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教えて!パタゴニアさん 連載第5回 外部組織と協働してコミュニティーを作る方法

 サステナビリティ先進企業のパタゴニアの担当者にその取り組みを聞く連載第5回。環境と人権に配慮したビジネスを行うには、個人・一企業での取り組みでは限界があり、NPO・NGOをはじめとする外部組織との協働が不可欠です。パタゴニアは1970年代から環境団体と協働をはじめ、85年からは自然環境の保護・回復のために売り上げの1%を利用することを誓約。これまでに総額1億ドル(約104億円)相当の寄付を環境助成金プログラムや製品寄付を通じて行ってきました。そんなパタゴニアは、現在の環境危機をどのように捉え、どのような行動を起こしているのでしょうか。中西悦子環境社会部門アクティビズム・コーディネーターに聞きます。

WWD:現在の気候危機をはじめとする環境危機をパタゴニアはどのように見ていますか?

中西悦子環境社会部門アクティビズム・コーディネーター(以下、中西):パタゴニアは一企業として、科学者が「ここから正念場の10年」という気候危機、そして地球上全ての生物が絶滅の危機に瀕しているという事実を重く見ています。この問題に対して、私たちの声、想像力、ビジネス、コミュニティー、全てのリソースを活用して行動します。

WWD:自社だけでは難しいことも多そうです。

中西:その通りです。そのため、再生可能エネルギーを促進する運動に取り組んだり、気候変動によって最も深刻な影響を受ける人々の権利のために闘ったりしている数百のNPO・NGO組織を支援しています。2018年11月には、気候危機に取り組む複数の組織に、トランプ政権による減税政策の結果発生した予定外の現金1000万ドル(約14億円)を提供しました。

WWD:寄付だけではなく、社員が自らボランティアなどで環境団体と共にアクションを起こしていますね。

中西:社員の多くはアウトドアで過ごすだけではなく、それを保護することにも情熱を傾けています。当社では1994年にスタートした環境インターンシップ・プログラムを通して、最長2カ月間職場を離れ、給与と福利厚生を受けながら各自が選んだ世界各地の環境保護団体の活動に参加することができます。今期は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で実施できていませんが、昨年は43団体、延べ約1万時間のボランティア活動を行いました。地域コミュニティーで活動する小規模の草の根団体にとって、パタゴニア社員のインターンが提供する無償ボランティアは貴重なリソースであり、また、インターンシップを経験した社員もまた、本人の体験を通じた言葉で語り、インスピレーションをもらい、自然環境を守るための取り組みへの深い理解、そしてパタゴニアのミッションを再確認して職場に戻っているのでいい相乗効果を生んでいます。

WWD:そうした経験が社員一人一人の環境への理解を深め、店頭や地域から広がるコミュニティーの輪につながっているのですね。

中西:私たちはいち早く地域の自然環境の変化に気づき、その生態系を守るために活動する方々を、共に未来をつくるパートナーと考えています。自分たちのビジネスや暮らしに必要な水や土や空気を守り、健全な地球を望む点が共通していますから。互いに関係し、影響し、持ち場を守るというような気持ちでいます。

WWD:その輪は確実に広がっています。

中西:2002年には、(パタゴニア創業者の)イヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard )と、ブルー・リボン・フライズのオーナーであるクレイグ・マシューズ(Craig Mattews)が、売り上げの1%で自然環境保護に貢献するビジネスの奨励を目的とする非営利団体「1%フォー・ザ・プラネット(1% FOR THE PLANET)」を設立しました。1社だけで行動するのではなく、自然環境保護の必要性を理解する企業の同盟です。参加企業は「ビジネスでの利益と損失は地球環境の健全性にも直接関連する」ことを理解し、産業が与える社会的・環境的影響に関心を持っています。

WWD:この他にも協業している主な組織は?

中西:テキスタイル・エクスチェンジ(TEXTILE EXCHANGE)、サステナブルアパレル連合(SUSTAINABLE APPAREL COALITION)、公正労働協会(FLA)、ブルーサインテクノロジーズ( BLUESIGN TECHNOLOGIES)、コンサベーション・アライアンス(CONSERVATION ALLIANCE)、革新的な気候・エネルギー政策を求める企業グループ(BICEP)、フェアトレードUSAなどです。

WWD:日本の組織との協業はありますか?

