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写真家レスリー・キーが見た「アカデミー賞」 自ら撮影した写真とともに語る

 ファッションシューティングやセレブリティのポートレートなどを多く手がける写真家レスリー・キーが、米国ロサンゼルスで3月27日(日本時間28日)に開催されたアカデミー賞授賞式に初出席した。そこで体感した興奮と感動、そして、時代を象徴するかのような受賞作や受賞者、ウィル・スミスのビンタ事件の瞬間などについて、現地のレスリーに話を聞いた。

――ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われたアカデミー賞授賞式に出席することになった経緯は?

レスリー・キー(以下、レスリー):アメリカのNetflixのトップから招待され、授賞式に出席するとともに、レッドカーペットや会場で数々の俳優や映画監督などセレブリティを間近に撮影する機会をもらった。実は今年、拠点をNYに移す計画をしていた。その前にロサンゼルスで行われたアカデミー賞授賞式と、ラスベガスで開催されたグラミー賞授賞式という、世界最高峰の映画祭と音楽祭に出席できた。アメリカに引き寄せられる何かがあったのだと思う。

――授賞式に出席するために渡米したわけだが、会場や街の雰囲気などで感じたことは?

レスリー:魔法の時間だった!映画もセレブリティも素晴らしかった。エンタメ界もコロナのパンデミックで2年間苦しい時間を過ごしたが、、ハリウッドがどのように業界を再建したかを知ることができる、忘れられない経験になった。本番前に、バックステージの撮影もしたが、随所に感動の場面があった。たまたまオスカーのステージを作ったスタッフの中に知り合いがいたのだが、コロナ禍ではスタッフも仕事がなくなり、不安を抱え、生活苦に脅かされる人々も少なくなかった。久しぶりにエンタメの仕事の現場に戻れたようで、一生懸命レッドカーペットを敷いたり、ステージやライティング、音響をセットしたりしている人々がみな嬉しそうだったのが印象的だった。

 参加者は事前にPCR検査をしっかり行っており(私の場合は5日前と2日前)。コロナの感染拡大防止の意味もあり、客席を半分に絞り込んでゆとりをもたせる一方、開催時間は4~6時間ぐらいだったものを2時間ちょっとに短縮したので、かなり凝縮されたものになっていた。

 NHKの「SWITCHインタビュー 達人達」でYOSHIKI(ヨシキ)と対談するために前回渡米した昨年9月には、マスクもワクチンパスも隔離も必要だった。それが今回は全部いらなくなっていた。人類の生活が正常に戻ってきていることを体感できた。人の顔や表情が見えるようになって、ハリウッドのブルバードや海などいろいろなところを黒人、白人、ヒスパニック、アジア人など多様な人々が歩いている姿は、嬉しいしあるべき姿だなと思った。アメリカを訪れる前にパリコレに行ったが、マスクをしている人は少ないし、街もカフェも人が溢れていて活気があった。比べることではないけど、日本はコロナからの回復が遅れていて、楽天ファッションウィークも見に行ったけれども盛り上がりきれていなかった。2年間の冬眠の時期は長すぎた。でも、復活の時がもうすぐ訪れるということを、業界の仲間たちに伝えたい。

――受賞作で特に印象に残ったのは?

レスリー:やはり、アカデミー賞作品賞(脚色賞、助演男優賞も)を獲得した「コーダ あいのうた」だ。日本の映画館で3回観て、3回とも泣いたくらい、ここ最近で一番好きな作品だった。名前が告げられた瞬間、セレブがみなスタンディングオベーションで讃えていて鳥肌が立った!また、助演男優賞を受賞したのは、主人公で耳の聞こえない父親役を演じたトロイ・コッツァーだ。彼自身がろうあ者であり、男性ろうあ者として初めてオスカーを獲得した。受賞の瞬間、みんなが彼に向けて手をひらひらと振りながら、声援を送っていたのは感動した。みんなにもぜひ観て欲しい。また、村上春樹さん原作の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞したのは本当にうれしい。日本映画が世界的に認められたことも、名作として村上春樹さんの名前が世界に残ることも感無量!邦画界の励みにもなると思った。

