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連載 コレクション日記

反戦を訴える「ステラ」にパリコレ復帰の「サカイ」、青春時代を描く「ルイ・ヴィトン」 2022−23年秋冬パリコレ現地リポートvol.5

 ボンジュール!欧州通信員の藪野です。今日もパリは雲一つない快晴ですが、気温はかな〜り低め。会場前で長時間張り込むフォトグラファーたちは、きっと大変だろうなと思います。いよいよパリコレも残すところあと2日。3月7日のダイジェストをお届けします!

STELLA McCARTNEY

 「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」は音源を通して、反戦を強く訴えました。ショー開始前に流れたのは、1963年に当時アメリカ大統領だったジョン・F・ケネディ(John F. Kennedy)が行った演説「平和のための戦略(THE STRATEGY OF PEACE)」フィナーレには、ジョン・レノン(John Lenon)とオノ・ヨーコ (Yoko Ono)を中心に結成されたプラスティック・オノ・バンド(Plastic Ono Band)の「平和を我等に(GIVE PEACE A CHANCE)」を使用しました。

 これらに関しては、日々深刻化する状況を受けて変更したものだそう。ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)は、ウクライナで戦争が起こっている今、パリコレでショーを行うことに対して「尋常ではない気持ちを抱いている」とし、「コロナのときもそうだったが、今はもっと悲しく矛盾を感じる。だから、何らかの形で反戦の表現をしたかった」と話しました。ミラノの「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」や、昨日の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ヴァレンティノ(VALENTINO)」もそうですが、多くの業界人がこの状況下でファッション・ウイークに参加することに疑問やもどかしさを抱く中、ショーを通してこのようなメッセージを世界へと発信するデザイナーたちの姿勢には、頼もしさを感じます。

 今季の会場は、ポンピドゥー・センターの最上階。「ステラ バイ ステラ(Stella by Stella)」と題し、アメリカ人現代アーティストのフランク・ステラ(Frank Stella)の作品の世界観を同ブランドらしいスタイルに落とし込んだウエアラブルでアートのようなコレクションを発表しました。キーアイテムは、フランクの作品を想起させるV字ラインやストライプを用いたニットのセットアップやテーラードアイテム、人工ファーコート。ポップカラーもしくはモノトーンで彼の抽象画をプリントしたスーツやドレスもあります。

 デザインは、メンズのテーラリングにヒントを得たボクシーなシルエットや力強い肩のライン、白のトップステッチを加えたワークウエアのようなディテール、袖やスカートに軽やかで丸みのあるシルエットを描くギャザードレープが特徴。小さなブラトップのデザインや胸元の大胆なカット、サテンのスリップドレスが、センシュアルなムードを加えています。

 サステナビリティの追求で知られる同ブランドですが、今シーズンはコレクション全体の67 %が環境に配慮した素材で作られているそう。また、ワイン製造時に出るブドウの皮から作られたレザーの代替素材「ヴェジェア(VEGEA)」を使用したバッグやスニーカーの制作にも新たに取り組んでいます。

SACAI

 「サカイ(SACAI)」がついにパリに戻ってきました‼︎今季フォーカスしたのは、シェイプ。伝統的なメンズのワードローブを想起させるピンストライプのスーツや、トレンチコート、アビエータージャケット、フィッシャーマンニット、スポーティーなウエアといった「サカイ」らしいアイテムをベースに、ボリュームのコントラストを効かせたハイブリッドスタイルを提案します。

 ビスチエのようなデザインや、ハイウエストもしくはローウエストからふっくら広がるシルエット、バッスルを入れたように誇張されたヒップは、オートクチュールドレスを想起させます。昨年、「ジャンポール ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」でクチュール・コレクションのゲストデザイナーを務めた経験が、クリエイションに好影響を与えたのがうかがえます。シルクシフォンやレースなどの繊細で透け感のある素材、ブラトップ風のディテール、大胆なスリットによりパンツがスカートに変わるアイテムなど、エレガンスと色気を漂わせます。

 ショーでは、「カルティエ(CARTIER)」とのコラボレーションによる“トリニティ”の限定コレクションも披露しました。今回の会場は、豪奢な装飾とシャンデリアが特徴的なパリ市庁舎のホール。ショー前後のライトアップや座席、コレクションのアクセントカラーに使用された赤には、「カルティエ」への敬意を感じました。「ゴルチエ」や「カルティエ」だけでなく、「ディオール(DIOR)」のメンズから「ナイキ(NIKE)」「ポーター(PORTER)」まで、多彩なトップブランドとの協業を手掛ける阿部さん。今後も、さらなる活躍に目が離せません!

