ファッション

「ヨーク」ショーデビューの記録 遅咲きの男に訪れた千載一遇

 2022-23年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」が14日に開幕した。今シーズンのショーの先陣を切ったのは、寺田典夫デザイナーの「ヨーク(YOKE)」だ。38歳の遅咲きの男が挑んだ初の大舞台に、約200人が訪れた。

裏方の男が夢見た舞台へ

 寺田デザイナーがユニセックスブランドとして「ヨーク」を立ち上げたのは、18-19年秋冬シーズンだった。それまではOEMメーカーや国内ブランドに所属し、デザインや生産管理を担当。真面目な性格と人柄の良さで、裏方としてチームを支えてきた。その経験が長いからか、デザイナーらしいカリスマ性が良くも悪くもない。展示会ではセールスのスタッフに間違われたり、接客しようと声をかけても気付かれなかったり。

 そんな裏方に慣れた男は、性格も控えめだ。今回のショーは、ファッションコンペ「東京ファッションアワード 2022(TOKYO FASHION AWARD 2022)」受賞によるイベントで、「ヨーク」のほかにも若手ブランドが多く参加する。ショー開催時間は事前にブランド側からヒアリングして協議するのだか、関係者が来場しやすい週末遅めの時間帯は、希望者が必然的に多くなる。そんな中、寺田デザイナーは控えめに平日を希望し、結果的にトップバッターを務めることになってしまった。しかし、やるからにはと覚悟を決めた。「思っていた順番ではなかったけれど、やるしかない。ファッションショーは学生時代から夢見ていた舞台だし、本当にそこまでたどり着ける人はほんのひと握り。まさか自分がショーをやるなんて信じられない。でも、やるからには実力を見せてやります」。ショー2週間前、寺田デザイナーは自らを奮い立たせるようにそう語った。

 そしていよいよ当日。会場には同年代のデザイナーらがフィッターとして応援に駆けつけた。知り合いに囲まれてリラックスした表情の寺田デザイナーは、全員分のスタッフパスを握りしめ、手渡しし、荷物も率先して搬入する。まるで気が利く裏方のように。この日の主役も、相変わらずだった。

ショーは“1時間限定のギャラリー”

 ショーは“1時間限定のアートギャラリー”というコンセプトのもと、美術館をイメージをしたセットを組んだ。セットには写真家の遠藤文香や佐々木大輔、嶌村吉祥丸、デザイナーの工藤司、陶芸家の井上祐希ら「ヨーク」とこれまで関わってきた10人の作家の作品を展示した。「カール・ハンセン&サン(CARL HANSEN & SON」のチェアも設置し、BGMもギャラリーの音声ガイダンス風に作り込むこだわりようだ。起用するモデルは総勢35人で、費用は約1000万円近くにふくれ上がった。リハーサルを終えて会場時間が迫ると、「よしっ」と声を出した寺田デザイナーの表情は、主役にふさわしい自信に溢れていた。

 寺田デザイナーの自信は、いつも以上に強いコレクションからも感じられた。今季はアメリカの画家クリフォード・スティル(Clyfford Still)に着想し、引き裂いたり、ゆがんだりさせる同氏の作風をテキスタイルで表現。作品をモノトーンのジャカードで表現した主張の強いものから、色のにじみをニットで描いた繊細なものまで、アートの要素とデザインのギミックをふんだんに盛り込んだ。今シーズンは海外を意識し、「ヨーク」が得意とするアウターとニットを強化。リバーシブルで着用可能なイージーフィットのムートンコートや、鈍い光沢が繊細な色彩を引き立てるシープレザーのカーコート、トレンチコート2着をハイブリッドしたギミックの効いたコートなど、バリエーション豊かなアウターがそろった。ニットは編み地の方向を変えて柄にしたり、複数色の糸をミックスさせて表情を加えたりと、派手なテクニックから地味な小技まで、引き出しの多さを見せた。

“つなぐ”輪を広げたブランドのこれから

 「ヨーク」は立ち上げから成長を続けており、現在では国内約40店舗、海外13店舗に卸し、年間売上高は3億円に迫る規模だ。今季も前年の秋冬シーズンより120%増で推移しており、勢いは続いている。デビューから、ニュアンスカラーとオーバーサイズを多用するため“東京らしいブランド”の一つとして、安易にくくられることも少なくなかった。しかし今シーズンは海外を意識し、自身の強みを伸ばすクリエイションに舵を切ったことが奏功して、“安心できる服”から“感情を揺さぶる服”へと突き抜けた。真面目なもの作りゆえの硬さはあるが、それも個性として生きるコレクションだった。

 この日の主役は、慣れないショーと囲み取材を終え、「本番前は大変すぎてもう二度とやりたくないと思っていたけれど、ショーを終えてみて本当にやってよかった」と安堵していた。「ヨーク」には、“つなぐ”というコンセプトがある。ブランドのアイテムが、いろいろな人たちにつながっていってほしいという寺田デザイナーの思いが込められたネーミングだ。ショーを会場で見た招待者、映像で見た視聴者、ルックを見た読者、そして関わったスタッフ――学生時代に夢見た舞台をきっかけに、さらに多くの人がブランドとつながった。でも、寺田典夫はこれからもきっと変わらない。明日からもやっぱり裏方で、ものと人をつなぐために試行錯誤しているのだろう。

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