サステナビリティ

教えて!パタゴニアさん 連載第4回 生産者の生活向上に貢献するために必要なこと

 サステナビリティ先進企業のパタゴニアの担当者にその取り組みを聞く連載第4回。今、全産業的に重視されているのが企業活動における“透明性”ですが、特にファッション産業では、2013年に縫製工場が多数入居するパングラデッシのラナ・プラザが崩落して1100人以上もの人々が犠牲になった事故をきっかけに、労働環境や労働条件などに対して生産者の配慮を求める声が強くなっています。そうはいってもほとんどの衣料メーカーは、製造工場を所有しておらず、製品のデザインや販売のみを行っています。パタゴニアも例外ではありません。では、どのようにして生産者の人権を守っているのでしょうか。第3回の「トレーサビリティーが大切な理由」に続いて、篠健司・環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャーに聞きます。

WWD:パタゴニアはどのように生産者の人権を守っていますか?

篠健司・環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー(以下、篠):私たちは世界中の企業とパートナーシップを組み、集団として衣類の製造により派生する害を緩和すべく緊密に取り組んでいます。また、パタゴニアはサプライヤー、そして私たち自身に業界最高の環境的および社会的水準を課していて、この工程を管理するために業界にあるツールやスタンダードを活用して、厳格な水準が存在しない場合はそれを自社で作り上げています。

WWD:ラナ・プラザの崩壊事故により、改めて労働環境や労働条件などに対して問われるようになりました。

篠:「スウェットショップ(労働搾取工場)」とは、そもそもは19世紀に労働者が暑く混雑した、大気が循環しない劣悪な工場環境で長時間にわたって労働してもわずかな賃金しか受け取れない工場ことを指しています。1913年のニューヨークの衣料品工場の火災は146人の死者を出し、そのほとんどは若い女性で半分以上がユダヤ系の移民でした。この事故が改革の呼びかけの口火を切りました。それからちょうど100年後に起きたバングラデシュのラナ・プラザの崩壊は1100人以上の死者を出し、新たな改革の呼びかけが起こりました。

WWD:ラナ・プラザ事故の後も改善されていない工場はあると聞きます。

篠:世界にはいまだにひどい状況の下で長時間の低賃金労働をしている人々がいます。そうした工場で働く人々のほとんどが女性で、貧困で、教育を受ける機会や公民権を剥奪されているケースがあります。労働法(の確立および施行)では不十分な場合があり、労働者は弱みに付け込まれたり、差別的な待遇や嫌がらせを受けたり、あるいは労働組合を結成する権利を持っていなかったりします。脅迫されたり騙されたりすることもあります。

WWD:パタゴニアはいつからどのように取り組みを始めましたか?

篠:1990年代初頭、会社の成長に伴い、契約工場の作業プロセスの改善に着手しました。工場契約担当者と品質管理チームが、工場を品質および労働環境の両面で評価することを始めました。そのときに、訪問できない工場とは取引をしないことを決定しました。91年には、全ての契約工場を招いて初のサプライヤー会議を開催し、各工場のさまざまなパフォーマンスを格付けするスコアカードを導入しました。90年代半ばには、第三者監査機関による契約工場の訪問監査と、契約を検討中の新規工場の査定を始めました。

WWD:環境への取り組み同様に着手が早いですね。

篠:96年、人権保護団体がある米国ブランドの衣料品の下請け工場で児童労働が行われていたことを暴露したことがきっかけに、当時のクリントン大統領が主導した「ノー・スウェット・イニシアチブ」にパタゴニアは招待されました。そして、アパレル企業の責任ある労働慣行を監督する非営利団体「公正労働協会(FLA)」の創設会員になりました。

WWD:FLAの会員であることが意味することは何ですか?

篠:責任ある労働慣行に対する説明責任を負うことを意味します。FLA認定は、パタゴニアが達成していることや、改善が必要な項目ついての客観的な評価を保証していて、お客さまにもその情報を提供しています。会員の責務の一部として、工場監視プログラムの質を査定するためにサプライチェーンの一部の抜き打ち監査が行われ、改善の必要性を明示するとともに、監査結果はFLAのウェブサイトに掲載され一般にも公開されます。

WWD:このような取り組みを行うには専任のスタッフが必要になりそうですね。

篠:2002年、当社のサプライチェーン全体で社会的責任の順守を監視するため、ソーシャル・レスポンシビリティ・マネージャーを雇用して、契約工場とより密に協力してサプライチェーンについて知識を深め、かつ、サプライヤーとの関係の強化を始めました。その結果、透明性を高めるために取引する主要工場の数を50%削減しました。

