と会費収入だ。

 高額なファッション商品を扱う百貨店やセレクトショップではクレジットカードの手数料負担が大きく、収益を圧迫しているが、自社でハウスカードを発行すれば手数料を自らの収益に転換することができる。自社で発行(イシュア)しても全て自社で賄うのは困難だから、加盟店管理会社(アクワイアラー)と役割を分担し、アメックスやVISAなどの国際カードと提携する必要がある。一例だが、三越伊勢丹のMIカードは100%子会社のエムアイカードが発行しているが、高島屋のカタシマヤカードは高島屋が66.6%、クレディセゾンが34.4%出資する高島屋ファイナンシャル・パートナーズが発行している。

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