――今回のアカデミー賞では、ダイバーシティ&インクルーシブにもスポットが当たっていた。

レスリー:ものすごく感動したのは、アリアナ・デボーズが「ウエスト・サイド・ストーリー」で助演女優賞を獲得したこと。 “クィアの有色人種”として歴史を塗り替えたといわれている。過去にジョディー・フォスターなども受賞しているが、カメラの前でも堂々とLGBTを公表している人物の受賞は初めて。真っ赤なドレスも素晴らしかった。また、94回の歴史の中で、初めて女性が司会を務めた。エイミー・シューマー、レジーナ・ホール、ワンダ・サイクスの3人で、以前からエイミーの番組を観ていたので親しみがもてた。映画界やアカデミー賞も、白人社会や男性社会、セクハラなどと戦ってきた。2022年はほぼ2年ぶりに、会場の半分ぐらいだったけれども観客も入れて、リアル開催した。この2年間は、いろいろな意味で「反省」の期間だったのかもしれないと思う。

 この数年、BLM(ブラック・ライブズ・マター)問題から、アジアンヘイトという大問題が起きる中で、20年の「パラサイト」(韓国)、21年の「ミナリ」(アメリカ製だが、韓国人・韓国語が主で韓国映画とみなされている)に続き、22年には「ドライブ・マイ・カー」(日本)とアジア映画がさまざまな部門で受賞したことも大きな意味を持つ。映画界、音楽界など、われわれクリエイターのプラットフォームとなる方々が、平和や愛、平等やダイバーシティのメッセージを込めていることが随所に現れていて、すごく攻めているなと思った。ダイバーシティ&インクルーシブは私の生活や活動のキーワードでもある。自分もクリエイターとして、アジア人として、アジアに活躍の場を与えたり脚光を浴びる機会を作ってくれたアカデミー賞のコミッティ(協会)に感謝したい。

 ちなみに、アジア系メディアの人に聞いた話だが、これまでアメリカメディア以外はなかなか取材がしにくい部分もあったようだが、今回は韓国、中国、フィリピン、タイなど、アジアのメディアもこれまでより多く入っているとのことだった。

――アカデミー賞授賞式では、さまざまな企画や仕掛けも注目されている。

レスリー:スノーボード界のレジェンドのショーン・ホワイトと、サーフィン界のレジェンド、ケリー・スレーター、そして、スケート界のレジェンド、トニー・ホークという、横ノリ系のレジェンド3人がプレゼンテーターとして登場し、60周年を迎えた「007」やジェームズ・ボンドへのオマージュが行われたシーンも良かった。もう一つ、50周年を迎えた「ゴッドファーザー」を讃えて、アル・パチーノ、フランシス・フォード・コッポラ、ロバート・デ・ニーロの3人が並んだシーンも忘れ難い。

――レッドカーペットで特に印象的だったのは?

レスリー:ニコール・キッドマンと、ペネロペ・クルスだ。入ってきた瞬間に周りの空気が一変した。ニコールは「愛すべき夫妻の秘密」で主演女優賞にノミネートされていたのだが、夫のキース・アーバンと登場。少しくすんだベビーブルーで、背中を大胆に開けつつ、長くリボンを垂らしたドレス姿はとても美しかった。テニス女王のセリーナ&ビーナス・ウィリアムズ姉妹も赤と白の対照的なカラーのドレスで際立っていた。その父を題材としたスポーツ映画「ドリームプラン」(原題は「KING RICHARD」)がノミネートされていたり、夫婦、姉妹など、今まで以上に明確にファミリーに対する意識の高まりを感じた。

――これはどうしても聞いておきたいのだが、「ドリームプラン」で主演男優賞を受賞したウィル・スミスが、プレゼンターのクリス・ロックを平手打ちした事件を目の当たりにしたわけだが、現場では何が起こっていたのか?