中西:一般社団法人コンサベーション·アライアンス·ジャパンや気候変動イニシアチブ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)などに参加しています。JCLPは気候危機に速やかな脱炭素社会への移行を実現し、1.5℃目標の達成を目指す企業グループです。30年までに再生可能エネルギー比率50%を目標とすることなど、政策提言なども行い、企業の立場から脱炭素社会への具体的な道筋について意見を述べています。昨年10月26日、菅首相が所信表明演説で、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すという日本政府の目標を示し、11月には国会で「気候非常事態宣言」が採択され、遅ればせながら日本も脱炭素社会に向けて動き出しました。

WWD:菅首相のカーボンニュートラル宣言はインパクトがありました。

中西:世界の潮流、ESG投資など金融の動きなど要因はさまざまにありますが、これまでの市民活動、NPO・NGOによる働きかけはもちろん、最も気候変動の影響を受ける若い世代の声の広がりもこの動きを後押ししています。実現に向けた対策を加速させていくためには、企業やNPO・NGOだけでなく、スポーツコミュニティー、市民、学生、自治体職員、一次産業従事者など、地域やテーマによってさまざまなステークホルダーとともに取り組んでいくことが重要であると考えています。

WWD:環境保護活動を成功に導くスキルの提供も行っていて、助成先を対象とした宿泊型ワークショップ「草の根活動家のためのツール会議」(米国は1994年、日本は2008にスタート)からさまざまな活動に広がっています。

中西:18年に実施した「草の根活動家のためのツール会議」は気候変動をテーマに行い、その後、長野県白馬村ではスノーボーダーによる気候変動問題に取り組むグループ一般社団法人プロテクト アウワ ウィンターズ ジャパン(PROTECT OUR WINTERS JAPAN、以下、POWJ)が設立されました。自然エネルギー信州ネットや白馬村職員など、会議に参加したメンバーが中心となって地元企業の支援を集めながら、長野県知事や白馬村長も出席した「気候変動&地域経済シンポジウム―雪を守る、白馬で滑り続けるー地域を豊かにする山岳リゾートを目指して」を開催しました。この活動をきっかけに、スノーボーダーだけではなく、住民や高校生の積極的な取り組みも生まれて国内3番目となる白馬村の「気候非常事態宣言」また「カーボンゼロ宣言」を後押ししました。

WWD:店頭と連動した署名活動もありますね。私も署名したことがあります。

中西:パタゴニア直営店も協力したPOWJによる再生可能エネルギー100%のスキー場を目指す1万4509筆の応援署名が、20年10月29日に一般社団法人白馬バレーツーリズム(HAKUBAVALLEY TOURISM)へ届けられました。これに先駆けて、エリア内のスキー場ではナイター営業を再生可能エネルギーで行うなどの具体的な取り組みが始まり、スキー場だけでなく飲食業や宿泊業などさまざまな企業の皆さんがSDGsの取り組みに着手し始める動きになっています。

また、昨年12月には「草の根活動家のためのツール会議」の一環で「クライメート・アクティビズム・スクール」を15〜24歳の若い世代を対象にオンラインで実施し、26日は143人、27日は140人が参加しました。10月に募集を開始し1カ月で100人の定員に449人の応募があり、うち150人が高校生です。気候危機時代を見据えて新たに学び、行動することを実践したいと手を挙げてくれました。未来は明るいなんて簡単に言わず、彼らに未来を任せるだけではなく、何ができるのか考え、大人の私たちも持ち場の役割を果たしていかなければいけません。パタゴニアも行動し続けます。

WWD:今、日本で注目しているNPO・NGOは?
中西:ジャパン・ビヨンド・コール(JAPAN BEYOND COAL)の動きや、実際に影響を受けることになる若い世代によるFRIDAYS FOR FUTURE、NO YOUTH NO JAPAN、などの活動にも注目しています。ジャパン・ビヨンド・コールは気候変動の進行を止め、持続可能なエネルギー社会を実現するために要因である温室効果ガスCO2を排出する石炭火力発電所を30年までにゼロにすることを目指し、国内で気候変動に取り組むNPO・NGOが協力して活動しています。その声を社会に反映させ、社会をつくる担い手としてともに取り組みたいと考えています。

答えてくれた人:中西悦子(なかにし・えつこ/環境社会部門アクティビズム・コーディネーター:2002年パタゴニア日本支社入社し、渋谷店に配属。07年から環境部門で環境助成金、非資金的な環境NPO・NGOの支援、環境キャンペーン、イニシアチブを担当。アクティビズムの責任者として、気候危機をはじめとする環境・社会問題の解決に向けて社内外のさまざまなステークホルダーと協働、共創する。助成先を対象とした宿泊型ワークショップ「草の根活動家のためのツール会議」を企画運営。パタゴニア製品との出合いのきっかけでもあるスキーを楽しみ、ボランティアでは、北海道に生息するシマフクロウの研究者ともに保護活動に参加。日々行っているサステナビリティの取り組みは堆肥づくり、応援したい活動への寄付