10年には、工場レベルにおける社会的責任と環境的責任を一体化し、全ての下請け工場を識別し、ほぼ100%の裁断・縫製工場を監査するようになりました。13年、サプライチェーンの職場行動規範を強化して生活賃金の項目を加え、原価計算に生活賃金レートを考慮する方針を実行に移しました。これらの取り組みが、パタゴニアのサプライチェーンにおける公平な賃金という課題に対処する短・中・長期戦略の一部になりました。

WWD:フェアトレードの認証付きで多くの衣料品を販売しています。

篠:14-15年秋冬シーズンから、製品を作る全ての人の生活を改善できるよう、米国のフェアトレード認証団体Fair Trade USAとパートナーシップを組み、アウトドアウエア企業として初めて、フェアトレード認証製品を展開してきました。2014年に1工場10製品で始まったパタゴニアのフェアトレード・サーティファイド製品数は、17-18年秋冬シーズンには12工場440製品まで拡大しています。

作った人の手に直接支援金を届ける

WWD:具体的に何を行っていますか?

篠:「労働者の支援」「地域社会の強化」「強制労働の撲滅」「労働環境の安全確保」「児童労働の撲滅」のため、製造するフェアトレード製品ごとに、労働者が生活水準を改善するために使うことのできる賞与を支払っています。この賞与は工場の労働者に直接送られ、民主的に選出された労働者から構成されたフェアトレード委員会が、その用途を決定します。労働者はそれらをヘルスケアや託児所などの地域事業のために使用したり、あるいはラップトップ・コンピューターや電子レンジなどこれまで購入できなかったものを買ったり、ボーナスとして支給したりしてきました。またこのプログラムは、社会的かつ環境的順守だけでなく労働者の健康と安全を促進し、労働者と経営者の間の会話を促進します。

WWD:製品の売り上げの一部が直接労働者に渡るということですね。

篠:はい。お客さまがフェアトレード・サーティファイド製品を購入すると、その売り上げの一部が直接、その特定の製品に命を吹き込んだ人たちの手に渡るということになります。そしてそれは、私たちのグローバル経済においては非常にまれな、優れた価値観への一票となるのではないでしょうか。

WWD:現在の製品の何パーセントがフェアトレード・サーティファイド縫製ですか?

篠:76%です。このフェアトレード・プログラムにより6万6000人の労働者を支援しています。

WWD:現在、力を入れていることを教えてください。

篠:3つの大きなプロジェクトを進行しています。

1つ目は衣料製造に携わる労働者に対する生活賃金の指針を具体的に現実なものにするために、業界内で取り組みを進めています。主にはフェアトレード・サーティファイド・プログラムを拡張しています。またFLAのメンバーであるブランドとサプライヤーが各自のサプライチェーンにおいて生活賃金モデルを試験的に取り入れて履行する「公正な報酬」プロジェクトにも参加しています。

2つ目は裁断・縫製工場以外(繊維工場、染色工場など)のサプライチェーンにおける労働条件を向上させる努力の強化です。台湾の繊維工場における人身売買を撲滅させるための重要な手段を採用しました。15年6月から法律で定められている以上の斡旋手数料を払った外国人労働者へは返金し、外国人労働者を雇用するために工場(または斡旋業者)が手数料を課す慣行を停止することへの合意をサプライヤーから取り付けました。

3つ目はパタゴニアの契約工場の火災予防管理能力の向上を奨励する取り組みとして、13年にFLAの火災予防イニシアチブに参加して資金を提供しました。私たちは現在パタゴニアの契約工場全てに適用するためにこのプログラムを拡大しています。

目標は私たちのビジネスに関わる人々の人生に肯定的な恩恵をもたらすこと

WWD:パタゴニアが目指すことを教えてください。

篠:衣類産業の多くが社会的水準の視点に欠けていて、主に女性の労働者が差別にさらされながら、危険な労働環境の中、低賃金の長時間労働を強いられています。ファストファッションの絶え間ない要求は常にこの問題を悪化させています。しかし、これが一律というわけではありません。パタゴニアは長年、私たちのビジネスがサプライチェーンにおける労働者とそのコミュニティーに及ぼす影響を分析し、管理するための強固な社会的責任プログラムを構築してきました。私たちの目標は環境への悪影響を最小限にするだけではなく、私たちのビジネスに関わる人々の人生に肯定的な恩恵をもたらすことです。

答えてくれた人:篠健司(しの・けんじ)/環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー:東京生まれ。1988年、パタゴニア日本支社設立直後に入社。広報、店舗運営を経て99年に退職。2001年に再入社し、物流部門、環境担当を経て現在はサステナビリティ業務を担当。好きなアウトドアアクティビティは、美しい自然の中を走るトレイルランニング。日常的に可能な限りの脱プラに取り組む。10年以上、ペットボトル飲料は購入していない

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