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なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか? 「パタゴニア」が推進する気候危機への新たな取り組み

 「パタゴニア(PATAGONIA)」はこの春から、リジェネラティブ・オーガニック認証の関連製品をスポーツウエアと食品部門「パタゴニア プロビジョンズ(PATAGONIA PROVISIONS)」で販売している。リジェネティブ・オーガニック認証は最高水準のオーガニック基準で、すでに存在する認証制度を土台に新たな条件を追加した包括的な農業認証だ。土壌の修復や動物保護、労働者の生活向上を目的に、環境負荷を軽減するだけにとどまらずに、さらにその先を目指す。

 2017年に「パタゴニア」と他の米国ブランドが中心となってつくったリジェネティブ・オーガニック認証にはさまざまな条件がある。必須条件は有機認証の取得で、「土を守ること」を重視した認証制度であるため、「なるべく耕さない省耕起栽培または不耕起栽培であること」「植物による土壌被覆が農地の25%以上を占めること」「生産者が作物の種類と場所を周期的に替える輪作を行ない、3作物種以上または多年生作物の利用をしていること」「リジェネラティブな(再生を促す)管理が3つ以上であること」などがその他条件として挙げられる。そして、リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(Regenerative Organic Alliance)と呼ばれる第三者認証機関から、基準の達成度に応じてブロンズ、シルバー、ゴールドといったレベル別の認証を受けて商標を使用できるという仕組みだ。

 「パタゴニアは」7月30日から公式ウェブサイトや店頭で、リジェネラティブ・オーガニックに関するキャンペーンを予定している。それに先立ち、7月22日にメディアに向けたオンライン説明会が開催された。同説明会では、“なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか?”というテーマのもとに、気候変動とアパレル産業の関係についてのビデオ上映や、金子信博・福島大学農学部食農学類教授による土壌の健康と気候変動の関係の講話などが行われた。

 佐藤潤一パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクターは、「ある研究によると、世界のアパレル業界と靴業界を合わせると、世界全体の8%(40億トン)の温室効果ガスを排出しているという。これは日本全体の排出量の約3.6倍、EU全体とほぼ同量だ。さらに、30年までにアパレル業界の排出量は49%増加するといわれている。排出の大部分は、繊維の生産、糸の加工、染色と仕上げだ。『パタゴニア』は、すでに再生可能エネルギーの導入などさまざまな二酸化炭素排出削減の取り組みを開始してきたが、今回さらに注目したのが、天然繊維、特にコットンの生産方法だ」と説明した。

 「パタゴニア」は、1996年から100%オーガニックコットンのみを使用しており、2020年からはリジェネラティブ・オーガニックへの取り組みを開始した。「世間ではオーガニックコットンの普及は現在もまだ広まっておらず、1%という極めて低い普及率だ。この現状を非常に危惧している」と佐藤氏。さらに、「近代的な工業型農業は環境を悪化させてきた。土壌内の有機物を使い果たし、それを化学肥料の投入などで無理やり延命している状態。これをリジェネラティブ・オーガニックは逆転させる可能性を秘めている」と続ける。

 「パタゴニア」は、気候変動緩和のために3つの解決策を実践している。1つ目は「二酸化炭素の排出を抑える」。25年までに再生可能な天然素材、もしくはリサイクル素材のみで製造することを掲げている。2つ目は「再生可能エネルギーへの転換」。電力を再生可能エネルギーに切り替えや、再エネ発電施設への投資を通じて25年までにカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)のビジネスの実現を目指す。この2つはすでに他社でも取り組みが進んでいるが、「パタゴニア」がさらに注目しているのが「炭素を土に戻す」だ。

 説明会の中で金子教授は、「気候変動はさまざまな要因で起こるため、その影響の予想は極めて困難だ」としながらも、「二酸化炭素の濃度は近年増加を続けている。人間活動の影響が地球システムに何らかの影響を与えていることは明らかだ」と語った。実は、土壌には大気の2〜3倍に相当する炭素が土壌有機物として貯留されているという。「二酸化炭素濃度の増加は、化石燃料の消費以外に土地利用の変化が大きい。農業が森林や草原を切り拓いて農地にすることによって、土壌から炭素が二酸化炭素として大気に移動するからだ。だが、『土壌のかく乱を防ぐ』『地表を有機物で覆う』『輪作・混作をする』を3原則とした健康な土壌をベースに保全農業を実施すれば、大気中の二酸化炭素を逆に土壌に吸収させることができる。世界では、保全農業の面積は、1973~74年頃の280万ヘクタールから、2011年には44倍の1億2500万ヘクタールに広がった。だが、残念ながら日本ではまだ主流ではない。もし、1年に土壌炭素を0.4%増やすことができれば、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑えることができる」と説明した。「パタゴニア」が掲げるリジェネラティブ・オーガニック農法もこれに寄与する。健康な土壌ははるかに多くの炭素を吸収するため、この農法が温室効果ガスを削減し、気候変動の抑制を助ける重要な手段になるという。それだけでなく、「収穫高も工業型農業と比較して6〜8倍にもなり得る」とイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)「パタゴニア」創業者は「リジェネラティブ・オーガニック」の取り組みを紹介する動画内で語っている。

 食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」では、調達先の一つであるニカラグアの農園ソル・シンプレ(Sol Simple)が20年春に世界初のリジェネラティブ・オーガニック認証を取得。そこで生産されたマンゴーを使った製品をすでに販売している。アパレルに関しては、ブランド初のリジェネラティブ・オーガニック認証のパイロット・コットンを育てるため、インドの150以上の農場と提携した。Tシャツの原材料であるコットンの栽培方法、そして農業のやり方を変えることは、土壌に炭素を戻すだけでなく、栽培農家の利益向上や地域の生態系の回復にもつながる。コットン栽培が解決策の一部になるとして、「パタゴニア」は今後さらなる取り組みを進めていく。

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