 ショー後に届いたプレスリリースの最後の言葉は、「LOVE SAVES THE DAY」。“愛は危機を救う”や“愛は勝つ”といった意味合いのフレーズで、「サカイ」が16-17年秋冬に掲げたキーメッセージ「LOVE WILL SAVE THE DAY」を思い起こさせました。当時、阿部さんが語っていたのは「デジタルで何でもできる世の中でも、最終的に大切なのは人と人とのつながりだと感じた」ということ。同じようなことを、コロナの影響でデジタル化を余儀なくされてきたこの2年であらためて感じたのかもしれません。そして、フィナーレに使われた楽曲も、ジョン・レノンの「Love」。みんな今必要と感じているのは愛や人間的なつながりであり、今シーズンのパリは愛をたたえるブランドが多いです。

LOUIS VUITTON

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の会場は、いつものルーブル美術館ではなくオルセー美術館。ここでファッションショーが開催されるのは史上初のことだそうです。ファッション・ウイーク中はなかなか美術館に行く時間もないので、会場で芸術に触れられるのはうれしい限り。数々の彫刻が並ぶ1階ほぼ全てを使ったショー空間は、作り込まずともアートが持つ力にあふれています。

 今季、ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)が探求したのは”儚く、美しく、心が揺れ動く青春時代”。制限を設けることなく、自分の世界や個性を自由に築き上げる瞬間に着目しました。ファーストルックは、ネットフリックスの韓国ドラマ「イカゲーム」で話題を集め、同メゾンのアンバサダーにも就任した女優のチョン・ホヨン(Jung Ho-yeon)。過去に「ルイ・ヴィトン」のショーに出演したこともある彼女が、ビッグシルエットのレザージャケット、ビンテージ風の花柄のネクタイを結んだシャツ、たっぷりとしたワイドパンツをまとい、ランウエイにカムバックです!

 そんなファーストルックが象徴するように、中心となるのは、極端に大きなテーラードアイテムや、ミリタリー風アウター、スポーティーなジャケットに、タイドアップしたシャツ、ワイドパンツやスーツを組み合わせたスタイル。タートルネックのセーターにツイードやニットを用いたエプロンドレスや学生服からヒントを得たスカートを合わせたり、プリーツがヒラヒラ揺れるロマンチックなマキシドレスの上にオーバーサイズのラガーシャツやノスタルジックなフラワーモチーフセーターをレイヤードしたりと、自由な発想でスタイリングやプロポーションバランスを楽しんでいます。

 登場するアイテムは、例えるなら、お父さんやおばあちゃんのクローゼット、もしくはビンテージショップで見つけてきたよう。それを若者たちが好きなように組み合わせて、街に繰り出すといった雰囲気です。ただ、ニットやツイードの上にビーズやスパンコール刺しゅうを加えたり、パンツの柄をすべて刺しゅうで描いたり、ストライプを細く切った生地をはぎ合わせて表現していたりと、そこにはラグジュアリーメゾンならではの手の込んだディテールが見て取れます。

おまけ:今日のワンコ

 「ルイ・ヴィトン」の会場で、ぬいぐるみのように抱きかかえられたワンちゃんをキャッチ。飼い主さんは顧客でしょうか、22年クルーズ・コレクションのドレスを着ていました。そして、会場を奥に進むと、ジャン・バティスト・カルポー作の彫刻にもワンちゃん発見。少年を見上げる表情がなんとも愛らしいです。

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