ファッション

気鋭ブランド「CFCL」が見た「国際標準のサステナビリティのリアル」

 「サステナビリティ、何から始めていいか分からない」――サステナビリティ担当になり、こうした相談を受けることがとても増えた。多くのサステナビリティ関連の取材をして記事を書いている私も実は分からない。サステナビリティに正解はなく、企業によって取り組むべきことは異なるため、時に有識者や専門家の力を借りて答えを出すほかない。だからこそ、これまで先進企業、推進企業の具体的な事例を紹介することでヒントを探してきた。

 取材を進める中で、どの企業にとっても実践に役立つ“ガイドライン”を見つけたのでシェアしたい。「Bコーポレーション(以下、Bコープ)」だ。先に言っておくと「Bコープ」認証取得へのハードルは極めて高い。評価項目は248。企業の経済的、環境的、社会的影響を測定するために設計された認証で、利益と社会的意義を両立させ、社会・環境に配慮した事業公的な透明性、法的説明責任において基準を満たしているかを評価される。そもそも、「サステナビリティって何?」という問いの答えにもなっていて、これからの企業のあるべき姿を描いていると思う。近年では、サステナビリティといえば切迫した課題である“環境への配慮”が取り上げられがちだが、人権、社会、プロダクトやサービス、コミュニティー、働き方、顧客などさまざまな側面を含んでおり、企業はビジネスを通じてそれらをよりよい状態にする“装置”と考えるのがいいだろう。そうしたことも理解しやすいのが「Bコープ」だ。

 「Bコープ」はファッション業界に限らず、人権や環境の問題に関してリードしている業界やマーケットから支持されていて、現在、全世界で約3500社以上が認証を得ている。ファッション&テキスタイル分野では、パタゴニア(PATAGONIA)やオールバーズ(ALLBIRDS)、イタリアのテキスタイルメーカーのレダ(REDA)といったサステナビリティ先進企業が取得している。

 これまで日本企業で「Bコープ」を取得した企業はわずか5社。理由は、取得するための内容はもちろん、言語や商習慣の違いといった壁も立ちはだかるからだ。米国発信の認証で、文書に日本語訳はない。アセスメントの内容などを和訳するのは、内容も難しいうえ量が膨大、日本の商習慣や企業文化に合わせ意訳しないと理解できるものではない。

「CFCL」が日本のアパレル初の「Bコープ」取得へ挑む

 しかし、今、その難関に挑む日本のアパレルブランドがある。「CFCL」だ。代表兼クリエイティブ・ディレクターの高橋悠介は、「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」を6年にわたって率いた後、2020年2月に独立。2021年春夏シーズンに「CFCL」を立ち上げた。

 高橋はブランドを立ち上げるにあたり、環境や社会に配慮したブランドでありたいという気持ちはあったが、サステナビリティの知識は乏しかった。「例えば、少し前に話題になった毛皮問題。毛皮をやめて、アクリルが入った人工ファーを使うブランドが見受けられたが――マイクロプラスチックは問題ではないのか?サステナブルという言葉だけが一人歩きしていて、分からなくなった。企業として何を正義とするか、目指すものを明確にしなければいけないと思った」と高橋。ブランドを立ち上げてすぐに、チーフ・サステナビリティ&ストラテジー・オフィサー(以下CSO)を設け、長年企業のCSRに取り組んでいた岡田康介氏と組むことにした。

 岡田CSOと話す中で、「Bコープ」の存在を知った。岡田CSOは「Bコープ」をこう評価する。「世界共通かつ緊急のテーマであるSDGsは正しく健全な視点と積極的なアクションのセットが必要不可欠。実践するための具体的なアクションにブレイクダウンできる仕組みが『Bコープ』。KPIの設定や各企業のベンチマークができる」。

 高橋は「これだ!」と思ったというが、前述したように、ハードルは高い。

「Bコープ」の具体的な評価項目と岡田CSOの分析

 岡田CSOは「Bコープ」取得を進めるなかで「エネルギーや水をどの程度使用し、温室効果ガスをどれだけ排出しているか、離職率は何%か、ガバナンス面で審査しているサプライヤーは全体の何%か、といった定量的な質問も多くあるが、それ以上に『どうやってSDGsに対応しているか?』という自社のアクションやポリシーを、記述で描写することを求める設問が印象に残っている」という。

 具体的にいくつかの項目を例にしたい。地球環境分野の「社員が在宅リモートワークなどバーチャルオフィス勤務のとき、どのような管理体制で、地球環境保全を社員に奨励しているか?」という項目に対して、岡田CSOは「一般的な在宅やバーチャルオフィス勤務を想定した質問で、『新型コロナウイルス感染拡大以降の在宅勤務の広がり』を意識した質問ではないことを理解して回答する必要がある」という。