レスリー:あのハプニングはあまりにも突然すぎて……。わずか2分の出来事だったが、こんなに問題になり考えさせられることになるとは思わなかった。ウィル・スミスは撮影したこともあるし、彼の歴代出演してきた映画も好きで。今回の「ドリームプラン」は、スラム街から抜け出すために独学でテニスを学び、ビーナスとセリーナをテニス界の女王姉妹に育てた父、リチャード・ウィリアムズの生き方や家族の奇跡の物語。映画もウィル・スミスの演技も素晴らしかったし、受賞してもらいたいと思っていた。脱毛症で坊主頭にしていた妻のジェイダ・ピンケット・スミスに対して発した「ジェイダ、愛しているよ。『G.I.ジェーン2』で君を見るのが待ちきれない」と発言したクリス・ロックのシニカルなジョークには、会場も笑ったし、ウィル・スミスも一瞬笑っていたが、ジェイダはあきれたような傷ついたような顔をしていた。ウィル・スミスの平手打ちは暴力だったが、気持ちはわかる。ドキュメンタリー賞のプレゼンテーターとして登壇していたクリス・ロックは、アメリカでトップクラスのコメディアンで、映画監督や俳優業もしているが、日本で明石家さんまさんやビートたけしさん、マツコ・デラックスなどもアーティストを揶揄することはあるけれど、他人の妻、しかも、病気のことを知らずにちゃかしたり皮肉を言ったりすることはしてはいけないこと。芸能人として勉強不足だった。

――ウィル・スミスの行動を誰も止めることはできなかったのか?

レスリー:今回の来場者のうち、大御所俳優は、名誉賞を受賞してオスカー俳優となったサミュエル・L・ジャクソンと、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ケビン・コスナーなどだったが、彼らは皆、シニア層。トップ俳優はといえば、オスカーの最有力と言われて6部門にノミネートされていた「ドリームプラン」に主演したウィル・スミスであり、主演男優賞の大本命だった。会場の一番前、ど真ん中に座っているのが彼だった。それだけステージに近かったので、誰が止めに行っても間に合わなかった。ABCテレビ局が、これはやばいと思って、テレビ放送では音を消したが、会場には感情的になったウィル・スミスのFワードと言われる放送禁止用語が響いてしまった。スポーツ界で尊敬される立派なお父さんのロールモデルを演じていたのに、輝かしい瞬間に、その映画や功績まで傷つけてしまった。主演男優賞の受賞コメントや終了後にSNSなどを通じて謝罪したり、アカデミー会員から脱退したりもしているが、とても残念。BLM問題が何年も続いているが、白人社会といわれているアカデミー賞やアメリカの様々なメディアも雑誌の表紙、映画の主役にも黒人が台頭している。「ブラックパンサー」の続編も年内に公開される予定で話題になっている。輝かしい場で、黒人2人がばかばかしいことをしてしまったのは、個人的に悔しかった。

――ちなみに、冒頭でNYに拠点を移すと言っていたが、その決意をしたのはなぜ?

レスリー:コロナ禍だったけれど、2020~2021年にかけて、写真家20周年の集大成として写真集を出すことと、多くのアーティストや関係者に参加してもらってチャリティイベントを兼ねた自分の結婚披露パーティを開くことができた。われわれクリエイターは、難しい状況の中でも、その時代や環境の中で、闘いながら、困難を乗り越え、自分が感じたものを表現し続けることが大切だ。立ち止まらず、それをその乗り越えたことで、「ギャップ(GAP)」のSDRs、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のキャンペーンや、羽田空港でのD&I写真展なども経験させてもらった。2022年は日本にきて30年の節目の年。次はアメリカに拠点を移して活動したいと思った。

 実は歴史のある雑誌の日本版が今夏創刊される。撮影はこれからだが、しっかりとハリウッドの世界を日本の雑誌で届けるためのリサーチのために来た。これまでパリコレ、ミラノコレなど10年以上撮影してきたので、ファッションの世界はよくわかった。これからフォトグラファーとして、ハリウッドの情報を日本に届ける。4~7月まで、いろいろな俳優の撮影を予定している。ハリウッドのファッションを日本につなげる橋渡し役になりたい。楽しみにしていてほしい。

レスリーが選んだ、2022年オスカーのレッドカーペットに登場した22人のベスト・ハリウッドスターの豪華ドレス&スーツスタイル

レスリー・キー/フォトグラファー
PROFILE:シンガポール出身。1994年に来日。98年にフォトグラファーとしての活動を開始。ファッションや広告などの分野で、日本を始め、アジア各国やニューヨークなどで精力的に活動

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