ファッション

デジタル・コレクションの賛否両論 海外ジャーナリスト6人が予想する今後のファッション・ウイーク

 6月に開催されたメンズのデジタル・ファッション・ウイークを海外のファッション業界人はどう見たのだろうか。パンデミックを機に、ファッションショーはデジタルという手法で世界中の人に開放された。ポジティブな面もある一方で、ファッションショーの目的やジャーナリストの役割にも変化が起きている今後のデジタル・コレクションの可能性や課題について、各国ジャーナリスト6人の見解を聞いた。

「犠牲はファッションに魅了されるための魔力」
アレキサンダー・フューリー/「フィナンシャル・タイムズ」「アナザー・マガジン」

Q.デジタルのショーやショールームを体験した感想は?

怒濤のスケジュールではあるがショーを見逃すことはなく、リンクをクリックするだけで全てがそこにある便利さは言うまでもない。しかし、直接取材できないことがこれらの長所を打ち消している。ジャーナリストとして、間接的に話すことの大変さに気付かされた。電話やZoomでの取材は対面のそれとは大きく異なり、効率的かもしれないが、妥協でもあると感じた。ファッションにはコミュニティーがあり、人々はそれを愛し、夢を見ているから。私はその感覚を恋しく感じた。 

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「ディオール(DIOR)」でのキム・ジョーンズ(Kim Jones)のフィルムとドキュメンタリーの組み合わせは、深みと豊かさをもたらせた。またオンラインとフィジカルを融合したジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の能力の高さが「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」と「ロエベ(LOEWE)」の両方で際立っていたし、「プラダ(PRADA)」も、ブランドの精神を反映した5つの異なる見せ方で新たな可能性を示してくれてうれしかった。「エルメス(HERMES)」はパリのアトリエで撮影した美しい動画だった。クラフトを優先し、甘くエレガントで、服の軽やかさが画面でもはっきりと知ることができた。

Q.今後もデジタル・コレクションは継続してほしい?

デジタル・コレクションは私にとって有益なトレーニングになったと考えている。不満を言うことは控えたい。私たちは、狂気的なスケジュールや遠方への移動、長い日中と短い夜というリアルなファッション・ウイークでは当たり前の状況に嘆き、苦しんできた。でも「その犠牲はファッションに魅了されるための魔力」なのだと伝えたい。みんなが安全な状況で集まり、素晴らしく感動的で有意義なファッションショーを見ることができるようになるのを待ちきれない。私がファッションを愛する理由はそこにあるからだ。

「ショーの価値を再考する機会に」
カティ・チトラコーン/「ヴォーグ・ビジネス」

Q.デジタルのショーやショールームを体験した感想は?

ブランドがショーの価値を再考する機会になるだろう。消費者もよりイベントにアクセスしやすくなり、ファッション業界の排他性が低下して民主化が進むと考えている。ただ、デジタルのショーをフィジカルのイベントの感覚と置き換えることはほぼ不可能だ。一部のブランドは実際に服を見るのが難しく、消費者に役立つかどうかも疑問だった。ほとんどの大手ブランドはこの状況が落ち着くのを待って、ファッション・ウイークは再び通常通りに戻るのではないだろうか。

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「エルメス」「ジェイ ダブリュー アンダーソン」「ロエベ」だ。「エルメス」はクラフト感を優先した映像で、甘くエレガント、かつ軽快で、画面で服をはっきりと見ることができた。通常は見られないアトリエの中が見られたのもよかった。「ロエベ」は、プレスやバイヤーにはエレメントを詰めたボックスを送り、消費者にはソーシャルメディアや公式サイトで24時間のストリーミングコンテンツを配信して、全方位を完璧に網羅していて感心した。

Q.デジタル・コレクションを体験して感じたメリットとデメリットは?

デジタルのショーは資源や関わる全ての人の時間を節約する。しかし、オンラインに格納されて急いで見る必要がなくなる分、インターネット上の全てのコンテンツが競合関係となる難しさもある。「ファッション・ウイークは誰のために開かれるもの?」という議論が、世界で加速していくだろう。ケリング(KERING)の「グッチ(GUCCI)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、秋のファッション・ウイーク参加を見送り、コレクションのスケジュールを再編する意向を表明しているものの、今後はほとんどのブランドが状況が落ち着くのを待ち、ファッション・ウイークは以前のように戻るのではないかと思う。

「デジタルに置き換えることはできる」
マキシム・ルテイヨ/「アンチドート」

Q.デジタルのショーやショールームは今後も継続してほしい?

