ファッション

パリの「シャネル」オートクチュール サロンがリニューアル 顧客のみに開かれたココ・シャネルの世界とは?

 パリ・カンボン通り31番地の「シャネル(CHANEL)」のオートクチュールサロンのリニューアルが完了した。イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)が所有していたヴィラをはじめとする著名人の自宅や、ニューヨークの「ザ・マーク・ホテル(THE MARK HOTEL)」、カリブ海のサン・バルテルミー島の高級ホテル「シュヴァル ブラン(CHEVAL-BLANC)」などを手掛けたインテリアデザイナーのジャック・グレンジ(Jacques Grange)が内装を担当。2年間の大規模な改装工事を終えた。

 グレンジはコンテンポラリーとクラシカルを巧みに融合させたデザインで知られており、50年以上のキャリアを有する。サンローランと親しかったグレンジは、「シャネル」のアーティスティック・ディレクターを務めていたカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)とも長年にわたる親交があったが、1970年代にサンローランとカールの間に不和が生じたことで、仕事を共にすることはなくなった。

 しかし、2017年にサンローランの生涯のパートナーであったピエール・ベルジェ(Pierre Berge)が亡くなると、カールは共通の友人を介してグレンジにオートクチュール サロンの改装を依頼した。サロンのある建物には「シャネル」創業者のココ・シャネル(Coco Chanel)ことガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)のアパルトマンもある。

 グレンジは、フランス文化省が歴史的建造物に認定したことでも有名な、アール・デコ様式の鏡張りの階段を古い写真を元に復元した。同階段は、シャネルがタバコを片手に腰掛けて自身のファッションショーをひっそりと眺めていた場所でもある。

 またカーブを描いたオリジナルの天井も再現し、柱には背の高い鏡を設置した。そして部屋の一角には、巨大な漆塗りの衝立を配置した。グレンジはシャネルの自室のリノベーションも手掛けており、同衝立は彼女の部屋にあったものを彷彿とさせる造りとなっている。 

 ほかにもパトリス・ダンジェル(Patrice Dangel)がデザインしたグレーのまだら模様のシルクのカーペットや白い照明器具、シャネルのブティックに飾られていた1930年代のガラスと金属のコンソールをコピーしたテーブル、イタリア人彫刻家のジュセッペ・デュクロ(Giuseppe Ducrot)がデザインした白いセラミックのコンソールテーブル、ギリシャ人アーティストのマリナ・カレラ(Marina Karelia)がデザインした樹脂とガラスでできた台座テーブルなどが配置されている。

 布張りの大きなソファとアームチェアは居心地のいい空間を演出しているし、小麦の束の形をした金メッキのブロンズ製の脚のサイドテーブルは、現在「シャネル」傘下となっているジュエリーブランド「グーセンス(GOOSSENS)」がシャネルのために製作したオリジナルを彷彿とさせる。

 広々としたプライベート空間のフィッティングルームは全部で3つあり、ダマスク織の装飾が施されたグレーの仕切りで区切られている。奥にはヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)「シャネル」アーティスティック・ディレクターによる2021年春夏オートクチュール・コレクションのカラフルなドレスがガラスのキャビネットに陳列されており、すぐ横のドレッサーに置かれた黒い椅子はジオ・ポンティ(Gio Ponti)のデザインだ。

 グレンジは、「プロジェクトのテーマは20分で決まり、カールも了承した。私はシャネルの精神を体現したかった。私もカールも正確にイメージすることを望んでいた。このサロンには、非常に有名かつ歴史あるブランドの全てが反映されている。魅力的でエレガントかつ心地よいオートクチュールだ。ここにいると気分がよくて、帰りたくなくなる」と語った。

 カールは19年に他界し、サロンの完成を見届けることは叶わなかったが、後任のヴィアールは当初からこのプロジェクトに密接に関わっていたという。

 21年1月末にはサロン初のカルチャーイベントが開催され、「シャネル」アンバサダーのペネロペ・クルス(Penelope Cruz)やマリオン・コティヤール(Marion Cotillard)に加えて、新たに起用されたシャルロット・カシラギ(Charlotte Casiraghi)がトークを繰り広げた。

 カシラギの母でもあるモナコのカロリーヌ王女(Princess Caroline of Monaco)や、フランソワ・ピノー(Francois Pinault)=ケリング創業者など、グレンジのクライアントはそうそうたる顔ぶれだ。ゆえに、デザインの歴史やパリの社交界を知り尽くしているだけでなく、ゴシップの話題も豊富だと言える。

 グレンジは「シャネルには映画『昼顔』のプレミアでサルバドール・ダリ(Salvador Dali)と一緒にいる時に会ったことがある。1度しか会ったことはなかったが、常に彼女の世界に惹かれていた。シャネル の伝記を書いたエドモンド・シャルル・ルー(Edmonde Charles-Roux)の自宅の内装を手掛けたこともある。サンローランもシャネルの美学に強い影響を受けていた。シャネルは本物の天才だ。類稀なるセンスの持ち主で、バロックとモダンを融合させた独自のスタイルを確立していた」と語った。

 なお、カンボン通りに位置する建物の1階は「シャネル」のブティック、3階はデザインスタジオ、そして上層階がオートクチュールのアトリエとなっており、限られた裕福な女性たちの衣服を手作業で仕立てている。

 それぞれの衣服は完成までに2〜3カ月かかり、ジャケットは最低200時間、刺しゅう入りのウェディングドレスに至っては数千時間の作業を要する。現在は新型コロナウイルスのパンデミックの影響でさまざまな制限が課せられているにも関わらず、「シャネル」唯一のオートクチュールの拠点としてVIP顧客を魅了し続けている。

 グレンジは最後に、「シャネルの世界を追求することができてうれしい。私の仕事ではクライアントをリスペクトすることがとても重要だ。仕事の基本だとも言える。今回の結果は『シャネル』だからこそ実現した。独りよがりになるのではなく、ただ目の前の仕事や細かい部分に集中していた。カールは完璧主義者だったが、それは私も同じだ」とコメントした。

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