ファッション

「ヨウジ」に称賛を送り「エルメス」「パコ ラバンヌ」に心打たれる 仏メディアはパリコレをこう見た

 未来は予測不可能である――パンデミックの経験から得た教訓の一つだ。まさかこれほど静かなシーズンになるとは予想していなかった。3月のパリ・ファッション・ウイークの時点では、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアジアからの渡航者こそ少なかったものの、フランス国民は対岸の火事として楽観的に捉えていた。医療崩壊の危機が迫り、ロックダウンが施行されたのはパリコレが閉幕したわずかその数日後である。夏には落ち着くかと思われたが、9月には第2波を警戒して渡航制限が行われ、10月にはまたロックダウンが始まった。生活の自由が再び奪われたことで、未来に希望を抱くことさえ諦めかねない暗いムードが街を覆った。そんな異例の状況下で、2021年春夏シーズンのパリコレは開催された。デザイナーは自宅でどのようにクリエーションを磨き、リモートで制作したのだろうか。リアルのショーに参加した仏メディアの講評を抜粋した。

YOHJI YAMAMOTO
「いつものように、心地よい喪失感」

 変化を強いられる社会環境下で、人々はファッションの“変わらない価値”に安心感を覚えるようだ。「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」と「シャネル(CHANEL)」はその点で評価が高かった。山本耀司デザイナーは、リスク覚悟で日本から約11時間のフライトを経てパリでショーを行った。ショー翌日の10月3日に77歳の誕生日を迎えたベテランのアクションに、称賛の声が寄せられた。仏新聞紙「ル フィガロ(Le Figaro)」は「いつものように、心地よい喪失感に満ちていた。いつものように、フィナーレでデザイナーは幸せそうな顔で挨拶した。ビズ(挨拶や祝意を表して行われる頬を付け合わせる行為)は控えなければならないが、祝福に値する価値ある内容だった」と表現した。仏ウェブメディア「ファッション・ネットワーク(FASHION NETWORK)」のゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)は「ドレープの芸術的技術を習得している人物は山本耀司以外存在しない」と唯一無二のクリエーションを称えた。さらにディーニーが山本デザイナーに渡仏を躊躇したかを聞くと「いいえ、全く。パリコレが行われると聞いてすぐ『よし、行こう!』と言いました」と答えたと綴っている。山本デザイナーは1981年に初めてパリでショーを行い、来年で40年目を迎える。心意気と技術と継続する力、そしてデザイナーとしての生き様に脱帽した。

CHANEL
「派手ではないが、時代を超越している」

 「シャネル」は通常2000人の招待客を500人に減らし、例年通りグラン・パレを会場に選んだ。施設は間もなく大規模な改修工事に入るため、現在の様相で行われるのは今季が最後となる。10月1日からパリのガリエラ美術館では、創設者ガブリエラ・シャネル(Gabrielle Chanel)の回顧展が開催されており、約350点のアーカイブが展示されている。クリエイティブ・ディレクターのヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)はショー開催までにすでに2回も訪れたという。創設者シャネルが築いた知的で実用的、エレガンスのアプローチは、ヴィアールによって今季の「シャネル」で見事に表現された。仏新聞紙「ル・モンド(LE MONDE)」は「ツイードや白黒カラーの遊び、ロゴの流用は全てブランドが信頼を置く柱である。今回のショーでは、何十年にも渡ってスタイルに一貫性をもたらす『シャネル』コードの強さを強調した。パッチポケットが付いた黒いスーツスカートのように、最も美しい作品は派手ではないが説得力があり、時代を超越している」と評価した。「ファッション・ネットワーク」はヴィアールの言葉を掲載。「若返りを求めたり、20歳の女性に50歳の成熟さを表現してほしいとは思いません。みんなガブリエラ・シャネルになってほしいだけなのです。私は常に“彼女はこれを着るだろうか?”と自問しています」と、創設者が自分の着用したい服を作り続けたクリエーションの背景に立ち返ったことをヴィアールは語った。「ロブス(L’OBS)」のソフィー・フォンタネル(Sophie Fontanel)もコレクションがブランドのDNAを継承していると評価した。「カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)のようなユーモアに溢れた現実逃避の魔法はないが、それは問題ではない。人々がアパートかホテルの部屋にこもっている今、ファンタジーへアクセスするよりも、これらの衣服を着用したいという現実的な欲求を呼び起こす。それは生きる欲求でもある。ヴィアールは創設者シャネルが提唱した“欲望の目覚め”を継承しているのだ」。

CHLOE
「ロックダウン中に才能を解放したかのよう」

 「クロエ(CHLOE)」と「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」も、シンプルに着てみたいという欲求を掻き立てるリアルクローズだった。特に「クロエ」は演出も素晴らしかった。パレ・ド・トーキョーの会場周辺の道を歩いたり、会話を楽しんだり、セーヌ川を見るモデルを隠し撮りしたようなリアルタイムの映像が会場中央の巨大スクリーンに映し出された。会場内に四方八方から人が入場し、中央で交差する様子はパリの街角の風景とオーバーラップした。「ル・モンド」は「着用しているのはファッショナブルな未知の衣服ではなく、日常生活向けに構成された巧妙なアイデアが光る服。慣れ親しんだそれらを観察していると、自分自身を簡単に投影することができた」と綴った。コレクションとショーの演出はパリの街並みを恋しくさせるとともに、日常がいかに尊い存在であるかを物語っているようだった。「ロブス」のフォンタネルも「身近な衣服は実生活という意味で美しかった。まるでロックダウン中にナターシャ・ラムゼイ=レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)は隠していた才能を解放したかのようだ。リブニット、コットンチュニック、ワイドパンツなど全部着てみたい!」と、欲求を相当くすぐられたようである。個人的にはクリエイティブ・ディレクター、ラムゼイ=レヴィによる衣服とスタイリングは柔らかさと強さ、反抗的な精神が伴っていて好きなのだが、ビジネスの核となるバッグやシューズのアクセサリーにアイコニックで売れ筋となりそうなアイテムがまだ見当たらないことが懸念点である。

