ファッション

“服オタク”「M A S U」の覚醒 初のショーで見せた海外進出への序章

 後藤愼平のメンズブランド「M A S U」は18日、2021-22年秋冬コレクションを初のランウエイショー形式で発表した。会場は東京・六本木のシアターレストラン「金魚」で、招待されたバイヤーやメディア関係者ら約100人は布がダラダラと垂れ下がる異様なムードのエントランスを抜け、ステージのあるホールでショー開始を待つ。今回のショーは、King Gnuの常田大希が主催するクリエイティブ集団「ペリメトロン(PERIMETRON)」の佐々木集が手掛けており、コラボレーションした帽子職人やニッターら20代を中心に「若い世代から業界を盛り上げたい」という思いでチームを結成した。17年春夏の立ち上げ以降成長を続け、現在の卸先は25アカウント、30店舗とコロナ禍でも上り調子。その勢いをさらに加速させ、世界に飛び出すための序章としてランウエイショーを開催した。

世代や性差などの“記号”を超越

 コレクションのキーワードは“CODES”で、「文字通り、記号の複数形です」と後藤デザイナー。男性や女性、子供や大人といった区別の呼称を“記号”とし、「“記号”という固定観念を人々から取り払うことができたら、世の中がもっと楽しくなると思うんです」と続ける。幼少期の頃に自然と湧き出ていた無邪気な遊び心に思いを馳せ、世代も性もフラットに捉えたクリエイションを意識した。冒頭の映像で5歳の子供が着ていた伸縮性のあるポップコーントップスは、ショーでは190cmのモデルが着用。クラシックなスーツの生地には、光発色繊維モルフォテックスを横糸に使って服が動くたびに色気のある光沢を放ち、“かわいい”の代名詞であるウサギやエンジェルのモチーフもどこか不気味に表現されている。ベーシックなジャケットにはボタンがいびつに並んだり、渦のように複雑なステッチが描かれたり、トレンチとワークブルゾンを融合したアウターやフリルのように裾がなびくスラックス、シースルーのアーミーパンツだったりと、一点一点が意外性のある素材やアイデアが込められた主張の強いアイテムを連打する。クラシックやミリタリー、ワークやストリートといったメンズ王道の“記号”で形容することさえ許さない、「M A S U」の新たなスタイルを打ち出した。

 このクセが強いクリエイションは、これまでの「M A S U」とは明らかに違う。同ブランドを現在の地位にまで押し上げた武器の一つは、服マニアにも初心者にも響くバランスの良いクリエイションと価格帯だった。後藤デザイナーは、ビンテージショップのライラ(LAILA)で古着を掘り探しながら得たオタク的な深い知識を、ブランド「セブン バイ セブン(SEVEN BY SEVEN)」で服として形にすることを学んだ。28歳とは思えないマニアックな素材使いやテクニックを、軽やかに見せるセンスに長けていたはずである。だが21-22年秋冬は思い切って強い服に徹することで、新境地に踏み出す決意をにじませた。

「世間の思い込みをひっくり返してやる」

 「ショーをやると決めてから、正直、かなり苦しかった。経験がなかったし、何をやるにも不安だらけでした」と後藤デザイナーは明かす。しかし佐々木集がチームに加わってからは「あれだけ悩んでいた演出面などが全てスムーズに動き出し、モノづくりに集中できるようになりました。このショーをやるからには強い服を作りたい、とスイッチが入ったんです」。時代も性もフラットに捉える考えは「男だから我慢しろ、男だから歯を食いしばれみたいな固定観念はただ息苦しいだけ。であれば、そんな世間の思い込みをひっくり返してやろうと考えました」。初のショーを終えたばかりで気持ちが高まっているはずなのに、終始落ち着いた表情で淡々と自分の言葉で語る姿は、やはり28歳とは思えない大物感である。しかし根底には、「服で人を驚かせたい」という純粋で無邪気な一面も垣間見た。世代という“記号”すらも超越し、世界進出に向けて新たな一歩を踏み出した「M A S U」。今回の大胆なクリエイションは、きっと賛否両論が起こるだろう。しかし賛同者の心には、これまで以上に深く突き刺さるコレクションとなったはずだ。「まずは日本でさらに盛り上げて、その熱量を海外に持って行きたい」という野望は叶うのだろうか。後藤愼平の行く末は王道か、異端か。気鋭デザイナーの未来は、想像以上に面白そうだ。

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