リアルのファッション・ウイークはたくさんの人に出会うきっかけになるし、感情を揺さぶる力を持っているから大好きだ。でも、それらをデジタルに置き換えることだってできると考えている。フィジカルなショーには巨額の資金が必要で、若手デザイナーにはハードルが高い。でもデジタルであれば彼らのコレクションを多くの人に見てもらうチャンスが広がる。また環境に配慮した物作りを推進するならば、参加するイベントについても同様に考えるべきだ。

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」は映像とショールームでのプレゼンテーションを活用した見事な対応だった。ビデオプレゼンテーションではデザイナーのグレン・マーティンスがスタイリングをいくつも披露してくれて、わかりやすかった。リアルのショーでここまでの奥行きを見せるのは不可能だと思う。

Q.従来のファッション・ウイークのあり方についてあらためて考えたことは?

まず、メンズとウィメンズは一つにまとめるべき。時代が変わっているので、別々に開催することの意味はますます薄れていくだろう。統合することで、世界のジャーナリストやバイヤー、インフルエンサーの移動も少なくなる。

「インフルエンサー頼みではなく本質を考えるきっかけに」
ロッティ・ホウ/中国版「フォーブス」「エル」「ヴォーグ」

Q.デジタルのショーやショールームを体験した感想は?

移動の労力と時間がかからず、ストレスが少なくてよかった。ブランドにとっても、自分たちがどこを目指すべきかを考えるきっかけになったのでは。インフルエンサーの目を引くだけではなく、新しい技術で本質をどう伝えるかを考えて取り組めたはずだ。一方で、ファッションは特権的であるともあらためて思った。全てがデジタル化し、世界中の誰もがファッション・ウイークに参加しても、大衆のマーケットがファッション業界を先導するとは思えないし、フィジカルなショーの魅力をバーチャルの便利さと置き換えることは私にはできなかった。

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「エルメス」のショーはライブストリーミングの面白さがあった。チーム全体がどのように連係したか、スタイリストがモデルに服をどう着せたか、ディレクターがどう指揮しているのかなどを確認できた。とても興奮したし、緊張感もあった。

Q.デジタル・コレクションを体験して感じたメリットとデメリットは?

ファッション・ウイークのデジテル化は、ファッション業界に必要な革命だったと思う。予算が少ないブランドもチャンスが広がっただろう。ショールームにはさらに適している。バイヤーやジャーナリストは服を見られる機会がさらに増える。しかし現状はリアルと置き換えるものではなく、デジタルはあくまでリアルを補完するものである。次の革命が起こるまで、リアルとデジタルは共存していくだろう。

「ベッドの上で体験するクチュールには違和感」
キャサリン・コリングス/「フー・ワット・ウェア」

Q.デジタルのショーやショールームを体験した感想は?

世界中からでも誰でも参加できることは、明白なメリットだ。デザイナーがデジタル化に挑戦しているのもよかった。大きな変化は、独創性や新たな視点をさらに磨いてくれるから。ただリアルのショーでの魔法のような経験は、デジタルに置き換えられるものではない。ソーシャルメディアでは視聴者が集中して見られる時間は短い。私の拠点はアメリカ西海岸なので、時差も辛かった。ベッドの上でクチュールの美しさを体験するのは違和感があった。

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「シャネル(CHANEL)」「バルマン(BALMAIN)」「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」は見事だった。「シャネル」はコレクションのムードと職人技に対する理解を深めるのに役立つ素晴らしい内容だったし、「バルマン」の映像からは強いエネルギーを感じた。セーヌ川を下るボートの上をランウエイにし、パリの人も喜んだのではないだろうか。デザイナーのオリヴィエ・ルスタンの若々しさも魅力的だった。「ジャンバティスタ ヴァリ」は催眠術のような映画仕立てで、ほかの多くのブランドよりも完成度は抜きんでていた。

「今後は服のデザインだけでは通用しない」
ユラ・オウ/韓国版「デイズド」

Q.デジタルのショーやショールームは今後も継続すると思う?

世界が大変な状況だが、それでもフィジカルなショーは続くと考えている。韓国・ソウルだと時差があり、就寝前にスマートフォンでコレクションを見ていた。一部のブランドは事前に契約を結んだり、承認が必要だったりで、アクセスが非常に困難だったため、混乱した。でも今後は、ブランドのクリエイティブ・ディレクターはデジタルコンテンツ制作を担う必要があると感じた。服のデザインだけでは通用せず、あらゆる表現方法をビジネスにどうつなげるかを考えなければならない。

Q.デジタルに対応したベストブランドは?

「プラダ」は何十年にもわたってショーを行ってきたが、今回発表したムービーの最後に残した“The Show That Never Happened”という字幕が強烈だった。ミウッチャ・プラダがいつものショーのように挨拶に出てきたとき、彼女にまた会いたいと強く思わされた。5人のアーティストがそれぞれの解釈で異なる「プラダ」を表現したのも興味深かった。ほかにも「ジェイ ダブリュー アンダーソン」から届けられたキットにはデザイナー自身の誠意を感じたし、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」もよかった。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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