PACO RABANNE
「これは連想ゲームである」

 「パコ ラバンヌ」クリエイティブ・ディレクターのジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)の評価は右肩上がりである。売り上げは17年から2年で3倍に伸ばし、今年3月にはパリのフォーブールサントノレ通りにテクノロジーを生かした新コンセプトの店舗をオープンした。前季はジャンヌ・ダルクに着想を得た幻想的なコレクションだったが、今季はドッセーナがロックダウン中にパリの日常に思いをはせ、街中で見かけるパリジェンヌの装いに着目したリアルクローズを披露した。「ル・モンド」は「これは連想ゲームである」と説明する。「色落ちしたジーンズはスーパーマーケットへ行くためのもので、スリットが入ったスカートは友人とアペリティフを楽しむため、テーラードジャケットは仕事の面接を受けるためなど、日常を思い起こさせる」。またランジェリーを日常着として着用するアイデアはフェミニズムの観点から批判を受けることもあるが、これにはデザイナーの強い意志が込められていたようだ。ドッセーナは同紙に対し「『パコ ラバンヌ』の一貫したテーマは女性を力強くすること。誇張された曲線と少し攻撃的な装いで女性らしさを意識しました。他人の好みに従わず、自分が好きな服を着用する勇気のある女性と対話しているのです」と述べている。その言葉通り、内側からにじみ出す官能とそれを楽しむ女性像が表現されていたし、ナチュラルなメイクと無造作なヘアがその雰囲気をさらに後押しした。ショーの後、エディ・スリマン(Hedi Sliman)が「セリーヌ(CELINE)」のデビューコレクションで披露したミニスカートや、胸元が大きく開いた服に対してアメリカのジャーナリストは「フェミニズムを侮辱している」と批判したのに対し、フランスのジャーナリストは「女性は自分のために好きな服を着たいだけ」と擁護した一件を思い出した。今季の「パコ ラバンヌ」のコレクションに対しても、賛否両論が起こっているのかもしれない。

HERMES
「これまで前例のない官能性」

 「パコ ラバンヌ」とは異なる手法で官能性を表現したのは「エルメス(HERMES)」だ。アメリカのジャーナリストに批判する余地を与えないほど、極めて上品に官能さが香り立つコレクションであった。仏新聞紙「ル・フィガロ(LE FIGARO)」は「厳格さと官能性を併せ持つコレクション」だと述べ、「最上級に上質な素材を用いているにもかかわらず冷たさはなく、親しみと温かさを持つ内容だった。確固としたエレガンスへの意志と、自由で柔軟な女性像を呼び起こす」と称賛した。「ル・モンド」も同様の見解のようだ。「背中の美しさを惜しみなくあわらにし、ローカットのボディースーツが腰を露出し、ストラップ付きのスリットスカートが脚を解放し、柔らかい革は女性特有の曲線的な身体を抱きしめる。ベーシックなカラーと上質な素材で心地良く、これまで前例のない官能性が表現されている」。

 ナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキー(Nadege Vanhee-Cybulski)「エルメス」アーティスティック・ディレクターは今回、12人の親しいアーティストと共にコラージュ作品を制作して会場を装飾した。このようなコラージュのアイデアは「クロエ」や「ディオール」など、今季のパリコレで多く見られた。コラージュは、異なるもの同士を調和させる手法である。人々の視点や思考も分断するものではなく、調和させることで再び新しい形が生まれるーー私たちがこれから向かうべき世界を示唆しているのではないかと感じた。

ファッションが教えてくれた希望の力

 今年を振り返ると、噛み合わないファスナーをいつまでもこねくり回して時間を無駄にしたような気分だった。きっと、自分の手には負えない問題にばかり気を取られていたからだろう。現在も新型コロナウイルスやテロの脅威が迫っているため未来を楽観することが難しく、不安は大きくなるばかりだ。パリコレでもなじみの人々に会えず、街の静けさに空虚さを覚えることもあった。しかしパリコレが終わってみると、充実感と希望でいっぱいになっている自分がいた。理想とするパリコレではなかったかもしれないが、ときに現実は理想よりも素晴らしいこともあるのだ。プレゼンテーションを行った「ロエベ(LOEWE)」の芸術美に涙しそうになった。「ロンシャン(LONGCHAMP)」がパリの日曜のブランチを再現した演出で心に平穏がもたらされた。「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」の魔法がかかった空間で白昼夢にひたった。コレクションの良し悪し以上に、その背景にある“理想を求めて何かを生み出そうとする人々の力”に心を揺さぶられた。この先もしばらくは未来への不安が消えることはないだろう。しかし明日に期待し、理想の実現に向けて進む過程は決して無駄にはならないということをファッションは教えてくれた。現在が過去になる頃には良い思い出、悪い思い出、心が引き裂かれた経験の全てを寄せ集めて、自分なりの美しいコラージュ作品ができるのだろうか――今は未来に希望を持ちたい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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