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泥臭い自己表現を説いた「バレンシアガ」と、箱の外に飛び出して自分らしさを描く「ヴァレンティノ」 編集長のパリコレ真剣レビュー Vol.6

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 会場は、一面の泥。観客席が取り囲んだスペースには、その泥が掘り起こされて巨大な穴が開いている。泥は湿気を含んでいるから、場内は湿度も高く、何より泥臭い。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の2023年春夏コレクションは、漆黒の、泥まみれの空間で行われた。

 観客に配られたメッセージによると、泥は、自身のアイデンティティを掘り起こした結果堆積した物の象徴であり、同時に、その作業は文字通り“泥臭い“ことを表す演出なのだという。クリエイティブ・ディレクターのデムナ(Demna)は、すぐにカテゴライズされる世界、人にレッテルを貼る社会を批判しつつ、そんな中で逞しく生きることを提唱。ただ、その作業は決して楽なものではなくて“泥臭く“、人生はまるで戦場。自分らしく生きようとすると、誰かに顔面を殴られることさえあるかもしれない。それでも、他人と違う人生を歩むのは素晴らしいことと解く。

 ファーストルックは、カニエ・ウェスト(Kanye Werst)改めイェ(Ye)が、戦う男の役割を演じた。彼が着るのは、マルチポケットのアーミーブルゾンに重厚なレザーのバイカーズパンツ。キャップのみならずフードまで被る姿は、逆風から身を守っているようにも見える。その後は、ボロボロのダメージデニム、パッドを入れて巨大なMA-1、ボリュームたっぷりのニットなど、「バレンシアガ」らしいアイテムに身を包んだ男女が泥水には目もくれず、水しぶきをあげながら力強く闊歩する。新しいのは、ランニングショーツだ。「闊歩」よりも「疾走」というイメージなのだろう。足元は、ソールだけ巨大なスニーカーが多い。新しいバッグは、グローブを取り付けたようなトートバッグ。グローブ部分に手を突っ込むと、まるで体を守る盾のようだ。

 その後は、見た目やスタイルだけでなく、精神的にも「逞しい」男女の後進が続く。ネオンピンクに染まりショー会場で異彩を放ったメッシュのトートバッグは、中にぬいぐるみなどを入れて男性モデルが運ぶ。ボロボロになったクマのぬいぐるみを振り回したり、赤ちゃんを抱っこしたりしながら歩くのも男性モデルだ。メンズがコルセットを巻いたり、ウィメンズがマスキュリンなジャケットをまとったり、旧態依然とするジェンダー観には縛られない。これもまた、デムナによる「すぐにカテゴライズされる世界、人にレッテルを貼る社会」へのファイティングポーズなのだろう。

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