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女性映画監督が活躍する時代到来【エンタメから読み解くトレンドナビ Vol.4】

 映画やドラマなどのエンタメを通して、ファッションやビューティ、社会問題などを読み解く連載企画「エンタメで読み解くトレンドナビ」。LA在住の映画ジャーナリストである猿渡由紀が、話題作にまつわる裏話や作品に込められたメッセージを独自の視点で深掘りしていく。

 第4回は、2022年「アカデミー賞(Academy Awards)」で女性監督3人目として監督賞に輝いたジェーン・カンピオン(Jane Campio)をはじめ、男性社会の映画界に新たな風を吹き込んだ女性監督たちについて。

 映画監督と言えば、男性。女性の進出が日本よりずっと進んでいて、映画業界でも大勢の女性が活躍するアメリカでも、現場のトップである監督という職業は、女性に対して長いこと扉を閉ざしてきた。

 しかし今、いよいよそれが変わりつつある。セクハラを告発する「#MeToo(ミートゥー)」や「#TimesUp(時間切れ)」をきっかけに、女性たちがあらゆる部分での平等を声高に訴えはじめ、業界に影響を与えるようになってきたが、今年の「アカデミー賞」で、実際に変化が起きていることが証明されたのだ。

 ウィル・スミス(Will Smith)の平手打ち騒動ですっかり影に隠れてしまったものの、今年の「アカデミー賞」では記録的なことが起きている。まず、昨年のクロエ・ジャオ(Chloe Zhao)に続いて、今年も女性であるジェーン・カンピオンが「パワー・オブ・ザ・ドッグ(The Power of the Dog)」で同賞に輝いたこと。女性が監督賞を受賞したのはこのふたり以外では過去に1回、それも10年前。なのに、この2年は連続で女性だったのだ。さらに、作品賞を受賞した「コーダ あいのうた(CODA)」も、監督は女性のシアン・へダー(Sian Heder)である。違う女性監督による作品が作品賞と監督賞を制覇したのは初めてのことだ。

女性監督を冷遇してきた映画界

 しかし、アカデミー賞はむしろ遅れていて、新たな才能の発掘の場所である「サンダンス映画祭(Sundance Film Festival)」では近年、すでに女性監督の躍進がめざましかった。多様化に向けて積極的に取り組んでいることもあるが、今年の同映画祭で上映された長編映画のおよそ半分は女性による作品だったし、審査員賞を受賞した「ナニー(Nanny)」の監督も黒人女性のニキャツ・ジュス(Nikyatu Jusu)だ。

 さらにおもしろいことに、「ナニー」はホラー映画なのである。とは言っても、幽霊や悪魔、呪い、あるいはシリアルキラーなどといった典型的なホラーではないが、このジャンルを手掛けるのは男性に決まっているという偏見がハリウッドでは非常に根強かった。低予算のホラー映画を専門とする大物プロデューサーのジェイソン・ブラム(Jason Blum)も、数年前、女性監督を起用しないことについて「女性はホラーをやりたがらないから」と言って、大バッシングを受けたことがある。そのブラムがアマゾン(AMAZON)と組んで、「ナニー」の配給権を競り落としたというから、本当に状況は変わったといえる。

 ジュスはすでに俳優ジョーダン・ピール(Jordan Peele)のプロダクション会社をはじめ、ユニバーサル・ピクチャーズ(UNIVERSAL PICTURES)とも次の映画の契約を結んだ。この映画もまたホラーとのこと。昨年秋に公開されてヒットしたホラー映画「キャンディマン(Candyman)」を手掛けたニア・ダコスタ(Nia DaCosta)も黒人女性だし、もはやこのジャンルは男性だけのものではなくなってきた。

 アクションやSFにも同じことが言える。ほんの最近まで、アクション映画を撮る女性監督と言えばキャスリン・ビグロー(Kathryn Bigelow)くらいだったが、スタジオが女性監督の起用を意識するようになった近年、女性が主役のアクション映画は女性に務めさせようという動きが強まってきた。その結果、「ワンダーウーマン(Wonder Woman)」はパティ・ジェンキンス(Patty Jenkins)、「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Bird of Pray」はキャシー・ヤン(Cathy Yan)、「ブラック・ウィドウ(Black Widow)」はケイト・ショートランド(Cate Shortlandが監督し、いずれも大成功させた。

「女性以外の話を語るのは裏切りのよう」

 だが、最近では、女性が主人公でない映画でも女性監督に任せるケースが出てきたのだ。例えばディズニープラス(Disney+)が配信する「ファルコン&ザ・ウィンター・ソルジャー(The Falcon and Winter Soldier)」は、男二人のスーパーヒーローものなのに、監督は女性のカリ・スコグランド(Kari Skogland)。同じくディズニープラスが配信を開始する「スター・ウォーズ(Star Wars)」シリーズの「オビ=ワン・ケノービ(Obi-Wan Kenobi)」も、主人公はユアン・マグレガー(Ewan McGregor)演じるオビ=ワンだが、監督はアジア系女性のデボラ・チョウ(Deborah Chow)だ。

 少し前には、「スター・ウォーズ」も、女性監督を起用しないと批判されていた。それに対してルーカスフィルム(LUCASFILM)のトップ、キャスリーン・ケネディ(Kathleen Kennedy)は「そのための努力をしている」と反論していたが、それは本当だったようで、その後、シリーズものの何話かで女性監督の名前が見られるようになり、「オビ=ワン・ケノービ」では初めて女性が最初から最後まで全話を監督することになった。しかも、マグレガーはチョウについて「『スター・ウォーズ』を知り尽くしている最高の監督」と絶賛している。探せば、ちゃんと適任がいたということだ。また来年劇場で公開予定である同シリーズの「ローグ・スクワドロン(Rogue Squadron)」はジェンキンスが指揮する。

 インディーズの世界でも、2020年には、女性監督のケリー・ライカート(Kelly Reichardt)が、男性二人が主人公のウエスタン「ファースト・カウ(First Cow)」を撮り、評価された。今年監督賞を取った「パワー・オブ・ザ・ドッグ」も、男性が主人公のウエスタンだ。女性の話を語り続けてきたカンピオンにアカデミー賞を与えたのがこの映画だったというのも、興味深いこと。男性についての話を語った理由について、カンピオンは「#MeToo」などのおかげで業界が変わったことを挙げている。「以前は女性監督がとても少なくて、女性以外の話を語るのは裏切りのように感じた。でも、もうそんなことは気にしなくて良いと思えるようになった。女性監督と組むのはビジネスのためにも良いという状況になったからだ。それはとてもうれしい」。一方で、「まだ始まったばかり」と付け加えることも彼女は忘れない。そう、これは始まったばかり。女性監督は、これからますます活躍していくのだ。

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