 また、「自社の製品あるいはサービスは、地球環境保全のためにどのような成果物をもたらすか?」という項目では「単純な質問に見えるが、自分(自社)の言葉で説明をする、ということは容易ではない。“環境にやさしい”“エコ”という言葉を用いずに、定量的、定性的に説明する必要がある」と分析する。

 従業員分野の「アルバイトが正社員のような福利厚生サービスを受けられるようになるのはいつか?」という項目に対しては「日本でも中小企業含めて、同一労働同一賃金制度が実施されるが、実運用に落とし込めている企業はまだ多くないという環境で、このような質問を社外から受け、回答していくことはチャレンジングなこと」だと指摘する。

 顧客分野で「自社のプロダクトが、顧客や受益者に与える潜在的な影響を、顧客の状態・変化(ウェルビーイングであるかどうか)を通してモニターしているか?」という項目がある。「企業のKPIは、売り上げなど財務的な数値に傾倒しがちだが、非財務指標も含めて検討する必要がある」。

 ガバナンス分野の「会社の所有者(所有権保持者)が誰で、経年による経営陣の変遷に左右されず、地球環境負荷、地域社会、従業員などのステークホルダーに配慮したパフォーマンスをいかに改善していくかを、会社のさまざまなオペレーション上の意思決定要素であることを法的に確約させるために、どのような対応を行っているか?」に対しては「例として、米国では会社定款によってそれらをうたい、会社の活動を株主への利益還元のみに縛られないようにするために有志者が制度変更した歴史があり、日本の背景とは異なることを理解しておく必要がある」という。

 コミュニティー分野の「多様性、平等性、包含性を有する労働環境・職場環境を、どのように運用しているか?」に対しては、「ダイバーシティーとは男性・女性の働き方といった性別の違いだけではなく、ここでは、人種、宗教、慣習、バックグラウンド、過小評価グループ、などのあらゆる“違い”を指し、社内に在籍しているというだけではなく、事業運営や業務プロセスなどの意思決定に関わっているかどうかが問われる」と指摘する。

 6つの項目を見ても“気付き”が多く、自社で具体的に何ができるのかを考えるきっかけになる。自社のオリジナリティや強みも見えてくるのではないか。認知度が上がれば「『Bコープ』に取り組む企業で働きたい」と考える人も増えてくるだろう。

認証取得後にもハードル

 認証はあくまでガイドラインであり、大変なのはその先だ。「全てのサプライヤーを巻き込み、例えば、温室効果ガスの算定や削減をしていくことになる。そもそも認証を取得すればいいということではなく、続けていくことが重要だ」(岡田CSO)。

 製品サプライヤーやエネルギーや物流会社などとの取り組みは簡単ではない。サステナビリティはまだまだ新しいコンセプトだし、“変化”を嫌う人も多い。そうした企業を説得してベクトルを合わせていくことが必要になる。「すぐにシャットダウンするのではなく、説得し続けることに力を注ぐべきだと考えている」(高橋)。仕事は増える。しかし、ファッション業界に限らず、地球に暮らすみんなでスクラムを組んで取り組まないと、この先も“変わらず”皆が幸せに地球に暮らし続けることはできない。変化しないための変化が必要で、それが今なんだと思う。

 多くの人を巻き込むために大切になるのが「ビジョン」だ。高橋は、「ビジョンを共有すること」を重視する。もちろん本業は「時代に合った、時代に訴える服を作ること」だが、増えたデザイン領域に対しての丁寧なコミュニケーションを大切にしている。サステナビリティの推進力として岡田CSOに参画してもらい、ストラテジーも一緒につくる。

 高橋はコレクションブランドを経験して、SNSの台頭でファッションショーの意味が急速に変わったと感じていた。「モデルがランウエイを歩いているのを見て『これ新しい!』という価値観ではなくなった。その裏側にあるストーリーやフィロソフィーをいかに発信できるか。今はビジョンがあって、社会をよりよくするため服を作りたいと思っている人には、ポジティブな時代なのではないか」(高橋)。

 実は、岡田CSOはこれまで他業種のメーカーで経営管理を手掛けてきているが、ファッションは今回が初めて。ビジネスの在り方、投資の仕方で異なる部分はあるが、モノ作りという意味では同じで、サプライチェーンの課題はどの業界でもあるし、ブランド作りという点では共通項は多いという。岡田CSOはファッション業界にポジティブな力があると可能性を見いだしている。「ファッションは消費者が代弁するツールでもある。信念を持って取り組んでいるブランドを知ることは今の時代いくらでもできるし、そうしたブランドを買いたいと思う消費者は今後増えていくだろう。それは私たちがどのように活動して、働きかけていくかにもかかってくるし、ポジティブにコミュニケーションをしていけば新しい価値観が構築できて、新しいビジネスをつくっていけるはず」。

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